召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 プリンス☆リーダ

完全に理解した

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 のんびり気分でぐっすりと眠り、朝になって目が覚めた後もゴロゴロして、お腹が空いたので起き上がる。
 実に素晴らしい朝。天気も良くて、半開きになった窓からは心地よい風が吹き抜ける。
 起きると、そんな半開きの窓に、筒状に丸めた手紙を咥えたフクロウが留まっていた。

「ベッド側にある金のベルを鳴らせ……か」

 フクロウが咥えていた手紙には、ベルを鳴らせば朝食が運ばれる事、そして皆はすでに客間にて明日の話をしている事が書いてあった。
 皆、本当に早起きだなと思いつつ、手の平サイズの小さなベルを振った。
 ほとんど間を置かずに、身なりのいい2人のメイドさんが、カラカラと車輪付きの台車で朝食を持ってきた。流れるような動きでテーブルをセットする様子は、まさしくプロの仕事だ。
 朝食はパンとスープ、それからステーキ。デザートは、サイコロ状にカットされたフルーツミックスだった。白く四角いお皿に盛られた朝食は豪勢なものだ。
 パンはサクサクしたスナック的な味わい。焼いたらもっと美味しくなりそうな代物。
 ステーキはただ肉を焼いただけではなくて、何やら下味がつけてあって、薄味のカレー風味だった。
 フルーツミックスは、緑、黄色、オレンジとカラフルな色合い。黄色のヤツがスイカっぽくて美味しい。これだけを沢山食べたいと思った。
 そして、食事が済み、着替えて部屋を出ると、昔の写真でみるような人力車とオラウータンが一匹待っていた。
 オレを見るなり、オラウータンは人力車の椅子をバシバシと叩いてこちらを見た。

「乗れってこと?」

 オレの問いに、オラウータンはコクリと頷いた。
 促されるままに椅子に座ると、椅子からのびる金属の棒をオラウータンは両手で掴み持ち上げる。コの字型のバーを万歳するように両手でもちあげ、万歳の格好でオラウータンは走り出した。
 魔法で工夫しているのだろう。人力車を引くオラウータンは、揺れる事無く凄いスピードで走り出したかと思うと、すぐに突き当たりの扉を蹴り開けて止まった。
 そこは大きな部屋だった。
 磨き込まれた白いタイルの大きな部屋。100人くらいは軽く入りそうな部屋には、大きなテーブルが一つだけあり、そこに同僚達とノア、レイネアンナ……そしてヨラン王がついていた。向かい側は大きく開け放たれ、その先にはバルコニーがあり、綺麗な青空が見えた。
 部屋の隅にはイオタイトを含む黒騎士達が立っていた。彼らと、オレ達だけが、この場にいるらしい。

「遅かったじゃん」

 オレをみたミズキがヘラヘラと笑い、手にしていた何かをパクりと食べた。
 それはポテチ。よく見ると、大きなテーブルにはポテチの魔導具と薄っぺらい材料がもられた皿があった。

「だから皆が早すぎるんだよ……って、ピッキー達もいないんだな」

 オレが最後の一人では無かった事に安堵する。
 ピッキー達は疲れてしまって寝入っているのだろう。慣れない事だらけだ、仕方が無い。

「ピッキー達は、王城を案内して貰っています。リーダより遅いわけがないと思います」
「はいはい。それにしても、ポテチの魔導具って、外に出してたっけ?」
「いや、それは新しく作ったものだぞ。説明したら、すぐに作って持ってきた」
「手軽だが、悪く無い。やや手が汚れるが、ギャッハッハ、それも風情がある。合いそうな酒を見繕わせているが、待ち遠しいな」

 ヨラン王が上機嫌に言って、ポテチを口に運んでいた。
 続く説明で、油を熱する仕組みは普通にあるので、準備は簡単だったこと。先ほどまで、ジャガイモの代わりになる野菜をいろいろ試していた事を聞く。
 ちなみに、油を熱する仕組みは、戦争時に熱した油を武器に使うために用意してあるものらしい。煮えたぎった油を空から降らせる魔法があるとも聞く、異世界は怖い。

