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最終章 英雄の燔祭と最後の救世
317 そして終わりの始まりへ
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ヨスキ村の実家で母さん特製熊鍋を存分に堪能した翌朝。
一つの部屋で雑魚寝していた中から起き出してきて身嗜みを整える。
昨日はあれから全員参加の花札大会に突入し、テアとアスカの存在を隠していた時間を埋め合わせるように彼女達を中心に騒ぎ通した。
とは言え、ここは科学技術が発達途上な世界の田舎の村。
当然ながら常識的な時間にはお開きとなり、現在の時刻は十分な睡眠を取った上でも太陽がまだ顔を出して間もない頃だ。
今から準備して帰れば、ルトアさんの就業開始時間にも余裕で間に合うだろう。
「では、奴らの下へと向かうとしようではないか」
と、俺の前で仁王立ちの母さんが敵陣に攻め込むような意気込み具合で告げた。
奴らというのはホウゲツ学園にいるトリリス様とディームさんのことのようだ。
国民として最低限の良識によるものか、あるいは父さんに助けられてフレギウス王国からホウゲツに来た辺りで何か恩でもあったのか。
これまでヒメ様達に対しては一定の配慮をしていたはずの母さんだったが……。
救世の転生者たる俺が世界を救う代償とされる可能性が高いことを受け、それを画策している彼女達に強い敵意を抱いてしまっているようだ。
「母さん母さん。気持ちは分かなくもないけど、冷静にね」
一応、理屈としては最小限の犠牲で世界を守るため。
彼女達もやりたくてやっている訳ではないはずだ。
これまで接してきた限り、俺はそう信じている。
あくまでも為政者の立場として、涙を呑んで実行しようとしているに違いない。
それらが全て演技なら、俺の見る目がないとしか言いようがないが……。
いずれにしても、喧嘩腰で話を拗らせても何の得にもならないのは確かだ。
「う、うむ。分かっておる」
そんな俺の言葉に頷いて応じる母さんだが、どことなく目が泳いでいる。
ちゃんと自制してくれるか不安な気持ちになる。
まあ、今日のところは俺も傍にいるし、注意して見ていれば大丈夫だろう。
ともあれ、村の入口で今日もまた朝早くから実直に門番を務めているイザヤさんに軽く挨拶をし、それから俺達はヨスキ村を出立した。
次に帰ってくるとしたら、全てが決した後になるはずだ。
だから一度だけ振り返り、生まれてこの方大きな変化のない故郷の村をしっかりと目に焼きつけてから、一気に加速して空を翔けていく。
「……しかし、イサクの影に入って移動するのも悪くないものじゃな」
父さんが生まれつき持つ複合発露〈擬光転移〉なら光の速度で一瞬だが、余り情緒がないので今回は全員俺の影の中だ。
まあ、そうは言っても数分の違いに過ぎないが、それでも景色の流れをある程度認識することができるという点では大きく異なる。
これもテアとアスカの存在を明かしたからこそ提案できたことで、長距離移動は基本父さんの影の中にいた母さんにとっても新鮮に違いない。
「全部終わったら、皆で色んなところの景色を見に行くのもいいかもしれないね」
「…………そうじゃな。セトも、そしてアロンも共に、な」
そうした未来は全て最後の戦いの結末次第だ。
死亡フラグのようにも思えてしまうが、運命を覆そうという意思を強固にしてくれる理由はいくつ積み重ねてもやり過ぎということはないはずだ。
ここは、観測者の意思の力が望んだ未来を切り開き得る世界なのだから。
「うん。絶対に」
そんな僅かな会話を交わした数分の間に、都会の街並みが見えてくる。
そうして学園都市トコハに帰ってきた俺達は、そのまま真っ直ぐホウゲツ学園に戻ると一先ず補導員事務局に向かった。
時間的にまだ開いていないので、従業員側の入口から中に入っていく。
ちなみに緊急依頼などの際を想定してか、局員の判断で時間外でも補導員を入れていいことになっているので規則的には特に問題はない。
勝手に部外者を入れたとルトアさんが罰せられたりすることはない。
「多分、もうルーフちゃんがいるはずですけど……」
影から出て先導するルトアさんが言った通り、もう一人の受付であるルーフさんは既にカウンターの内側で仕事の準備を始めていた。
FAX的な複合発露を有している少女化魔物ムニさんの分身体を介してトリリス様達とアポイントを取る前に、とりあえず彼女に挨拶をしておくとしよう。
そう考えて、近寄って口を開くと――。
「イサク、トリリス様が呼んでる。ルトアも」
