召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その2 出世の果てに

閑話 打ち上げの場にて(後編)

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 サッと静かになった宴の中。
 皆が次の言葉を待つなか、静かにあたりを見回したあとオーレガランは言葉を続ける。

「王子は魔法大学における3人の大教授と夜通しの論議の末、卒業しました」
「それは有名な話だな。それで?」

 ディングフレが場を代表して答える。
 それは有名な話だった。いたるところで吟遊詩人が歌うリーダを彩る伝説の一つであり、今では小さな子供でも知る話だった。

「卒業をかけた議論のなか、王子は、かの黄昏の者を呼んだそうなのです。それは王子の研究を示す一つなのか、それともそうではないか……理由は不明です。ともかく、黄昏の者は顕現し、大教授と黄昏の者は言葉をかわすことになった」
「そこで、アレを王子がどうやって制御下においているのかが明らかに?」
「いいえ、ディングフレ様。詳細は不明です。ですが……ヒントは語られています」
「ヒントとは?」
「大教授ビントルトン様は黄昏の者に語りかけました。貴方は手強そうです、と」
「アレをみて、手強いと言えるとは……さすがは世に名を轟かせるスプリキト魔法大学の長、大教授ビントルトン様だ」
「えぇ。私にはアレに面と向かって答える余裕はありません。それで話を戻すと、かの黄昏の者はこう返したそうです。お前達……つまり大教授3人が相手では自分に勝ち目は無いと」

 ほぅと感嘆の声があちこちから起こった。

「ふむ……いや、ありうるか……大教授は領主と同格。王より王剣を借り受けているだろう。王剣の補助があれば、あるいは」
「はい。きっと、そういったことでしょう。大教授にとって有利な状況だからこそ、あの黄昏の者はそう答えた。もっともその言葉を、ビントルトン様は謙遜と受け取られたそうです。そして、ここからが大事なのです」
「ふむ、そこから何があったというのかね?」
「その黄昏の者は、こう答えたそうです……」

 そこまで言ってオーレガランは、ゴホンと小さく咳払いをした。それから、あからさまに大事な事だと強調するように、ゆっくりと言葉を続ける。

「自分は大教授達には勝てない。だが……リーダ王子はそうではない、と」

 宴の席にざわめきが起こった。

「つまり、王子は、あの黄昏の者より強い?」
「左様です。すくなくとも黄昏の者はそう考えている。そして、それならば辻褄が合います。つまり、王子は、黄昏の者を自身の武力によって屈服させた」

 ざわめきが起こった。騎士達は、口々に驚きの声をあげた。中には「さすがにそれは……」「ありうるのか?」と言った言葉もあった。

「私は信じます」

 その中で、一人の若い騎士が手をあげる。
 ニヤリと笑ったディングフレが「話してみろ」と言うと、騎士は「はっ」と答え、説明を始めた。

「魔神、そして魔神を超える存在との戦い。私は勇者の軍に所属し戦いました。ある時、私たちは想像を絶する存在と戦いました。第7魔王です」
「確か苦戦をしたのだったか?」
「いえ、あれは苦戦というものではありませんでした。中央軍の船は次々と落とされ、その半数を失いました。それは、あっという間でした。私の乗っていた船は無事でしたが、隣の船はまるで乾いたパンのように砕かれました。第7魔王は強大で勝ち目は無いと……私は思いました。恐怖しました」
「だが、勝った……」
「勇者の軍が討伐したのではないのです。王子に助けていただいたのです。あとで詳細を聞きました。第7魔王のことを……」
「続けろ」
「はい。王子は血まみれで船に降り立ったそうです。突然の来訪者に、エルシドラス様以外の皆が警戒しました。そして、王子は近寄る者を手で静止したそうです。どいていろ、と」
「我らが知っている王子とは違うな」
「えぇ、それはもう、猛々しい雰囲気だったそうです。その場の皆が気圧されたそうです。そして、ツカツカと船縁まで歩いた王子は、右手に閃光を放つ槍を握り……投擲し、そして第7魔王を一撃のうちに粉砕しました!」

