召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

こくしのわ

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「舞踏会に行く? ノアとカガミで舞踏会に行くっていうのか?」
「えぇ、そうです。いや、私、1人でも……。ナセルディオに……報いを受けさせたいんです」
「どうやって?」
「あいつの魅了、自分の体を魔導具として無尽蔵に魔法を使う、それを封じます」

 想定していた問答なのか、まるで棒読みのように、カガミはよどみなく答える。
 その様子に、ただの思いつきではないことに気がついた。

「えっ、カガミ氏、封じる方法わかるの?」
「はい。以前、サムソンが作った魔導具がありますよね、環境転移の魔導具」

 環境転移の魔導具……ギリアの温泉を温めるために作ったやつだな。
 あの時は、火山の環境を切り取って温泉に持ち込むことで、温い温泉をちょうどいい温度に変えた。

「環境転移の魔導具をつかうのか?」
「いいえ。例えば、あの魔導具が発動中に、破壊してしまうと、魔導具が暴走するらしいんです。貯まっている魔力に応じて、暴走した魔力が、破壊のエネルギーをまき散らすそうです」
「そういうのがあるのか。それで、その話と魔導具を封じる話がどう繋がるんだ?」
「なので、延々と起動し続ける魔導具を破壊する場合は、魔力の枯渇を待つか、それとも魔導具の動作を止める魔法陣を貼り付けて、それから破壊する……そういった手順を取るらしいんです」
「魔導具の動作を止める。つまりナセルディオに、その魔法陣も貼り付けるってことか?」
「そういうことです。確実に封じる為の仕掛けを加えるので、もう少しだけ時間がかかりますが、舞踏会までには確実に間に合わせます」

 自らを魔導具とする帝国の秘術。
 その秘術を破るため、魔導具を停止させる魔法陣を貼り付ける。それによってナセルディオの魅了を無効化する。
 貼り付けるってことは、ナセルディオに近づかなくてはいけない。

「あいつの魅了はどうするんスか?」
「黒死の輪を使います」
「なんスか、それ?」
「赤死の輪は憶えていますよね? 前にリーダが付けられた魔導具の」

 1度つけられてしまえば、通常の手段では外せない首輪。
 つけられた者の魔力を吸って育ち、最後に全身に茨が巻き付き死ぬというとんでもない魔導具。
 黄昏の者スライフが解体する方法を知っていたので、事なきを得たけれど、なかなかにキツい経験だった。

「憶えているよ」
「赤死の輪は、つけられた人間の魔力を吸いますが、黒死の輪は、自らに向けられた魔法から魔力を吸い取ります。代わりに、黒死の輪を身につけていれば、あらゆる魔法の効果を無効化できます」

 向けられた魔法から魔力を吸い取る。
 今の話の流れから、魅了の魔法から魔力を吸い取るということか。
 魔力を吸い取るから、自分には魅了はかからないと……。
 だが、今までの説明だと、末路は同じなはずだ。赤死の輪と同じように、黒死の輪は、魔力を吸って育ちきった後は、身につけている者を殺す。

「死ぬんだよな? 育ちきると」
「え? 死ぬって?」

 ミズキが驚いた声をあげる。
 そうか、死ぬってところまで説明していなかったのか。

「育ちきる前に戻ります」
「話は分かったよ。でも、賛成できない」
「なんでですか?」
「危なすぎるだろ。その黒死の輪が、ナセルディオの魅了を無効化してくれるのか、断言できない。普通の魔法とは違う形で作用しているかもしれない。黒死の輪の成長速度もある。それにノアを連れて行くっていうのも、ノアと2人で乗り込むんだろう?」
「いえ。私、1人で……なんとかします。大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろ」

 ナセルディオの秘術を無力化するというのは、いいアイデアだと思う。
 だが、何かの間違いで魅了にかかったら、黒死の輪が急に育ってどうすることも出来なくなったら、考えると心配しかない。
 それに、主な招待者はノアだ。ノアが居ない状況で舞踏会に乗り込めるとは思えない。
 怪しまれて捕まる可能性だってある。

「カガミが心配だよ。他の方法を考えよ」
「ミズキ氏の言う通りだ。別に舞踏会に行かなくてもいいと思うぞ」

 心配なのはオレだけではない。
 ミズキもサムソンも説得にあたった。

「それでも、私は私の手で……」
「カガミお姉ちゃん」
「ノアちゃん」
「帰ろ、ギリアのお家に帰ろ」

 涙目になったカガミの主張に対し、ノアがとぼとぼと近づき言った。

「ごめんなさい」

 そんなノアの言葉に対し、カガミは逃げるように部屋から出ていく。

「カガミ」

 ミズキがボソリと呟き、じっとカガミの出ていった扉を見ていた。
 すっかり静かになった。遠くで、ピッキー達が金槌を叩く音が聞こえる。

「オレが話してみるよ」

 皆に言って部屋を出る。

「ノアちゃん、二階の操縦席なかなかすごいんだぞ」

 部屋を出る直前、サムソンがノアにそう声をかけていたのが聞こえた。

『コンコン』

 小さく部屋をノックする。

「オレだ。リーダだ」
「何ですか?」
「さっきの話なんだが……」

 オレが言いかけたとき、扉がガチャリと音を立て開いた。
 カガミが扉を少し開け、オレをじっと見つめた。
 泣いていたのか、目が真っ赤だった。

「どうぞ」

 カガミは小さく、そう言うと部屋の扉を開けた。
 部屋には、蛇やトカゲなど、は虫類の入った籠がいっぱいかかっていた。
 床には、植物の植木鉢がいくつかあった。
 海亀の背にある小屋から、植物や爬虫類を持ってきたのだろう。
 部屋の端には机と椅子があって、机の上には本が山積みになっていた。
 中には、ノアの持っていた赤い手帳もある。
 随分と読み込んだようだ……。沢山の紙が挟んであった。
 これだけ物があるのに、整理されていて、カガミらしい部屋だ。

「言いたいことはわかります」

 カガミは机に両手を置いて、オレに背を向けたまま話だした。

「そっか」
「でも、許せないんです」
「オレも許せないよ。だが、カガミが乗り込まなくてもいいじゃないか」
「違うんです。許せないんです」
「怒りが収まらないというのは分かる。だからと言ってカガミが危険な目に遭うのは飲めない」
「ええ、わかっています。でも、許せないんです!」

 グシャっと机に置かれた紙を握りしめ、叫んだカガミはオレの方を振り向く。
 彼女は泣いていた。

「カガミ」
「私は、殴ったり、怒鳴ったりする大人にはなりたくなかった」
「殴ってもないし、怒鳴ってもないじゃないか」
「私は……子、子供を見捨てる、大人にはなりたくなかった。子供を裏切る大人には、なりたくなかったのに……」

 カガミはがくりと膝をついて、わんわん泣き出した。
 そうか。カガミが許せないと言ったのは自分の事なのか。
 だから自分でケリをつけたいのか。
 だけれど、原因は魅了の魔法にかかっていたからで、カガミに落ち度は無い。
 それは、理解しているだろう。
 でも納得できない……か。
 カガミはずっと泣き続けた。
 オレは、そんなカガミを放っておくことも出来ずに、その場を立ち去ることもできずに、呆然と突っ立ていた。
 カガミが落ち着くのをそっと待っていた。
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