召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

だいえんかい

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「では、早速、変装の魔法をつかいましょう」

 場が和やかになったところで、カガミが魔法陣が描いてある布をバサリと広げた。

「今度は、上手くいくよ。お店も、良いところを手配したし、バッチリだよ」

 ミズキが陽気に笑い、ピョンと魔法陣に飛び込む。
 それを皮切りに全員が変装する。

「なんで、オレはまたカワリンドなんだよ」

 変装した自分を手鏡でみてぼやく。
 スプリキト魔法大学で、さんざん働いた小太りの男カワリンドにオレは変装していた。

「慣れてると思ってそうしました」
「まぁ、いいじゃん。ノアノアは良い感じ。ちょっとだけお嬢様っぽい」

 オレのクレームは聞き流され、皆がそれぞれの変装結果を見て盛り上がる。
 ノアは、どこかの商家にいそうなお嬢様だな。
 カガミとミズキは、貴族の屋敷にいそうなメイドか、双子みたいにそっくりだ。プレインは、髭面のおっさんか。サムソンは、モヒカンの……イケメン。
 うーん。
 辺りを見回すと、オレは可もなく不可もなしって感じで丁度良いかもな。
 ピッキー達は、町の子供達って感じだな。変装しても兄妹ってわかるのが面白い。

「お迎えが来たわぁ」

 変装結果に盛り上がっていると、ロンロが喚きながら近寄ってくる。
 今日の彼女は、無駄に豪華な水色のドレスか。
 最近の白い鎧よりかはマシか。

「確かに馬車が来る……あれ、豪華な馬車だ。もう少し金持ち設定のようが良かったと思うぞ」
「まぁ、いいじゃん」

 確かにサムソンの言う事も一理あるな。
 近づく4頭立ての馬車を見て、そう思う。
 白い4頭の馬にひかれる馬車は、黒くて上品な感じだ。

「あっ。おじいちゃんだ」

 ノアが小さく呟く。
 お爺ちゃん……カロンロダニア?
 遠くに見える馬車をよく見ると、御者をしている老人が確かにそれっぽい。

「ご機嫌よう。お迎えに参りました」

 しばらくして門の前に止まった馬車から御者が降りてくる。
 あれ、違う……カロンロダニアではないな。
 茶色い帽子をとってお辞儀する老人は、見たことが無い人だ。

「お祖父様も変装したのですね」
「あっさりと、バレてしまったか。ふむ、頑張ってみたのだがなぁ」

 ところが、ノアが正しかった。
 御者の老人、それはノアの祖父であるカロンロダニアだった。
 彼も変装していたらしい。
 ノアの言葉を聞いて、目の前の老人がカツラを取ったことで、ようやくオレにもわかった。
 本当にカロンロダニアだ。髪型が違うだけで、結構変わるのだな。

「カロンロダニア様が、御者をされるのですか?」

 さすがに不味いだろう。
 そう考えての質問に、カロンロダニアが笑う。

「変装の趣向であろう? では、私も今日は御者として参加してみたくなってね。頑張ってみたのだ。このまま帰るのは寂しくてね、許して欲しい」
「まま、いいじゃん。じゃ、そういうことで出発」

 カロンロダニアが頭を下げたのを、ミズキが軽く流して馬車に飛び乗る。
 確かに、本人がいいならいいか。
 ミズキに続いてオレが飛び乗り、皆が続いた。
 ノアは御者をするカロンロダニアの横に座った。

「では、出発する」

 カロンロダニアの掛け声と共に馬車は進み出す。
 内装は立派だけれど、この人数ではやや手狭だ。天気も良いし、たまにはこんなのも悪く無い。
 窓を開けると、ひんやりした風が入ってくる。
 今日は良い天気だ。空に広がる巨大魔法陣……天の蓋が少し邪魔だが、青空が綺麗だ。
 天気が良くて本当に良かった……。
 ……。