振り返った彼女に、そう普段通りの淡々とした調子で先んじて告げられた。
「……分かりました。ありがとうございます、ルーフさん」
渡りに船と感謝を口にし、そのまま即座に全員で学園長室へと向かう。
当たり前のように、呼ばれてもいない母さん達も一緒だ。
影の中に入っていればいいものを、堂々と先頭を歩いている。
こうなると、複合発露の副次的な作用によってホウゲツ学園内のことをおおよそ把握できるトリリス様ならば、二人が同行していることも気づいているだろう。
しかし、その能力の応用で地下の秘密の部屋に分断して移動させたりしないところを見るに、父さんと母さんが一緒でも問題ないと判断されたようだ。
とは言え、呼ばれたのは俺とルトアさんなので、そのまま先陣を切って学園長室に突っ込もうとする母さんを父さんと一緒に抑えて扉をノックする。
「入っていいゾ」
「失礼します」
いつも通りの定型的なやり取りの後、所定の位置に立つ。
母さんは父さんにお願いして少し後ろに控えて貰い、一緒に呼ばれたルトアさんは俺の隣。その配置で言葉を待つ。しかし――。
「……トリリス様?」
しばらくの間、学園長室は静寂に包まれ、俺は彼女に問い気味に呼びかけた。
改めて不釣り合いな机の奥にいるトリリス様とディームさんの顔を見ると、何故か二人共深い葛藤の中にあるように俯いていた。
不審に思っていると後ろから軽く鼻を鳴らす音が聞こえる。
顔だけで振り返ると、母さんが興醒めしたとばかりに憮然とした表情を浮かべながら腕を組み、明後日の方向に視線を向けていた。
そんな母さんの様子を眺めていると小さな咳払いが耳に届き、顔を戻す。
「申し訳ないのだゾ。状況が状況だけに少し身構えてしまったようだナ」
「状況……?」
気を取り直したように告げたトリリス様に首を傾げ、それから未だ苦渋に満ちた彼女の表情とその言葉を受けて理由に思い至る。
間もなく間もなくと頭の中では考えていたものの、まさか故郷に帰って戻ってきた今日この日にその時が訪れるとは露程も思っていなかった。
だが、そういうことであるならば、二人の強張った顔も不思議ではない。
「ドールの人形化魔物。観測者の破滅欲求の権化。最凶の敵【ガラテア】」
「その居場所が分かったのです……」
仰々しく並べ立てたトリリス様の前置きを引き継ぐようにディームさんの口から告げられた簡潔な言葉は、正しく俺の想定通りで……。
俺もまた二人以上に身を引き締めて、彼女達の話を一言一句聞き漏らさないように意識を集中して耳を傾けたのだった。
一つの部屋で雑魚寝していた中から起き出してきて身嗜みを整える。
昨日はあれから全員参加の花札大会に突入し、テアとアスカの存在を隠していた時間を埋め合わせるように彼女達を中心に騒ぎ通した。
とは言え、ここは科学技術が発達途上な世界の田舎の村。
当然ながら常識的な時間にはお開きとなり、現在の時刻は十分な睡眠を取った上でも太陽がまだ顔を出して間もない頃だ。
今から準備して帰れば、ルトアさんの就業開始時間にも余裕で間に合うだろう。
「では、奴らの下へと向かうとしようではないか」
と、俺の前で仁王立ちの母さんが敵陣に攻め込むような意気込み具合で告げた。
奴らというのはホウゲツ学園にいるトリリス様とディームさんのことのようだ。
国民として最低限の良識によるものか、あるいは父さんに助けられてフレギウス王国からホウゲツに来た辺りで何か恩でもあったのか。
これまでヒメ様達に対しては一定の配慮をしていたはずの母さんだったが……。
救世の転生者たる俺が世界を救う代償とされる可能性が高いことを受け、それを画策している彼女達に強い敵意を抱いてしまっているようだ。
「母さん母さん。気持ちは分かなくもないけど、冷静にね」
一応、理屈としては最小限の犠牲で世界を守るため。
彼女達もやりたくてやっている訳ではないはずだ。
これまで接してきた限り、俺はそう信じている。
あくまでも為政者の立場として、涙を呑んで実行しようとしているに違いない。
それらが全て演技なら、俺の見る目がないとしか言いようがないが……。
いずれにしても、喧嘩腰で話を拗らせても何の得にもならないのは確かだ。
「う、うむ。分かっておる」
そんな俺の言葉に頷いて応じる母さんだが、どことなく目が泳いでいる。
ちゃんと自制してくれるか不安な気持ちになる。
まあ、今日のところは俺も傍にいるし、注意して見ていれば大丈夫だろう。
ともあれ、村の入口で今日もまた朝早くから実直に門番を務めているイザヤさんに軽く挨拶をし、それから俺達はヨスキ村を出立した。
次に帰ってくるとしたら、全てが決した後になるはずだ。
