召還社畜と魔法の豪邸

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

のこりふたり

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 すぐに飛行島の端、ギリギリまで駆け寄りミランダを注視する。ミランダの背後にローブ姿の人影があった。
 そいつの伸ばした腕により、ミランダは背後から胸を貫かれていた。
 囮だとわかっていても、リアルな姿をしたミランダの傀儡が壊される瞬間にギョッとする。
 だが、狼狽えるばかりではない。敵の存在は予想していたことだ。
 計画通りに、皆が出現した敵への対処へと動く。
 最初に反撃したのは当の本人、ミランダだった。
 傀儡のミランダは、大きく膨れ上がり、氷の塊となって彼女の背後に立っていたローブ姿を包み込んだ。
 続いて、あたり一帯が明るくなる。はるか頭上から強い光が降り注いでいるのだ。
 それは氷漬けのローブ姿を照らす。

「スライフ!」

 何をするのか知らないが、打ち合わせ通りに動く。
 ノアはハロルドの呪いを解き、ミズキは茶釜に乗って周囲を警戒する。
 オレはすぐさま黄昏の者スライフを呼び出し、敵をタイマーネタで狙撃するのだ。
 ミランダとオレの攻撃はほぼ同じタイミングになった。
 ほんの少しだけ先行したのはミランダ。

『チュゥン』

 甲高い電子音に似た音がした。
 ローブ姿を照らした光は収束し、光線となって奴を焼きつくさんとする。
 一瞬でローブ姿を拘束していた氷は蒸発し、苛烈な光は飛行島を撃ち抜く。
 だけど、その凄まじい破壊力でさえ敵には無力だった。
 ローブ姿は上を向き光を浴びて平然としていた。見上げた拍子にパサりと脱げたフードから、水色の髪をした端正な顔立ちの男が見えた。彼に叩きつけられた光線は、飛行島を貫く。だけれど彼は、微笑み平然としていた。
 それだけで只者ではないことがわかる。それに気配でわかる。アレは人間では無い。
 油断はしない。

「ラルトリッシに囁き……」

 即座にタイマーネタ使い、その超威力で追撃を行う。

『ドォォン……』

 爆発音にも似た轟音を響かせ、黄色い光線が敵を飲み込む。

「当たった?」
「いや、ダメっス! 誰かが横から、あいつを突き飛ばして助けたっスよ」

 オレの言葉に、プレインが反応する。

「しかし、全てが無駄ではない。助けに入った者は消失した」

 続けてスライフが言葉を付け加える。
 敵は3人。1人を消せたか。

「じゃあ、あのローブ姿はどこに?」

 オレの独り言。その答えは、直後にでた。

「そうか。タイマーネタか……。ラルトリッシに囁いた事は少々意外でもあり、納得いく答えでもある。さて、私の姉であるイ・アを殺害したのは君達で相違ないな?」

 オレの視線の先に奴はいた。水色の髪で目を隠した男だ。
 彼は空中に見えない床でもあるように立ち、静かに問いかけてきた。無機質で抑揚の無い少年の声だ。
 その問いに、オレ達は誰も答えない。答えることなく、オレ達は攻撃を続けた。
 初撃はミランダ。再び上空から光線で攻撃する。
 先程は無防備に受けたように見えたが、どうやら違ったようだ。
 彼は光線を振り払うように手を振った。その動きに連動するように、光線はぐにゃりと曲がり彼の体を避ける。
 続けてオレはタイマーネタを放つ。
 だが、タイマーネタから放たれた光線は当たらない。
 水色の髪から覗く口元に笑みを浮かべ、彼はフッと消えてしまった。

「消えた?」
「違う、一瞬で移動した! すごいスピード」

 ミズキがオレの言葉に答え、一方を指差す。
 彼女が指差す先、先程の男が空中に立っていた。

「あぁ、失礼。私の姉ではわからないか。私は統一王朝副王セ・スという。姉の名はイ……」

 まるで、何事もなかったように、彼は微笑み言葉を続けていた。
 どういうつもりかわからないが、とりあえずタイマーネタの攻撃は避けるしかないようだ。なら、ちょうどいい。当たるまで連写してやる。
 オレは迷いなくがちゃんとレバーを倒し、次弾を装填する。

「少しは話ができないものかな」

 さらに続く彼の言葉を無視して放つ一撃。
 しかし、またしても当たらない。早すぎて当てることができない。

「今度はどこだ?」
「リーダ!」

 オレが再びミズキに声をかけた瞬間、ハロルドがオレの名を呼んだ。
 さらに、一瞬でオレの側に寄ったハロルドが剣をふるう。

『ガァン』

 響わたる金属音で、初めて奴が接近していた事に気がついた。
 音も、気配も、感じなかった。
 ハロルドがいなければオレがやられていた。

「ヌゥン!」

 ハロルドが大声をあげ、剣を振り抜く。
 奴……セ・スは片手で攻撃を受け止めるも、その威力に押され吹き飛ぶ。
 もっとも攻撃が聞いたわけではないようだ。くるりと体を回転させて、オレ達の飛行島の端に着地する。

「まだまだぁ!」

 ハロルドはその行動を予測していたようだ。声をあげ、接近すると再び剣を振るった。
 着地し体制を整える前に追撃を受けたセ・スは両手を突き出し剣を受け止める。

『ガァン』

 再び響わたる金属音。今度は先程とは違い、それだけに止まらない。ハロルドの振るった剣から大量のマグマが吹き出し、セ・スへと襲いかかる。

「今でござる。リーダ!」

 バッとセ・スから離れつつ叫ぶハロルドの言葉で意図に気がつく。
 一瞬でマグマは冷えかたまりセ・スを拘束していた。チャンスだ。

「ラルトリッシに囁き……」

 石でできたバリスタの模型ともいえるタイマーネタの矢じりがセ・スを捉えた。
 そして、そこから放たれる光線が逃げようとするセ・スにぶち当たった。
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