「ぶふっ……あれ?」

 少しだけ気を抜いた直後、顔に冷たいものが当たる。

「起きた起きた」

 顔面に水をかけられて、寝ていた事に気がつく。
 目の前には、揉み手を突き出して、前屈みのミズキがオレの顔をのぞき込んでいた。
 良く風呂でやるアレか。両手で作る水鉄砲を使って、オレに水をぶっかけたのか。
 馬車の入り口からノアがこちらを見ていた。

「水、ぶっかけるな」
「着いたって言っても起きないからじゃん。デコピンとどっちにしようか悩んだんだよ」

 苦言を呈するオレに、ミズキが笑いながら身を翻し、馬車から飛び降りる。
 オレも後に続いて降りると、そこはギリアで、しかも目の前には大きく立派な宿があった。
 3階建てのお店だ。この世界によくある1階がまるまる酒場になっている宿か。
 看板は、まん丸で、中央に馬の蹄が3つあしらってある。

「ここは?」
「今日の目的地、品よく料理が美味しい……満月葉っぱ亭です!」

 今日の幹事役であるミズキが、我が物顔で宿へと入っていく。
 料理も依頼しているのだっけかな。
 この店は、市場街の近くにあるようだ。
 周りの行き交う人の様子から、そう判断できる。
 中は広々とした酒場だ。丸テーブルが沢山あって、チラホラと人が座っていた。

「ちぃ。来ちまったかぁ」

 オレ達が入ってきたのを見て、赤ら顔の男がばやいた。
 一瞬、ノアの呪いが隠せていないのかと不安だったが、そうではないようだ。

「はっはっは。なかなか来ないんで、こりゃ来ないかもなってな。言ってたところだったのさ」

 その理由は、店員が笑顔で口にした言葉で、すぐに理解できた。
 ミズキが前金で料理を大量に頼んだが、なかなか来ないのでキャンセルかと思っていたらしい。
 キャンセルになったら、客に格安で売るつもりだったとか。
 ゴトゴトと、オレ達がついたテーブルに並んでいく料理は大量にある。
 肉に、魚、シンプルなもの、手に込んだもの、並ぶ料理は節操がない。
 絶対に食えないだろって量だ。
 軽いノリで頼みまくったらこうなったらしい。前金で金貨8枚。
 次々と運ばれる料理を、オレ達では食べきれないと判断し、皆におごることにした。

「今日は、お嬢様の誕生日なんです! ということで、奢り! もう大盤振る舞い! 飲んじゃって! 食べちゃって!」

 ミズキがノアを抱え上げて高らかに宣言する。

「イェー!」

 その言葉に店に居合わせた人達が盛り上がる。

「金銭感覚が狂っちゃうっスよね」
「そうそう。ノアノアの為に、大盤振る舞い……って、やり過ぎちゃった」

 プレインやミズキの言いたいことはよく分かる。
 貴族向けの店なら金貨80枚くらい払わないとまともに食べられない。
 ところが、それが庶民向けになると、わりかし高級店でもこの状況だからな。
 中間ってものが無いのだ。

「嬢ちゃん、誕生日なんだって」

 何故か頭にジョッキを乗せているおじさんがノアに声をかけてきた。
 身長低めで、寸胴体型。ドワーフだ。
 こうやって、オレ達に声をかけてくる人が後を絶たない。
 それは、誕生日のノアへ一言お祝いを言いに来た人達だ。
 頼みすぎが良い方向に働いている。
 店はとても楽しく盛り上がっている。

「お嬢ちゃん、何歳になったんだい?」
「11才です」
「へっへー。そりゃ縁起がいいね」

 今度は、踊り子風の女性だ。
 本当に次々と人が近寄ってくる。皆、ノアに好意的だ。
 そんな人達に、ノアも楽しく応じて、ジョッキをぶつけたりしている。
 魔導具はしっかり機能しているらしく、呪い子だからと嫌がる素振りは微塵も無い。

「追加いっちゃう?」
「そうだな。もう今日はガンガンいっちまおう」

 せっかくだからと、さらに料理を追加する。
 年に1度の大盤振る舞いだ。楽しくやろう。
 盛り上がる店内に、一際大きな歓声が上がったのは、場の勢いにまかせて追加の料理を頼む直前だった。
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