召還社畜と魔法の豪邸

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第二十六章 王都の演者

しょせきこうぼう

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 ブルッカという名前の図書ギルドの職員。

 彼女はオレ達が目当てとしていた読めない本……つまり彼女が言うところの黒本というものを手に外へ出て行った。

 後を追うように外に出ると、そこには彼女を迎えるように小さな荷車を引いた馬が待っていた。

 馬には一匹のオラウータンが、まるで騎手のように座っている。そして、荷車に別のオラウータンが本の詰まった箱を抱えて近づいていく姿が見えた。



「ありがとう」



 ブルッカが馬に乗ったオラウータンにお礼を言う。そんな彼女に、コクリと頷いたオラウータンは、ピョンと飛び降り旧図書ギルドの建物へと歩いて行く。

 もう一匹のオラウータンも、抱えていた箱を小さな荷車に箱を乗せると、同じように戻っていった。



「あのお猿さんは?」



 両手を上げてトコトコと戻っていく2匹のオラウータンを見ながらノアがブルッカへと尋ねた。



「あれは先ほどの……エティナーレ様の使い魔達です。さて、皆様は歩きで?」

「えぇ」

「そうですか。わたくしは本を運ぶために馬に乗りますので……失礼」



 ブルッカは言うと同時に、ふわりと馬に跨がりゆっくりと出発した。

 馬に乗ってトコトコ進みながら、ブルッカは「こういった本なのですが」と、手に持った本をオレ達にかざして話を始めた。



「図書ギルドに行けば、何冊か保管してあるものもありますし、書籍工房に行けばあちらが管理してるものもあるはずです」

「そういったものを売っていただけるのでしょうか?」

「条件次第ですね。ただ皆様のように原書ではなく、写本でもいいということであれば、本を借りて書籍工房に写本お願いするというのが普通かと存じます」



 なるほど。コピーを取らせてもらうということか。



「複製の魔法で、本を増やすというのはダメでしょうか?」

「それは相手次第ですが、図書ギルトとしてはあまり認めたくありません。本の収集家も、信用無い人には本を貸さず、写本も信用おける工房を指定します」

「どうしてですか?」



 写本を工房にお願いするよりも魔法でやった方が一瞬で終わる。本を借りるとなると、何日かかるのかわからないし間違う可能性もある。

 それにもかかわらず、図書ギルドは認めたくないという。どういうことだろうかと疑問に思ってしまうのだ。



「まず……魔法による複製は、失敗することがあります。失敗して大事な本が失われるのが心配です。加えて多くの本はその本自体に価値があるのです。あしらわれた宝石などもそうですが、本が持つ価値を損なう複製魔法は看過できません」



