上 下
98 / 128
第二章 ガイノイドが管理する街々

098 迷宮遺跡掌握

しおりを挟む
「ふう。やってやったデスよ」

 それから更に少しして。
 リノリウムの床に膝を突いたまま微動だにしなくなってしまった人型機獣達の間をかき分けるようにしながら、アテラがマグ達の下に戻ってきた。
 オネットの口調は既に決着がついたと言わんばかりだ。

「何をしたんだ?」
「私の超越現象PBP断片フラグメント、忘れたデスか?」

 自慢げに質問に質問で返してくるオネットに、彼女の力を思い出す。
 支配の判断軸アクシス・統率の断片フラグメント
 それに基づいた超越現象PBPは機械装置を自らの制御下に置くもの。
 と言うことは、つまり――。

「もしかして、この迷宮遺跡を掌握したのか?」
「その通りデス」

 マグが問い気味に確認すると、彼女が肯定するのに合わせてアテラが頷いた。
 以前、オネットが秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを襲撃した際、彼女はいくつかの迷宮遺跡を利用して巨大機獣ティアマトや多数の尖兵を生産していた。
 それを考えると、確かに不可能な話ではないだろう。
 だが、前に聞いた限りでは、その力を発動させるには対象との物理的な接触やネットワークの接続が必要だったはずだ。

「どこから……?」
「実はさっきアテラさんにお願いして、あの大量の人型機獣を運搬してくる大型エレベーターをぶち抜いて生産工場に突っ込んで貰ったデスよ」

 オネットの返答に合わせ、成果をアピールするように胸を張るアテラ。
 先程までの緊迫した状況とのギャップに空気が緩む。
 マグもまた緊張を和らげて微笑みをこぼした。
 そうしている間にもオネットは説明を続ける。

「リアルタイムで機獣の仕様変更をしている以上、生産工場は間違いなく管理コンピューターとの間にネットワークを構築してるはずデスからね」
「成程な」

 迷宮遺跡に侵入した者達の能力を見極め、それを人型機獣に反映する。
 監視の目がどこに存在するかは不明だが、得られた情報を生産工場に伝えるラインは存在していなければ道理に合わない。
 オネットはそれを逆に利用し、管理コンピューターをクラッキングした訳だ。
 ……人型機獣や地上の施設からは行えなかったところを見るに、その部分には中枢と繋がるネットワーク環境はなかったのだろう。

「まあ、でも、正直なところ大分ギリギリだったデスよ」
「どういうことだ?」
「もう少し遠かったら【アクセラレーター】の稼働限界時間以内に迷宮遺跡を支配することはできなかったのデス」

 人型機獣から情報を得た時点で、大まかにはプランは立てていたのだろう。
 しかし、距離と時間の問題で最低限大広間まで来なければならなかった訳だ。
 恐らくオネットとしては、安全を見てより近くから行いたかったに違いない。
 待ち構えていた人型機獣の戦力が想定以上で、やや成功率が低いところで実行に移さなければならなくなってしまったようだが。
 現状のマグ達にこれ以外の攻略法はなかっただろうから、やむを得ないと言えばやむを得ない状況ではあった。
 撤退という選択肢はあったが、そうしたとしてもいずれは対価の情報を得るために同じことをしなければならなくなっていたはずだ。
 初回だけで済んだ訳だから、結果としては悪くない選択だったと言えよう。

「それより、最深部に物凄いものが眠ってるデスよ」
「も、物凄いもの?」

 人型機獣よりもヤバい敵でも存在しているのかと警戒を抱く。
 すぐ傍にいるフィアとドリィもまた表情を引き締めた。
 しかし――。

「お宝デス!」

 続くオネットの言葉に、マグは思わずズッコケそうになった。
 勝手に勘違いした方が悪いのだが、無駄に緊張してしまった。

「……で、お宝ってどんな?」
「それは見てのお楽しみデス」

 マグの問いに対し、フフフと意味ありげな笑い声を発するオネット。
 そんな彼女の様子に小さく嘆息し、問いかけるようにアテラに視線を向ける。

「ええと、その。悪いものではありませんので……」

 粗方脅威がなくなったと判断したからか、ほんの少しだけ申し訳なさそうにしながらも彼女はオネットに乗っかった。
 マグに害がない時や何か理由がある時は、アテラは割とこういうことをする。

「ともかく、後は最深部まで一直線デスよ」

 急かすように言うオネットにもう一度溜息をつく。
 いずれにしても、行けば分かるだろう。
 先導するように歩き出したアテラの後についていく。
 念のため、フィアのシールドは張ったまま。
 大型エレベーターの昇降路から一気に降り、音のしない通路を進んでいく。
 更に何度か階段を下って最下層へ。
 その奥。本来ならば最終防衛ラインだったであろう大広間を抜けると、比較的小さな部屋に至った。ここが最深部らしい。

「これが、お宝?」
「そうデス。今後の情勢を左右するカギなのデスよ」

 先程までとは打って変わって真剣な口調で告げるオネット。
 そこにあったのは、何本もの導線が繋がった棺のような箱。
 そして、その中には少女の形をした機械人形が収められていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...