召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

はんせいしつ

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 砂煙を切り裂くように差し込む光。
 地下にいたオレには眩し過ぎる明かりに照らされて、兵士に捕まった。

「対応を検討する……という事だ。一応、ノアサリーナ様へは連絡済みだ」

 それから、そんな言葉と共に入れられた反省室。
 そこは、出入り口は鉄製の柵に覆われた、いわゆる牢屋だった。
 とはいっても牢屋の割に不自由がない。
 牢屋には地下へと続く階段があった。
 その先には絨毯が敷いてある快適な地下室。2段ベッドは両方ともフカフカ。備えつけの机に椅子も年季が入った立派なものだ。
 さらに、地下室にあったのは設備だけではなかった。教授の悪口や似顔絵など、落書きが壁一面にあった。これは、眺めるだけでも楽しめ、暇つぶしになった。
 おかげで、反省室に入ることになっても楽な気分だ。
 遊び心の詰まった地下室の持つ気楽な雰囲気がとてもいい。

「結構面白いよ。ほか、あの……妙に上手い先生の似顔とかあってさ」
「そうですか。あの、心配してたんですが……」

 翌日、担当教授から話を聞き心配して駆けつけたというカガミに、反省室生活を自慢したくらいだ。

「心配してたぞ。特に、ノアちゃんが」

 もっとも、気楽なのはオレだけだったようだ。
 ノアからの手紙を持参していたサムソンの言葉には、申し訳ない気持ちで一杯になった。
 そうだよな。
 ここ数日、皆がバラバラだと言って寂しそうだったからな……。
 帰ったら、謝ろう。
 ノアの手紙には、今日あった事や、勉強の事が書いてあった。プレインがノームと協力して何かの練習をしているらしい。

「ごめん。大丈夫だって伝えておいて」

 ノアからの手紙に返事を書いて、サムソンに渡す。
 それからも、食事は1日2回。加えて、サムソンとカガミからカロメーの差し入れがあった。
 2人は、オレのことは誰にも言わないようにとだけ伝えられたという。
 そんな反省室で日々を過ごした。
 それから3日。ちょうど飽きてきた頃、いきなり外が慌ただしくなった。

「これから、大教授による尋問を行います。失礼の無いように」

 牢屋の鍵がガチャリと開いて、一人の兵士がやってきて、そう言った。

「大教授ですか?」
「左様です。すでに3人ともこちらに来ております。立ったままお待ちください」

 3人の大教授による尋問か。
 尋問……。
 いやな響きだな。さて、どうしたものかな。
 なぜ、あの場所にいた……なんてことを聞かれるのだろう。
 ミランダにそそのかされてってのは、言い訳として辛いかな。あいつは、兵士に見つかる前に逃げやがったしな。
 こんなことなら、言い訳の1つでも考えておくべきだった。
 よくよく考えれば、事情聴取くらいはされて当然だよなぁ。
 出来ることなら、3日前に戻りたい。
 それから3日前のオレに、しっかり考えろと一喝しておきたい。
 オレがここ数日の過ごし方に後悔しているうちに、兵士は去って行った。
 それと入れ替わりに、ぞろぞろとローブ姿の3人がやってくる。
 3人ともただ者ではない雰囲気を醸し出している。
 あれが、先ほど兵士が言っていた大教授なのだろう。

「んまっ、なんですか、これは。落書きだらけではございませんか!」

 うち一人が、部屋に入るなり大声をあげた。
 つばの広い三角帽子に、ローブ姿の、いかにも魔法使いといった風貌の女性だ。

「いや……まぁ、そうですが。あのっ、コウオル先生……それは後回しにして……ですね」

 ひとりキンキン声で怒る彼女を、気の弱そうな男がなだめる。
 茶色い髪が、申し訳程度に頭に残った男だ。右手にピンと張った鎖を模した杖を、左手には真っ白い剣を持っている。白い剣は……最近見たことがある。王剣だ。王様の権力を象徴する剣で、魔法の制限などをコントロールする力がある代物だ。

「左様。左様。では、とりあえず、この場を封鎖します」

 そして、最後の一人がそう言って、何やら呟く。
 坊主頭に、ピンと張った口髭が特徴的なお爺さんだ。
 右手に大きな水晶を持っている。
 黒々とした髭は、染めているのかな。
 オレが彼の髭について考えていると、あたりの景色がグニャリと歪んだ。
 気がつくと、あたりは書斎のような場所に変わっていた。
 壁には立派な本棚。
 大教授とオレの間には、立派なテーブル。その上には、湯気のたつポットと、コップ。
 少し離れた場所には、虎が2匹。大きな窓は開け放たれて、青空が見えた。

「それでは、始めましょうか。まずは、自己紹介から。私は、このスプリキト魔法大学を預かる大教授の一人……ビントルトンと申します。本日は、リーダ君にいくつか質問があって参りました。偽りはすぐに露見し、真実は幸運をもたらします。魔法使いとしての稔侍を胸に、よき時間を過ごしましょう」

 黒髭の老人ビントルトンは、水晶をテーブルに置いて、そう名乗った。
 それから、トポトポとポットからコップにお茶を注ぐ。
 オレの分も注いでくれた。

「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 向こうがフレンドリーな態度だと気が楽だ。
 それにしても、凄いな。
 風景が一瞬にして変わるとは。
 ザ・魔法って感じだ。
 そういえば、空間を封鎖するとか言っていたな。
 あの水晶が魔導具で、その効果かもしれない。
 いや……違うか。魔法だろうな。
 王剣を持っている人がいるのだ。この景色を変えた魔法を使うために、王剣で魔法の制限を一時的に緩和したのだろう。
 そう考えると、わざわざ王剣を持ち込んだ理由に合う。

「あのっ、何か?」

 ふと目のあった髪の薄い男が、神経質そうな声で聞いてきた。

「いえ、その王剣で魔法の制限を一時解除したのかと思いまして……」
「これは、これは。アットウト先生」
「迂闊でございました」

 オレの言葉に、ビントルトンがペシリと額を叩き、髪の薄いアットウトに笑いかけた。
 一方のアットウトは驚いた表情で王剣を投げ捨てると席に着いた。
 王剣は、捨てたわけではないようだ。手から離れるとすぐに消えた。
 ああやって、消すのか。

「雑談は止めにして、サッサと始めてください。時間の無駄ですわ」

 和やかな雰囲気の中、一人カリカリと怒っている人もいる。
 油断大敵。慎重に話を進めよう。
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