 魔法で複製してしまうと、宝石などは大きく売値が下がってしまう。複製することで本の装丁などの価値が下がってしまうのは避けたいという理由か。

 その後続いて図書ギルドの仕組みや、書籍工房のことについて聞いた。

 図書ギルドは、書籍工房の紹介や、本に懸賞金をかけること、加えて翻訳などを依頼できる場所らしい。

 場合によっては冒険者ギルドへの取り次ぎもしてくれるということだ。



「ここが図書ギルドですか?」

「そうです。図書ギルドへようこそ」



 そうして話をしている間にギルドへとたどり着く。

 3階建ての石造りの建物だ。立派な柱が、建物を取り囲むように支えている。

 ギルド前には馬車が何台も泊まり、沢山の人がいて賑わっていた。



「おかえり、ブルッカ!」



 ブルッカが近づくと、一人の子供が近づいてきて馬を引き受ける。



「ノアサリーナ様、こちらでございます」



 馬を預けた彼女の後を、言われるままついて行き建物の中に入る。

 中はギリアの町にあった商業ギルドと同じような作りだった。カウンターと、壁の一方に大量に吊り下げられた木札。

 あの木札一枚一枚に何らかの依頼が書いてあるのだろう。



「私達は、ここで待っています」



 グンターロ達神官の二人は、一階で待つと言うので彼らと別れて2階へと進む。

 2階は警戒厳重だった。まるで牢屋のように頑丈な鉄の柵を、カチャリと開けて中へと入る。



「どうぞこちらへ」



 そして、案内されるまま柵で仕切られた先にあるテーブルについた。



「皆様の希望は、ここに来る途中で聞かせていただきました。ただ、やはりお金は必要になります。特に本は……」



 彼女はオレ達が席に着いたのを認めると、手に持っていた本を目の前に並べながら問いかけてきた。



「お金ですか?」

「はい。こういった本ですが……借りるためのお金、それを写本するために書籍工房に依頼するためのお金と、どうしても費用がかかります」



 なるほど。確かに、どちらもタダというわけにはいかないだろう。



「それは、最低いくらくらい必要ですか?」

「皆様の希望によって変わってきます。この本を、わたくしが知っている書籍工房に写本依頼するというのであれば、銀貨10枚程度で依頼できるでしょう。もっとも写本の依頼賃とは別に材料費が必要にはなりますし、そちらの方が遙かに高額ですが……」

「細かい条件によって金額が上下するということですか?」

「そうです。まとめての依頼か、急ぎか……条件によっても変わります」



 漠然としすぎていて、よく分からないな。

 ブルッカの言い方からすると、依頼賃の銀貨10枚は全体からみると大した額ではないように感じる。そうなると、銀貨10枚という金額にとらわれすぎると、見誤りそうだ。



「例えばこの本であれば、最低いくら用意すれば大丈夫なのでしょうか?」

「やはり、書籍工房と皆様が打ち合わせして、考えていただくしかないかと」



 余り、ブルッカは自身の口から全体的な金額を言いたくないみたいだ。

 これ以上の話は、書籍工房に行くってみないとダメなようだな。

 そうこうしていると、本が追加される。さらに5冊。

 どれも、古い文字で書かれた読めない本らしい。

 もっとも、どの本も、完全な本ではなくて、適当に繋げ合わせた物だという。

 面倒なので、全部写本する方向で話を進め、書籍工房へと行くことにした。



「書籍工房のうち一つはすぐ向かいにあります」



 図書ギルドを出たところで、ブルッカは向かい側へ指を向けた。

 真向かいなのか。

 箱につめて本を担ぎ書籍工房へと向かう。ふと見ると、この辺りは、全部、本に係るお店だったり職人の住まいのようだ。



「モッシュ書籍工房へ、ようこそ。ノアサリーナ様。なんでも写本を考えているとか。物語溢れる王都にて、特に名の知れた我が工房。ゆるりとご案内しながら説明いたしますれば、きっと信頼して頂けると考えます。では、早速」



 小太りの工房長は、待ち構えていたかのように、工房前に立ってオレ達を迎えてくれた。

 書籍工房は、完全石造りで、風通しがいい建物だった。



「この部屋にて、写本を行います。作業するのは工房自慢の奴隷達」

「沢山の人がいるのですね」

「左様です。この部屋だけでも、精鋭30人。仕切るは、校正に一生を捧げし王都屈指の職人のオッポリオ。インクはイントール親方秘伝の物」



 インクの匂いが立ちこめる通路を歩きながら、軽快な調子で工房長は説明をつづける。

 写本は1人の人間がやるのかと思っていたが、沢山の人数がかかわっている事を知る。

 文字を写す人、チェックをする人、拍子の装丁をする人……他にも沢山。

 大げさな身振り手振りで軽快に話す調子に、引き込まれる。営業が上手いな。

 ただし、依頼の交渉は難航した。

 オレ達としては、装丁などどうてもいいので、沢山の本を安く写本して欲しいが、相手は違う。



「それなりの装丁をしないと、手を抜いたと見られ、工房の評価が落ちるのです」



 ブルッカに耳打ちされるまで、その視点がなかった。

 そういうわけで、図書ギルドに本を借りる手数料も込みで金貨400枚の出費。クソ高い。

 本というのは、貴族相手の商品なので、高いらしい。

 ブルッカが言うには、どこの工房も値段的には変わらないという。料金は横並び。装丁や、文字の美しさなどで、競っているそうだ。

 分からない事だらけなので、任せることにした。



「黒本や、読めない文字がある紙片の捜索を手配しますか?」



 帰り際、ブルッカから提案があった。

 図書ギルドに、依頼してはどうかということだ。

 これにもお金がかかる。

 他にも仲介人を雇う方法もあるという。

 どちらにしろと必要なのはお金。

 王様の褒美、金貨1万枚。

 最初は、これだけあれば豪遊生活は間違いないと思っていた。

 だが、この調子で出費するとなると、途端に雲行きは怪しくなる。

 さて、どうしたものか。
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