 途中から熱をおび、大きな身振りも交えた若い騎士の話はさらに続く。

「その場の全員が唖然としました。恐怖そのものの象徴が、一瞬で消えたのです。そして、その後、王子は接近する黄昏の者に言ったらしいのです……あの雑魚なら始末した。魔神を超える存在を追うぞ、と」

 そう言って騎士は話を終えた。

「さすがに勇者の軍が半壊になるほどの相手を一撃とは……」

 若い騎士の言葉に疑いの声があがる。
 だが、すぐに「私も聞きました」といった別の声があって、静かになった。

「はっはっは」

 静かな中、ディングフレの笑い声が響く。
 彼は笑いながら言葉を続ける。

「なるほど、そうか。王子はそういうお方だったか! 我らと同じ時代を生きる、やがて伝説となる王子は、敵が、困難が、強大になるほど燃えるお方らしい!」

 その言葉に「おお」と声があがる。
 騎士というのは、そういった熱い英雄が好きだった。第4騎士団も例外ではない。

「納得できました。噂には聞いていましたが、リーダ王子とは噂以上のお方のようですな。そうか、そうかもしえない。私も一つ思い至りしました」

 領主リオカナウドは、騎士団の盛り上がりをみて、腕を組み深く納得したようにうなずいた。

「そのようで……ところで父上、そうかもしれないとは?」
「あぁ。もしかしたら、王子は、飛竜のヌシの事を知っていたのではないかと思ったのだ」
「それはさすがに……」
「考えてもみよ、オーレガラン。今回の件、第4騎士団がいなければ、我らの手にあまる事態になったかもしれぬ」
「そうかもしれないですね」
「第4騎士団の協力は、突然決まったことだ。魔物の生息域が変わった事を案じてディングフレ様が申し出してくれた。同じように、王子も心配されたのではないか……私はそう思う」
「あっ……」

 落ち着いていたオーレガランは何かに気がついたように顔をあげる。
 騎士団は、領主とその子、二人の話についていけないようで、首をかしげていた。
 だが、その話を聞き逃さないようにと注意し続けている。

「気がついたか? このたび、王より連絡があった。王子を数日足止めするようにと。渡したいものがあると」
「えぇ。だからこそ願い出て、王子には逗留いただいています。とはいっても、王子が自前の魔導具にて滞在されているだけですが」
「そうだ。これは、王ですら王子の行動は予想外だったことの裏付けだ。そして、王子には急がねばならない理由があった」
「それが飛竜?」
「私はそう思う。おそらく、我らの予想よりはるかに強力な……飛竜だったのだろう」

 領主リオカナウドは言い切って、上を向いた。
 まるで上空に浮かぶ飛行島をみやるような仕草で。

「では、あの場で始末しなかったのは……偶然ではなく……」

 ヒーニウが小さくつぶやく。その声音はどこか悔しげだった。

「はっはっは」

 しんみりとした場でディングフレが笑った。彼はとてもおかしおうに言葉を続ける。

「偶然だったか、偶然ではなかったか。それはどうでもよいのだ。王子は皆の訓練をみて、血が激ったのだ! だから、一人で戦う方法を選んだ」

 その言葉に「おぉっ」という騎士達の声が続く。
 彼らの声に笑顔でうなずき、ディングフレは眼前に置いてある肉の塊にナイフをいれつつ言葉を続ける。

「そりゃ、こっそり戦いに出向くだろう。なにせヨラン王子だ! 我らが一緒にいたら身を挺しても共に戦おうとしたはずだ。きっとつまらぬと考えた。一人で戦いたいと考えたのだ。きっとそうに違いない。我らが王子は、根っからの武人だ!」

 肉の塊をナイフの先端にさして、それを揺らしながら語るディングフレの結論に、騎士達は歓声をあげた。
 大盛り上がりのなかで、彼らの酒宴を続く。
 酒樽は次々と空になる。
 料理も、話題も、事欠かない。
 話題には事欠かない。なぜなら、リーダ達の武勇伝は一晩では語り尽くせぬほどあるのだから。
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