召還社畜と魔法の豪邸

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

じゅんびをがんばる

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 モルススの首都に行くからといって、すぐにいくわけではない。
 わざわざ平和な場所から、危険地帯へ行くのだ。
 油断はしない。
 敵が居たときの事を考えて、準備はしっかり進める。

 とりあえず顔合わせからだ。
 そう考えて、ゲオルニクスにミランダを紹介することにした。
 ミランダを屋敷に庭に呼び寄せる。

「あーっ、お前は!」

 面識は無いだろうと思っていたら、いきなりゲオルニクスが大声をあげた。
 知り合いらしい。

「あら、貴方……リーダの知り合いだったのね」
「オラはコイツに騙されただ」
「やっぱりミランダは悪い奴なんだ!」

 のんびりとしたミランダに対し、ゲオルニクスが彼女を指さし訴える。
 我が意を得たりといった調子のノアは、口をへの字に曲げてミランダを睨みつけた。

「ミランダ……」

 しょっぱなからつまずいた事に対し、非難の眼差しをミランダに投げる。
 こいつ、いろんな所で悪事を働いているな。

「リーダ、違うのよ。ちょっとした行き違い。ほら、お前、ゲオルニクスだっけ? 確かに、いきなり氷漬けにして熱線で焼き殺そうとしたけれど……平気だったじゃない」

 何が行き違いだ。言っている内容が極悪じゃないか。

「そっちじゃないだァ。おめえは、スッキリ綺麗になったって言っただ。でもな、綺麗になって無いって言われただよ」

 なんだ? 話が予想外の方向に進んでいる。
 氷漬けにされて焼き殺そうしたって話は、ゲオルニクスにとって大した事じゃないのか。
 ある意味、ハイレベルな会話について行けない。

「あらら。それは大変だったわね」
「おかげで、リーダに川へ突き落とされただ」
「リーダも案外酷い事をするのねぇ」

 ミランダが半笑いでオレを見る。
 ゲオルニクスも頷いていた。
 いやいや、おかしいだろ。なんでオレに矛先が来るんだ。
 氷漬けにした話より、川に突き落としたオレの方が非難の対象になるのか?
 というか、元はといえば、ゲオルニクスが風呂に入らないのが原因だろうが。

「はいはい。悪いのはオレでいいよ。全部、私が悪うございました」

 なんだかアホらしくなったので、適当に話を打ち切って、今後についての事に話題を変えた。
 ミランダはオレ達の準備が終わったら呼んでくれといって、飛行島に戻っていった。

「念のために準備をしておきたいだ。急ぐけど、4日待って欲しいだよ」

 ゲオルニクスの言葉に、反対はない。
 皆の同意を得ると、彼は準備を進めるといって地中に戻った。
 とりあえず、顔合わせはソレでおしまい。
 アーハガルタでの行動についても、2人はオレ達の計画に合わせてくれるらしい。
 オレたちもボーっとするつもりはない。準備を進める。

「ねぇねぇ、可愛いと思わない?」

 ミズキが茶釜にのって、新しい装備を見せびらかす。
 オレ達は道具から見直す事にした。武器の整備は大事だからな。
 とはいえ、装備はいつだって見直ししているし、新兵器開発も怠っていない。
 彼女が見せにきたのは、そのなかでも最新作のようだ。
 それは茶釜用にはちまきだ。
 見せびらかすように、声をかけてきたミズキに「馬鹿じゃ無いか」と冷たいリアクションをしたが、それは飾りではなく魔導具らしい。
 はちまきには、鉄板が付けてあって、それが魔導具で、周囲に防御膜を展開する効果があるそうだ。
 他にも彼女は新しい武器を用意している。
 古代兵器である雷槍オクサイルを改造した槍だ。
 雷槍オクサイルは大砲のような形状をした古代兵器で、筒の先から3本の爪をもったかぎ爪が顔をのぞかせている。
 大砲の弾とはちがい、そのかぎ爪を打ち出し攻撃する。かぎ爪の根っこには鎖がついていて、鎖を通じて敵に食らいついたかぎ爪からは電流が流れ追撃をする。
 ミズキはその雷槍オクサイルを改造した。
 魔法の究極をつかい小型化し、長い柄をつけて槍というか柄付きの棍棒に変えた。電撃を砲身とかぎ爪に纏わせ殴りつけるらしい。場合によっては、かぎ爪を打ち出し攻撃したり、砲身にかぎ爪を納めたまま高速回転させて使うそうだ。