だから一度だけ振り返り、生まれてこの方大きな変化のない故郷の村をしっかりと目に焼きつけてから、一気に加速して空を翔けていく。
「……しかし、イサクの影に入って移動するのも悪くないものじゃな」
父さんが生まれつき持つ複合発露〈擬光転移〉なら光の速度で一瞬だが、余り情緒がないので今回は全員俺の影の中だ。
まあ、そうは言っても数分の違いに過ぎないが、それでも景色の流れをある程度認識することができるという点では大きく異なる。
これもテアとアスカの存在を明かしたからこそ提案できたことで、長距離移動は基本父さんの影の中にいた母さんにとっても新鮮に違いない。
「全部終わったら、皆で色んなところの景色を見に行くのもいいかもしれないね」
「…………そうじゃな。セトも、そしてアロンも共に、な」
そうした未来は全て最後の戦いの結末次第だ。
死亡フラグのようにも思えてしまうが、運命を覆そうという意思を強固にしてくれる理由はいくつ積み重ねてもやり過ぎということはないはずだ。
ここは、観測者の意思の力が望んだ未来を切り開き得る世界なのだから。
「うん。絶対に」
そんな僅かな会話を交わした数分の間に、都会の街並みが見えてくる。
そうして学園都市トコハに帰ってきた俺達は、そのまま真っ直ぐホウゲツ学園に戻ると一先ず補導員事務局に向かった。
時間的にまだ開いていないので、従業員側の入口から中に入っていく。
ちなみに緊急依頼などの際を想定してか、局員の判断で時間外でも補導員を入れていいことになっているので規則的には特に問題はない。
勝手に部外者を入れたとルトアさんが罰せられたりすることはない。
「多分、もうルーフちゃんがいるはずですけど……」
影から出て先導するルトアさんが言った通り、もう一人の受付であるルーフさんは既にカウンターの内側で仕事の準備を始めていた。
FAX的な複合発露を有している少女化魔物ムニさんの分身体を介してトリリス様達とアポイントを取る前に、とりあえず彼女に挨拶をしておくとしよう。
そう考えて、近寄って口を開くと――。
「イサク、トリリス様が呼んでる。ルトアも」
振り返った彼女に、そう普段通りの淡々とした調子で先んじて告げられた。
「……分かりました。ありがとうございます、ルーフさん」
渡りに船と感謝を口にし、そのまま即座に全員で学園長室へと向かう。
当たり前のように、呼ばれてもいない母さん達も一緒だ。
影の中に入っていればいいものを、堂々と先頭を歩いている。
こうなると、複合発露の副次的な作用によってホウゲツ学園内のことをおおよそ把握できるトリリス様ならば、二人が同行していることも気づいているだろう。
しかし、その能力の応用で地下の秘密の部屋に分断して移動させたりしないところを見るに、父さんと母さんが一緒でも問題ないと判断されたようだ。
とは言え、呼ばれたのは俺とルトアさんなので、そのまま先陣を切って学園長室に突っ込もうとする母さんを父さんと一緒に抑えて扉をノックする。
「入っていいゾ」
「失礼します」
いつも通りの定型的なやり取りの後、所定の位置に立つ。
母さんは父さんにお願いして少し後ろに控えて貰い、一緒に呼ばれたルトアさんは俺の隣。その配置で言葉を待つ。しかし――。
「……トリリス様?」
しばらくの間、学園長室は静寂に包まれ、俺は彼女に問い気味に呼びかけた。
改めて不釣り合いな机の奥にいるトリリス様とディームさんの顔を見ると、何故か二人共深い葛藤の中にあるように俯いていた。
不審に思っていると後ろから軽く鼻を鳴らす音が聞こえる。
顔だけで振り返ると、母さんが興醒めしたとばかりに憮然とした表情を浮かべながら腕を組み、明後日の方向に視線を向けていた。
そんな母さんの様子を眺めていると小さな咳払いが耳に届き、顔を戻す。
「申し訳ないのだゾ。状況が状況だけに少し身構えてしまったようだナ」
「状況……?」
気を取り直したように告げたトリリス様に首を傾げ、それから未だ苦渋に満ちた彼女の表情とその言葉を受けて理由に思い至る。
間もなく間もなくと頭の中では考えていたものの、まさか故郷に帰って戻ってきた今日この日にその時が訪れるとは露程も思っていなかった。
だが、そういうことであるならば、二人の強張った顔も不思議ではない。
「ドールの人形化魔物。観測者の破滅欲求の権化。最凶の敵【ガラテア】」
「その居場所が分かったのです……」
仰々しく並べ立てたトリリス様の前置きを引き継ぐようにディームさんの口から告げられた簡潔な言葉は、正しく俺の想定通りで……。
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