召還社畜と魔法の豪邸

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後日談 その2 出世の果てに

誕生日会の始まり

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 猛ダッシュで飛行島に戻る。

「おかえり!」

 戻ってみると、小さい飛行島にノアとレイネアンナだけが待っていた。

「他の皆は?」
「上にいるよ。長老様も、皆!」

 ノアがパタパタと身振り手振りで説明してくれる。飛行島の上に、ハイエルフや茶釜たちがいることに大喜びだ。サプライズが成功だとわかり嬉しい。

「うまくごまかせた?」

 小さな飛行島をエレベーター代わりにして、空に浮かぶ大きな飛行島へ行ってみると、茶釜に乗ったミズキが近寄ってきた。
 さらに後ろから、トコトコとロバも近づいてくる。

「ごまかすとか言うな。誠意をもって断りを入れてきたよ」
「そうなんだ。それでこれからどうすんのさ」
「まずは誕生日会だな」

 ミズキに答えながら、飛行島の上を進む。
 今や小さなお城のような家を抱える飛行島は、なかなかに広い。
 海亀がのんびり浸れる池に、茶釜が走り回ることが十分可能な庭、そして木々に飾られた立派な家。

「まずは……って? その次があるの?」
「あるよ。もちろん。誕生日会をしつつ出張だ。オレは仕事に生きようと思う」

 歩きながら受けたミズキの問いに、力強く答える。

「そういえば、さっきもそんな事を言ってたよね」
「とりあえず所領を見て回ろうかと。いろいろと心配ごともあるしな」
「所領? どっか行くあてでもあるの?」
「あぁ、それは……」

 途中まで言いかけたとき、家からゾロゾロと皆が出てきた。
 同僚に、ピッキー達獣人やロンロ。それからリスティネルと、ハイエルフ達だ。

「サムソン! 飛行島をピッキー達の故郷に向けて動かしてくれ」

 ちょうどサムソンの姿が見えたので、お願いする。

「これからか? つか、舞踏会は?」
「舞踏会は王様に任せてきたよ。オレ達は急ぎピッキー達の故郷に向かわなくてはならない」
「リーダは、仕事に生きるんだって!」

 ノアが誇らしげに続く。

「それから、今日はこれからノアの誕生日会をしよう」

 そして、オレはそう宣言し影の中から、王城の厨房で受け取った料理をテーブルごと取り出す。

「いいっスね。今日は天気もいいし、予定より早いけど始めるっスね」
「では、私達もお手伝いしましょう」

 誕生日会をしようという言葉に、プレインとハイエルフ達が動き出した。

「あの、それでリーダ。舞踏会は?」

 カガミだけは呆れた様子だ。

「さっき言ったように、王様にまかせてきたよ。それで、オレ達は飛行島でピッキー達の故郷にだね……」
「出張でしたっけ? そういう理由で舞踏会から逃げるとは思いませんでした」

 逃げるだなんて……そうだけど。カガミは手厳しい。

「いやいや、あの場には複数の問題があった。問題は各個撃破すべきだよ。それにノアの事を考えても、舞踏会より身内で誕生日会をやったほうが楽しめるだろ?」

 オレにはオレの考えがあるのだと、単純な後回しとは違うのだと、思いつくままに反論してみる。

「うーん。それはそうですし、もともとそのつもりでしたけど」
「もともと?」

 確かに他の奴らの様子を見ると、家からテーブルやら料理を運びだしている。

「えぇ。舞踏会は夜遅くまで行われるので……ノアちゃんは途中退席して、後はこの飛行島で誕生日会の予定ですけど……」
「そうだったんだ」
「いや、ちょっとリーダ、先日の打ち合わせ聞いていなかったんですか?」

 言われてみると、そうだった……気がしてきた。だから飛行島にハイエルフ達はスタンバっていたのだ。

「あの、えっと、ちょっといろいろあって、頭が回っていなかったよ」

 これみよがしにため息をつくカガミから逃げるように、家に駆け込む。
 それから誕生日会の準備を皆と一緒にすすめた。
 皆で作業したのもあって、広い庭に豪華な誕生日会場がまたたく間にセッティングされた。
 ケーキと取り皿、多種多様な料理。料理は王城で用意したものの他、ハイエルフ達が用意したものもあるようだ。

「一応、ピッキー達の故郷に向けてセットしておいたぞ」

 準備を終えたサムソンが戻ってきたので誕生日会を始めることにした。
 同僚たちとオレでバースティソングを歌い、ハイエルフやピッキー達が楽器で伴奏した。
 それが誕生日会のスタートだ。
 歌い終わると皆が思い思いに、ノアへ誕生日おめでとうと声をかける。
 騒ぐオレたちを見て、海亀も気になったのか、池からザバリと飛び出て近寄ってくる。

「姿が見えぬと思ったら、出かけるのかえ?」
「ボクはまだノアにプレゼントを渡してないんだ」

 さらには銀竜になったクローヴィスと人型のテストゥネル様までが空を飛んでやってきた。
 どんどんにぎやかになる。
 ノアはとっても楽しそうだ。母親と誕生日を祝うのが嬉しいのか、ずっとレイネアンナと一緒だ。
 こういう騒ぎは本当にいいものだ。

「そういえば、なんでピッキー達の故郷なんだ?」

 オレが海亀の背に腰掛けて、はしゃぐノアを見ながらケーキを食べていると、サムソンがそう聞いてきた。

「あぁ。ピッキー達も両親に会いたいだろうし、それに気にならないか? 彼らの故郷にどうしてゲオルニクスがいるのか?」

 ノアの話を聞くと、ゲオルニクスとミランダには助けてもらったらしい。
 安否の確認を兼ねたお礼に、会いに行こうとはずっと考えていた。そう考えると、今回はいい機会なのだ。

「そういえば、そんな話だったな」
「それに王城にずっといるってのもね」
「確かにな。旅行も悪くないか。まぁ、でもあれだ、逃げ回っているとどんどん辛くなるぞ」
「辛くって?」
「ほら、プレイン氏が言っていたが、神官たちが来てたんだろ?」
「確かに、どうしたものかな」
「タイウァス神の件だっけか、サッサと言うべきだぞ」

 捨て台詞のように言ったサムソンが海亀の背から飛び降りて、料理を取りに行く。
 確かに神官に言わなきゃいけないのだけれどな。
 でも、なんでオレがこんな気苦労をしなきゃいけないんだろう。まったく。
 それにサムソンも余計な事を言いやがって。せっかく忘れていたのに、思い出してしまった。
 というか、他にも何か忘れているような気がしてきた。
 なんだっけかな……。

「リーダ!」

 空を見上げながら、忘れている何かについて思いをはせていると、ノアが駆け寄ってくる。
 しかも、おおきな海亀の模型を持って。

「誕生日プレゼント?」
「うん! ピッキー達が作ったの!」

 今年は海亀の模型か。デフォルメされてはいるが、今まさにオレが背に座っている海亀にそっくりな模型を見て、当の海亀も興味津々でググッと頭を伸ばし覗き込む。

「首を伸ばしたところ、そっくりだね」
「うん!」

 その様子がおかしくて思わずコメントすると、ノアもおかしそうに笑う。
 プレゼントの人形をまとめて飾ってみるのもいいかもしれない。そうとう、にぎやかになるだろう。ちょっと楽しみだ。
 後は、忘れている事だけれど……。
 まぁ、いいや。
 思い出せないってことは、そこまで大事じゃないって事だろう。
 とりあえず、今はこのときを楽しもう。
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