「高速回転させて、押しつけるとドリルみたいにさ、大きな岩に穴が開くんだよね」

 そんな怖いことを言っていた。
 新装備はミズキだけではない。カガミはオートで皆を守る盾を用意していた。何十枚もある鉄製の盾は、火柱の魔法で反撃する機能まであるらしい。

「ほら、リーダが使っている魔壁フエンバレアテを参考にしたんです」

 そう彼女は言っていた。確かにオレが使っている古代兵器の一つ、フエンバレアテに挙動は似ている。同じような魔法で動かす鉄板だからな。
 もっともカガミの作った盾は、サイズは小さく、銀縁の丸盾といった風貌で外見は大違いだけど。
 そして、同じくおれの主要武器である魔導弓タイマーネタ。

「ちょっとトッキー君と考えたんスけど」

 そう言ってプレインが用意してきたのは、タイマーネタの弾を装填しやすくするものだ。
 タイマーネタは、一撃ごとに箱状の弾を装填しなくてはいけない。
 その空になった弾の排出と、次弾の装填。その2つの動作がレバーを引くだけで出来る仕組みを、彼は作ってくれたのだ。

『ガチャン』

 レバーを引くと、乾いた音と共にタイマーネタから弾の魔導具が飛び出し、次弾が装填された。
 最大10発分の弾がレバーを引くだけで、この繰り返しで次々と装填できるという。
 そしてオレは、連続使用がやりやすくなった古代兵器タイマーネタを使って、敵を遠距離狙撃することにした。
 準備は道具だけにとどまらない。
 皆がそれぞれの武器を使い練習する。
 意外なことに、オレ達の練習にミランダが協力してくれた。彼女がタイマーネタをはじめとした武器の標的を氷で作ってくれたのだ。くわえて、氷の玉で模擬的な攻撃もしてくれた。
 その甲斐があって、高く飛ばした飛行島で、さまざまな練習ができた。
 おかげで、オレは魔壁フエンバレアテを構成する複数の鉄板を片手で使い、隙をみてタイマーネタを使うという戦闘スタイルを編み出すことができた。
 もっとも、黄昏の者スライフにタイマーネタの標準を任せることが前提だが、これで相当に戦力強化ができたとおもう。
 それからノア。
 ミランダと一緒に練習を進めることに、反対するかと思っていたノアはそうでもなかった。

「リーダ! 私がミランダを見張っておくから、頑張ってね!」

 そう元気いっぱいにオレへと言った。
 ノアはノアなりに現状を考えて、ミランダの協力に応じるかわりに、見張ることにしたらしい。
 差入れのカロメーや、汗を拭くタオルを配ったり、水を入れたコップを用意したりしつつノアはミランダを睨みつけていた。
 対するミランダは、そんなノアにそっと後から近づき肩を叩いて逃げたりと、からかうことを忘れない。
 オレ達の練習用に氷のダミーを作ったりしながら、よく遊べるものだと感心する。
 最後に魔法による事前調査。
 どこまで効果があるかわからないが、魔法の究極と信託の魔法を使い敵のことを調べてみた。
 残念ながら、アーハガルタに敵がいるかはわからなかった。
 ただしモルススの残党は残り3人だということが判明した。詳細はわからないが3人。きっとアーハガルタにいるのだろう。なにせ敵の首都だからな。
 こうして準備は順調に進み、瞑想と呪いを克服するというメニューを進めていたハロルドを加え、出発の日を迎えた。
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