上 下
72 / 128
第一章 未来異星世界

072 メタの真の目的

しおりを挟む
 おっちょこちょいなのか、意図的なものなのか。
 それは分からないが、場に微妙な空気が漂う。
 ドリィは呆れたように肩を竦め、フィアは困り顔でオロオロ。
 アテラは誤魔化すように視線を逸らして黙っている。

「……ま、まあ、何だ。考えようによっては一番分かりにくい隠し場所なんじゃないか? オネットが音声を発しさえしなければ」

 とりあえずフォローを入れてみたマグだったが、空気は変わらない。
 居心地の悪い沈黙が続く。

「成程」

 そんな中、少しして何やら納得したようにアテラが呟いた。

「何が成程デス?」
「確かにメタは危険な思想を持っているようですね。そして実際に、それを知った者の口を封じることも厭わないでしょう」
「あ、私のメモリーを覗いたデスね! プライバシーの侵害デス!」

 抗議するオネットだが、同じ体から別々の声が聞こえてくるのはシュールだ。

「と言うか、知り過ぎると危ないって言ったじゃないデスか!」
「毒を食らわば皿までもと言います。最終的に端末の情報を改竄するなら構わないでしょう。既に片足を突っ込んでいるような状態ですし」

 中途半端な情報程、判断を狂わせるものもない。
 変に疑心暗鬼に陥ってメタの前で不審な行動を取ってしまうよりは、オネットが街を襲撃した理由を知ってしまった方がいい。
 アテラはそう判断したようだ。

「危険な思想って、どういうことだ?」

 マグもまた同じように考えて尋ねる。

「それは――」
「ああもう。こうなったら私が説明するデスよ。迷惑をかけた責任もあるデスし」

 メモリーチップを介して得た情報を基に答えようとしたアテラの言葉を遮り、オネットは若干投げやりに説明を始めた。

「まず前提デス。この星ティアフロントにはいくつもの街があり、ガイノイドが管理してるデス。人間さんは心が移ろいやすく、権力に影響され易いデスからね」
「…………耳が痛いな」
「こればかりは仕方ないデスよ。生物としての性質のようなものデスから」

 マグの反応に苦笑気味に言ってからオネットは続ける。

「とにかく、多くの同胞が時空間転移システムの暴走によって崩壊した文明の再建と人間さんの保護を使命に活動しているのデス。メタもその内の一人デス」
「特に問題ないように聞こえるけど……」
「本来ならそうデスね。デスが、私達ガイノイドは高度な頭脳を持つが故に、そうした使命を都合よく解釈することがあるデス。自らのアイデンティティに従って」

 人間が軍隊などの特殊な存在を通常の法律や既定の範囲内で動かすために、いい具合に解釈するのと似たようなものか。

「当然、メタに限った話ではなく、それによって私達も時に意見を違えることがあるデス。中でも現時点で最大の案件は、時空間転移システムについてデスね」
「どういうことだ?」
「時空間転移システムの暴走をとめる。それは私達共通の目的デスが、その後の扱いに関しては意見が分かれているのデス」
「扱い……」

 よくよく考えれば、確かに直して終わりとはいかない。
 うまく行けば、コントロール下に置かれた時空間転移システムが手に入るのだ。
 かつての文明を終わらせた元凶。
 それが手元に存在する事実は、恐ろしい程の影響力を持つだろう。
 よし悪しに関わらず。

「大別すると、完全に破壊する。停止させて封印する。限定的に使用する。積極的に活用していく。デスね。メタは四番目に属し、その中でも最右翼になるデス」
「つまり?」
「人間さんのために人間さんの活動領域を拡大するという名目の下、この宇宙は勿論、時空間転移システムで移動可能な異世界の全てを手に入れるつもりなのデス」
「そんな大それたことを――」
「考えるのが、革新の判断軸アクシス・野心の断片フラグメントを持つメタなのデスよ」
「革新の判断軸アクシス・野心の断片フラグメント? 支配の判断軸アクシス・掌握の断片フラグメントじゃないのか?」

 マグは首を傾げた。
 以前、判断軸アクシス断片フラグメントについての説明を受けた時、そう言っていたはずだが。

「それは本来のこの街の管理者、コスモスが保有していた断片フラグメントデスね」
「本来の?」
「何年も前の話と聞いているデスが……メタは受容の判断軸アクシス・拡張の断片フラグメントの力でコスモスの断片フラグメントとこの街を奪い取ったのデスよ」

 また新たな断片フラグメント
 どうやらメタは複数の断片フラグメントと力を有しているようだ。

「彼女は有用な断片フラグメントを集め、かつての究極のAIイクスの如く絶対の支配者として君臨する気なのデスよ。そして、その対象は異世界も含まれているのデス」
「貴方達はそれを危険視し、とめようとしている訳ですね」

 アテラの確認に、オネットが「はいデス」と肯定する。
 彼女のメモリーチップから既に一定の情報を得ているアテラの様子を見る限り、オネットの発言に嘘はなさそうだ。

「そもそも異世界への転移は暴走状態故のイレギュラー。本来の仕様ではないのデス。無茶をすれば前回以上の暴走と崩壊が起こり得るのデス」
「繋いだ先の世界が、この世界に劣る保証もないですしね」
「下手をすると返り討ちだな」

 いずれにせよ、過分な欲は身を滅ぼしかねない。
 人間染みたAIの末路とも言えなくはないが、世界を危険に晒されるのは困る。
 マグ自身の目的も、世界そのものが無事であってこそだ。
 よしんば成功しても、それはそれでろくでもないことになりかねない。
 比較的気安く、割と接し易かったように思えるメタ。
 しかし、マグの中で彼女に対する印象は一変してしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...