召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

きょじんのぱん

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 街道から少し外れた場所にオレはいた。
 振り返れば遠くに、巨大な石作りの橋が見える。それは昔、ゴーレムでオレが工事を手伝った橋だ。
 なぜ、こんな場所にいるのかというと、魔物の一団を退治するための遠征中なのだ。
 メンバーは、オレとミズキ、それからノアとハロルド。最後にロンロ。

「すごっ」

 ミズキが簡潔に結果を口にする。
 目の前には、壊滅した魔物の一団……そのなれの果てがあった。
 それは黒く熱気を放つ岩に埋もれていた。

「うむ。いささか威力がありすぎるでござる。これは、使いこなすまで、ちと骨が折れるでござるよ」

 今回、一人戦ったハロルドは、手に持った魔剣を見てそう唸った。
 目的は魔物退治ではなくて、イオタイトから貰った魔剣の試し切り。
 その結果はすさまじいものだった。
 きっかけは、イオタイトが来た時までさかのぼる。

「これは対軍魔剣ロウハンマではござらんか!」

 イオタイトが帰った後、ハロルドを呼んで剣を見てもらった。
 彼は一目見て、そう叫んだ。

「有名なのか?」
「アダマンタイトの大剣。その刀身には、火山を思い起こす文様。柄にあるのは竜眼を削り作った宝玉。間違い無い、猛る火山をその身に宿す対軍魔剣ロウハンマでござる」

 そう言って、剣を持ち上げたハロルドはさらに言葉を続ける。

「かって、何代か前の勇者が所持していた……その存在は伝説とまで言われる魔剣でござる。魔神との戦いで失われたと聞いていたが、かような品に出会えるとは」

 そこから試し切りをしたいというハロルドの希望があって、ミズキが冒険者ギルドでネタを見つけて、遠征した。
 そして、今がある。
 銀貨300枚の依頼。相手は数こそ多かったが大した事はなかった。
 ハロルドは、魔剣を使い易々と倒していった。
 軽く剣を振るえば、扇形の赤い光が飛び出し、それは敵にあたると溶岩となった。
 刀身から高熱を帯びた煙を吹き出し目くらましすることもできた。

「凄いね、ハロルド」

 まじまじと剣を眺めるハロルドに、ノアが賞賛の言葉を贈る。

「確かに凄いでござる。なれど、伝承では溶岩にて一軍を飲み込んだともあるのでござる。そして、使ってみて……それは可能だと確信したでござるが……」
「問題があるのか?」
「拙者は、とても慎重に使ったでござる。それでも、これでござる。威力がありすぎて、油断すると皆を巻き込むでござるよ」
「確かに、さっきの煙はめっちゃ熱かったよね。茶釜が嫌がってたしさ」
「うむ。これはちと、練習が必要でござるな」

 オレ達の出番があるだろうと思っていたが、そんなことは全くなかった遠征。
 それはこうして終わった。
 でも、こんな凄いものをよくくれたな。前の黒本をもらった時も思ったけれど気前が良すぎだろう。主様とかいう人は、一体何者なのだろうと疑問だ。
 そこから、トーク鳥を冒険者ギルドへと飛ばし、帰宅。
 今回は討伐の確認に、ギルドから検分役が派遣されるらしい。彼らが、退治した事を確認したら報酬がもらえる。銀貨300枚というのは、金貨にして20枚にも満たない。大した事ないなと思ってしまったオレは金銭感覚が狂ってきたと思う。
 そして、帰ってみると屋敷の前には見慣れない馬車が止まっていた。
 2頭の牛が引いているその馬車は、レンガ造りの車体に黒い煙突がついたドカンのような物が乗っかっていた。蒸気機関車を前後逆にしたようなフォルムだ。煙突からは白い煙がでている。

「おかえりっス」

 オレ達に気付いたプレインが何かを食べながら近づいてくる。

「うわっ、なんか美味しそうな匂い」
「そうっスね」

 プレインが持っているのはパンだ。それを食べながら、視線を馬車に向ける。
 視線の先には、テーブルがあり、それを囲んで猫の獣人2人と、カガミにチッキーがいた。
 猫は茶色い頭に赤いベストのキンダッタと、デブ猫のマンチョ。
 そして、さらにもう1人。
 黄土色の前掛けをして、両手に分厚い布の手袋をしたおじさん。
 灰色の短髪で、筋骨隆々の男。何処かで見たことある……そんな気がするおじさんがいる。

「ヒューレイストさん?」

 ピョンと茶釜から飛び降りたノアが、そう言って首を傾げる。

「おしいっス」
「がっはっは。ヒューレイストは、わしの弟だ。さてはて、わしはクイムダル、旅のパン職人といえばいいかな」

 そっか。何処かで見たと思ったら、ヒューレイストか。迷宮都市フェズルードであった冒険者の一人。その正体は巨人で、いつもは魔法で人間サイズになっていた。それから、いつも上半身裸の格闘家だった人だ。

「服を着てる」
「そりゃ、人としての常識だからな。弟とは違う……おっとと、そろそろか」

 ノアの言葉に、楽しそうに笑って答えた後、彼はドタドタと馬車へと駆けていく。
 蒸気機関車に見えたそれは、パン窯だったようだ。
 パカリと側面にある鉄扉を開けて、巨大な鉄ベラを使って、彼はパンを取りだした。
 そして、ほんのり湯気が見える熱々のパンをテーブルに置く。
 メロンパンに似た形をしたパンだ。焼きたてパンの良い匂いがあたりに漂う。
 ポンポンと、テーブルに並べられる沢山の焼きたてパン。

「これで、全部かの。ちっこいが巨人のパンだ。今日はお近づきの印だ。全部、タダ。好きなだけ食ってくれ」
「小さいのに巨人のパン?」
「本当は、とっても大きいのさ。だけどな、巨人のパンは大きさじゃあない。秘伝の粉に、パン生地に聞かせる内緒の音楽、他にも沢山の工夫を凝らして作り出すのさ」

 陽気に笑うクイムダルの言葉に甘えて、パンを手に取る。
 熱々の焼きたてのパンは凄く良い匂いだ。サクッとした外側に、フワフワな中身。何も付けなくても美味しく食べられる。
 こちらの世界に来て、パンはよく食べるが、これほど美味しいパンは初めてだ。

「美味しい!」
「だろう。ノアサリーナ様達は、お嬢を始め、わしらの恩人だからな。ちょっと気合いを入れて作ったのだ」

 それから、メニューを貰った。薄い板に、デフォルメしたパンのイラストが彫ってあるメニューだ。注文があれば、ちょうど焼きたてのタイミングで持ってきてくれるという。

「チーズがけ白パンが美味しそうだと思います」
「蜂蜜パンも美味しそうだよね」
「あのね、果物沢山パンがあるよ」

 皆がメニューを見ながらワイワイと食べた。
 キンダッタ達が籠一杯に詰めて持って帰った事もあって、パンはすぐに無くなった。

「わしは当分ギリアにおるからな。注文まっとるな」

 そう言って、クイムダルは去って行く。

「どんどん楽しくなるね」

 美味しい匂いを残していった馬車を見送り、ノアが笑った。
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