EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

文字の大きさ
上 下
71 / 128
第一章 未来異星世界

071 メモリーチップ

しおりを挟む
 気づくとマグは街から離れた草原に転がっていた。
 シールドは健在。
 すぐ傍にはフィアとドリィの姿がある。
 この二人は細かな傷が散見されるものの、大きな問題はなさそうだったが……。
 若干離れた位置にいたアテラは、下半身と両腕がぐちゃぐちゃに潰れていた。

「アテラ!」

 マグは慌てて駆け寄り、自身の超越現象PBPで彼女を修復した。
 幸い脱落したパーツは全てシールド内に残存していたため、問題なく元に戻すことができたが、今までで最も大きな損傷具合に思わず冷や汗をかいてしまった。

「ありがとうございます。旦那様」

 一息ついたように感謝を口にするアテラ。
 恐らくはティアマトに弄ばれていた時から、タングステンプレートがマグ達を傷つけないように抱え込んで必死に制御してくれていたのだろう。
 刃とまではいかないが、比較的薄い板状のそれ。
 もしシールドごとシェイクされていた時に一緒になって無秩序に転がり回っていたら、全員ミキサーにかけられたようにズタズタになっていたに違いない。

「こっちこそ助かった。ありがとな。アテラ」
「いえ、私がそうするのは当然のことです」

 アテラはディスプレイを僅かな間だけ緑色に輝かせ、それから警戒の黄色に戻す。
 マグもまたそれを見て気持ちを引き締め直した。
 今はまず、状況を把握しなければならない。

「オネットとティアマトは……」

 改めて辺りを見回す。
 すると、半透明のシールドから透けて見える草原のあちらこちらに、機械仕掛けの竜の砕けた部品が散らばっているのが目に映った。
 オネットは自動修復機能が存在するように言っていたが、変化がないところを見ると完全に機能が停止してしまったようだ。
 そんな中。
 残骸が多く纏まっている場所があり、そこから僅かに物音がした。
 アテラ、フィア、ドリィと視線を交わし、互いに頷き合ってからそちらに近づく。

「旦那様、【アブソーバー】が起動したようです」
「電波障害も発生してるみたいね。短距離無線通信が不安定だわ」
「…………彼女の仕業か?」

 二人の報告に、地面に転がる残骸に目を向けながら問い気味に呟く。
 ホログラムで見た、桜色が印象に残る少女。
 あの姿は見る影もなく、胸から下が全て失われている。
 整った顔の人工皮膚も半分以上が剥がれ、破損した機械が露出してしまっていた。 もはや、よく頭部が形を保っていたと思うぐらいの損傷具合だ。
 これでは、たとえ復元しようとしてもマグにはどうすることもできない。

「どうやら、失敗してしまったみたいデスね」

 そのオネットは外見の凄惨さに反して変わらぬ口調と共に言葉を発した。

「全く。あんなものまで持ってたとは思わなかったデス。どこかの遺跡から持ってきたのか、秘密裏に作っていたのか。腐り果ててもイクスの継承者の一人デスね」

 続けて深く嘆息するように言う。
 街を襲撃するという大それた真似をした者には思えない態度だ。

「何故、こんな真似をしたんだ?」
「…………それを聞く覚悟はあるデスか?」
「どういうことだ?」
「私達の目的を聞いてしまったことをメタに知られたら、処分対象として追われることになるのデスよ。彼女にとって不都合な話デスからね」
「……その発言自体、既に際どいのではありませんか?」

 横からアテラが反感と共に口を挟む。
 確かに、そんな物騒な話なら掠っただけでアウトになりそうではある。

「そうデスね。通信は妨害してるのでリアルタイムでは知られないはずデスが、後から端末の記録を抜かれたら限りなくアウトに近い状態になりかねないデス」

 あっさり肯定したオネットに、隣でアテラがディスプレイを真っ赤に染める。
 彼女が意図的にマグを危険な状況に追いやったと判断したようだ。

「そう怖い顔をしないで欲しいのデスよ。ちょっとした交渉がしたいのデス」
「…………内容は?」

 マグは怒り心頭のアテラを制しながら問うた。
 状況的に無視できなかったこともそうだが、オネットに敵意が欠片もなく声色に申し訳なさが感じられ、そこまで強い悪感情が湧かなかったからだ。

「簡単な話デス。私のメモリーチップを向学の街・学園都市メイアにいる街の管理者ローフェのところに持っていって欲しいのデスよ」
「……つまり、この騒動は街同士の争いということですか?」
「そこ、気づいちゃったらまずいところなんじゃない?」

 確認するようなアテラの問いに、ドリィが呆れ気味の声を出す。
 とは言え、人間よりも察しがよくて色々な意味で素直なガイノイドのアテラ。
 気づかずにスルーすることはできなかったのだろう。

「そうデスね。気づかなかったことにする方がいいデス」
「……いや、端末の記録に残ってるんだろ?」
「そこで要求の対価デス。私が持つ支配の判断軸アクシス・統率の断片フラグメントで端末を操作して情報が伝わらないように改竄してあげるのデスよ」
「そんなことができるのか?」
「はいデス」

 頷くことができない代わりにと言葉で肯定するオネット。
 そういうことであれば助かるが……。
 最初から、それに頼らせるためにメタについての情報を一部明かした訳だ。

「……貴方のその力。私達を支配することも可能なのでは?」

 多数の機獣を操る力を危険視し、やや強い口調で問い質すアテラ。
 確かにオネットの超越現象PBPならできてしまいそうだ。
 しかし――。

「私はメタとは違うデス。そんな恥知らずな真似、できる訳がないデス」
「貴方の目的より大事な拘りなのですか?」
「その頑なさを失ったら、ガイノイドとしての矜持すら失うデスよ。そんなことをすれば下手をすると自我が崩壊してしまいかねないのデス」

 ガイノイドとして自己に規定した存在意義に矛盾するのだろう。
 AIであるだけに、そうした葛藤が人間以上に精神に致命的な場合もある。
 己の信念に反した行動に対する制限は、人間よりも強力と言えるだろう。
 実際、それをやる機会は襲撃を始める前にいくらでもあったはず。
 やらなかったのは彼女自身の意思だ。

「どっちみち、選択肢はないんじゃないか?」
「……そうですね。分かりました。であれば、まずは私の中にある端末から始めましょう。フィア、ドリィ。もし私がおかしくなったら拘束して下さい」

 アテラはマグを自分の事情に巻き込んだオネットを快く思っていないようで、当てつけるように二人に指示を出す。

「……警戒する気持ちは分かるデスが、もう少し信用して欲しいデスよ。貴方達と決定的に敵対してしまったら、困るのは私の方なのデスから」
「そんなことよりも、どうすればいいか言って下さい」
「冷たいデスね……。とりあえず私に触れて欲しいのデスよ」
「分かりました」

 悲しげに告げたオネットに特に淡々と頷いて応じ、手を伸ばすアテラ。
 そして、その手が彼女の頭に触れた瞬間。
 オネットの瞳の奥から光が消える。かと思えば――。

「ちょっと、何してるデスかっ!?」

 何故か、アテラの中からオネットの声が聞こえてきた。
 何やら頭部装甲の一部分が桜色に変化している。

「…………すみません。その、メモリーチップを吸収してしまったようです」

 対してアテラは、少し顔を背けながらバツが悪そうに言ったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...