召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十章 過去は今に絡まって

ほむんくるす

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「こいつが賢者様だァ」

 討源郷との戦いから一夜明けた朝のことだ。
 ゲオルニクスからネズミについて紹介を受けた。
 昨日は小さなベッドで、すでに寝ていた住人だ。
 紫のとんがり帽子に、青いマントを羽織ったネズミ。

「かわいい!」

 ペコリとお辞儀したネズミの仕草に、ミズキが大喜びした。

「この……賢者様って、名前はなんていうんですか?」
「賢者様は、けんじゃさまだァよ」
「キキッ」
「スカポディーロの事は全部お願いしてるだよ」

 つまり、このネズミは名前が賢者様か。敬称つけるなら、賢者様さま……。

「何歳くらいなの、この子」
「さぁ……。5000から先は数えてないだよ」
「な……長生きなんスね」
「元はホムンクルスだから、破壊するか魔力がない空間にぶち込まないと死なないだよ」
「ホムンクルス?」

 ミズキが、ネズミの賢者様を手に乗せて聞き返す。
 ホムンクルスって、マンガか何かで見たことあるな。なんだっけ?

「魔法で生成し、永続化処理を施した……まぁ、使い魔みたいなもんだァ。ほれ、そこにもいるだろ?」

 ゲオルニクスがそう言って、ロンロを指さす。

「えっ、私ぃ?」
「呪い子には、モルススが作ったホムンクルスが取り憑くだよ」

 まぁ、呪い子であるゲオルニクスがロンロを見えるのは当然だけれど、ホムンクルスか。

「あのね。ロンロは悪い人じゃないの!」
「分かってるだァ。ノアサリーナと仲が良いもんな。余計な事をしたら、イモムシにでも作り替えて踏んづけるつもりだったけど、心配なかっただ」

 物騒な事をいうな。
 とりあえず、ロンロの正体が分かっただけでも良しとするか。
 ホムンクルスの詳細については、時間があるときに調べるくらいでいいだろう。

「ゲオルニクスさん……。あのね。ロンロが皆に分かるようにできない?」
「んー。ノアサリーナ以外にもって事だか?」
「うん。私とね、リーダ達にしか見ることができないの」
「リーダ達も? うーん。おらは考えた事もなかっただな。改造すれば、大丈夫だとはおもうだが……でも、それならリーダ達にもできるだろうしなァ」
「いやいや。できないよ」

 当然のように、ゲオルニクスは言ったが、そんなのは無理だ。
 ホムンクルスである事を知ったのもつい先ほどなのだ。

「んだら、そのホムンクルス……。ロンロだっけか、そいつを改造しているのは誰だか?」

 え?

「いや、改造なんてしてないけど」
「でも、おめえらに初めて会った……ほれ、あの地下空洞で見た時より、大分違うだよ。そいつ」
「どんな風に?」
「前は、モルススの奴らの写し身だって一目で分かったけど……今は、違うだなァ」

 なんだか、ロンロについて謎が1つ解けたと思ったら、謎が増えた。

「ロンロ、居なくなったりしない?」
「大丈夫だァよ。前よりも、より丈夫なホムンクルスになっているだ」

 心配を隠せないノアの質問に、ゲオルニクスが笑顔で請け負った。
 ロンロは、まるで他人事だな。

「ところで、ゲオルニクス。ホムンクルスについての本も、あっちの本棚にあるのか?」
「あるけど、十分な量じゃないだ。サムソンの期待に添えるか……わからないだなァ」
「十分な量の蔵書だと思いますが」
「偏っているだよ。結局、計画は失敗しただァ。予定の3分の1しか確保できなかった……おらも、諦めちまっただよ」