「あのね、リーダ」
「ノア。まずはリーダ様が書類に目を通してからですよ」

 黒騎士の一人に椅子を引かれ、席についた直後、ノアが何かを言いかけて、レイネアンナがたしなめた。
 ふとテーブルを見ると、紙束が2セット置いてあった。

「明日の資料だ。お前から見て左が勝利の祝典……つまり祝賀の流れ、右が補足資料だ。左だけを読めば、問題ない。気になるなら右の資料を見るか、俺に聞け。それから……察しているだろうが、俺に対してかしこまった態度は取るな」

 紙束を眺めていると、ヨラン王がそう言って「ギャハハハ」と笑った。
 左の資料か……。
 サッと手にとりパラパラと眺めてみる。

「なるほど」

 ひとしきり目を通し、ふむふむと頷く。

「理解したか?」
「えぇ。完全に理解しました」
「さすが先輩っスね」
「やっぱりリーダは凄いね」
「良かった。リーダが嫌とか言い出したら、飛行船が貰えないし」

 斜め読みだったが、すぐに把握できた。
 どうしてヨラン王が、オレの参加を求めてきたのか、それも理解できた。
 ヨラン王の目的……なんてことはない、単純な事だった。
 つまり、それは、手柄を譲れって事だ。
 祝賀の流れは、こうだ。
 ヨラン王が最初に魔神が消滅したこと、そして魔神すら超える存在であるス・スもまた倒され世界から消滅した事を宣言する。
 そして……それを成し遂げたのは、ずっと隠されてきた存在、ヨラン王族直系の生き残りであるヨラン王子。そういうでっち上げの話を伝えるという流れだ。
 具体的には、ヨラン王子が、王様に続き演説する。
 どうやらヨラン王子は、ノアやオレ達と一緒になって行動していた事になるらしい。
 魔神の背後に、ス・スの存在を発見した彼は、共をつれ旅にでた。
 旅の途中、ノアと出会い、呪い子に境遇に涙し、そして同時にノアに眠る聖女の資質を見いだしたという設定から始まる話は、よく出来た物語のようだ。
 南方を回りフェズルードの赤龍と対話、帝国へと遠征し冥府を統べる者の討伐、そしてスプリキト魔法大学で必要な代物を補充、そのついでに卒業。
 さらには世界中の人を巻き込んで、ス・スを倒す最強の魔法陣を完成させ、決戦に挑んだヨラン王子。
 オレ達の事をベースに脚色した内容で押し切るらしい。
 ノアとの思い出を譲るような気がして、少しだけ嫌な気分だが、しょうがない。
 約束は約束だ。
 ヨラン王子とやらの演説を、うしろで聴いて、それを追認しろって話も飲むさ。
 それで、万事めでたし、ゴロゴロライフが約束されるなら問題無い。

「ところで気になる部分はないのだな? 疑問があれば遠慮無く言え」
「特には、そうですね……祝賀の後は自由にしていいのですよね?」
「あぁ。好きにすればいい。お前を含め、俺は誰も束縛はしない」
「それなら、異存はありません。それにしても、ヨラン王子ってのはどんな人なんです?」
「どんな人?」
「いや。これ、セリフ滅茶苦茶長いから、大変だなと……」

 オレがセリフを言うわけではないが、ほとんど一人語りだ。原稿を読むだけでも大変そうだし、何よりどんな人がオレ達と一緒にいた設定なのかが気になった。

「そうだな。原稿については、魔法で次に口にする言葉を教えるから問題ない。だが……、お前は完全に理解しているのでは無かったのか?」
「何を、ですか?」
「いや、その、ヨラン王子という設定で、演説するのはお前だが」

 半笑いのヨラン王がポテチを掴んだ手をオレに向ける。
 ん?
 オレ?

「演説が……オレ? いや、私?」
「ギャッハッハ、お前の功績だろう。お前が演説しなくて如何する。つまりヨラン王子はお前だ」
「は?」

 何言ってんの、この人。
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