 あれでゲオルニクス的には十分じゃないのか。

「それでも、オレ達には十分な量だ」
「確かに、サムソン先輩の言う通りっスね」

 それから、急かすサムソンに従って作業開始。
 禁書図書館にある資料を取り込む。
 魔力を使うので、同僚達と手分けする。ノアの魔力がパソコンの魔法に使えないのが残念だ。呪い子の魔力は繊細な魔法には使いにくい……その状況をなんとかしたいものだ。
 代わりに本の運搬などを手伝ってもらう。
 トッキー達は、海亀の背に乗せる小屋を作り直してもらうことになった。
 ガラガラと荷車に大量の黒本をつめて、サムソンの元へと運ぶ。
 その最中の事だ。

「動くな!」

 突如、怒号が響いた。
 声がした方をみると、熊の獣人がいた。
 昨日、ゲオルニクスが使っていた輪っかのついた木箱を背負っている。
 いつからいた?
 奴の言動と、ゲオルニクスの様子から、知らない人であることは間違いない。
 そうなると、どこかのタイミングで忍び込んだことになる。
 とはいえ服装などから、ウ・ビ達の仲間とは思えない。

「ここはカルホントア様の宮殿のはずだ。なぜ、クタがいる。書籍をどうするつもりだ!」

 奴は体中からパリパリと小さく放電しながら、わめき立てる。
 ゲオルニクスが昨日やったように、電撃で攻撃するつもりか。
 あんなのを喰らったらひとたまりもない。

「ヒンヒトルテ・ヒンジ・コルホマイオ……」

 そんな奴へ、一歩近づきゲオルニクスが言った。
 両手の指で四角をつくり、そこからのぞき込むように奴を見ている。

「それがどうした?」
「コルホマイオ……確か上級士官だ。おめぇ、共和国の者だなァ。とりあえず、雷王の背負い玉座を、地面に置くだァ」

 共和国って、どこの国だろう。
 いままで旅した中には、共和国と名前がつく国はなかったな。
 それから、コルホマイオ……これはどこかで聞いたことがある。
 どちらにしても、理解できない。

「まず、私の質問に答えよ!」

 ゲオルニクスのなだめるような言葉に対し、熊の獣人は興奮したままだ。

「親父……いやカルホントアは、遙か昔に死んだだ。おらは、この場を譲り受けただよ。本はリーダ達が使うってんで、好きにさせているだ。見たところ、本は何ともないだよ」
「親父? 親父と言ったか! カルホントアは、ドワーフの王にして元老だ! クタでは無い! 騙るのもいい加減にしろ!」

 熊の獣人は激高し、両手を前に突き出す。
 バリバリと響く放電音は大きくなり、奴の体が青く光る。
 だが、攻撃が行われることはなかった。

『ゴン』

 鈍く大きな太鼓を叩いたような音が鳴り響いた。
 電撃の攻撃よりも前に、奴の頭上へゲンコツを模した巨大な石が落ちたのだ。
 その一撃で、奴は気を失い倒れた。
 当たった後、巨石はパカリと真っ二つになって崩れた。
 あんなのが当たったら死ぬだろうと思ったが、中は空洞だったようだ。

「賢者様が、スカポディーロの防衛設備を動かしただよ」

 そう言いながら、ゲオルニクスが倒れた熊の獣人へと近づく。

「どうするんだ?」
「んー……そうだなァ。こいつの事は心当たりがあるから、拘束して目が覚めたら話をするだよ」

 オレの質問にゲオルニクスは答えると、奴の頭を掴みあげた。
 すると待っていましたとばかりに周りの地面が隆起に、奴を包んだ。
 後に残ったのは、熊の頭だけが飛び出た立方体をした土の塊だ。
 多分、ノームがやったのだろうが……なんというか、酷い。

「首だけ残して埋めたんスね」
「暴れられると面倒だしなァ。多分、こいつは良い奴だから、話せば分かるだよ」
「そうなんですか?」
「悪い奴だったら、きっと人質を取ってるだよ」

 そういってゲオルニクスは、ニコリと笑った。
 とりあえず、奴はゲオルニクスに任せて作業を再開するか。
 それにしても、禁書図書館、ホムンクルスに、共和国……情報量が多すぎだ。
 頭がパンクしそうだよ。
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