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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす
しょうたいじょう
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黒い筒をプレインが置いた途端、静かになった。
「中身は見たのか?」
「いや、見てないっス」
「とりあえずさ。持って帰って、皆で見ようかなって」
そうか。
軽い気持ちで見ようって気にはなれないもんな。
「先に、食べてから話をしよう。美味いよ、これ」
ピザを一切れパクリと食べて、2人に笑顔を見せる。
まずは食事だ。
落ち着いてから手紙を見ても、バチは当たらない。
「そうだね。お腹空いてたんだよね」
「お茶を用意するでち」
食事再開。
パクリパクリとピザを食べながら、チラリと黒い筒を見た。
ここへ、帝国へ来たきっかけは同じような筒に入っていた手紙だった。
なんで、このタイミングで……まるで挑発しているように、黒い筒が見えた。
「じゃ、読むぞ」
食事を終えて、一段落してから筒を開ける。
「今度は、手紙だけだね」
ミズキがボソリと言った言葉に頷く。
今回は、手紙だけが入っていた。
――親愛なるノアサリーナ。
その一言で手紙は始まっていた。
内容はとてもシンプルだ。
前回の手紙と同様に、やたら面倒くさい言い回しで書いてあるが、内容はシンプル。
青の月、その初日に、帝都の宮殿で舞踏会が開かれるそうだ。
全ての皇子が揃う大事な催しらしい。
ノアに対する舞踏会の招待状。
従者として女性を1人同行させることを許す。
そんな内容だ。
青の月……元の世界でいう7月か。あと一月くらい先。
「なんだ、これ」
読んだ直後、思わず感想がもれる。
同僚達も一様に同じ態度だ。
ノアはじっとその手紙を見つめていたが、何も言わずにオレに返す。
「どうするんだ?」
「無視だ。無視」
サムソンの問いに、吐き捨てるように返す。
考えるまでもない。いちいちナセルディオに付き合う必要はない。
無視でいいだろう。そう思った。
だが、それとは違う考えを持っていたい人間がいた。
カガミだ。
「少し考えさせてください」
彼女はそう言って手紙を手に取り、広間から出ていってしまった。
「リーダ」
カガミのその姿を見て、ノアが不安そうに小さく呟く。
「大丈夫だよ」
そう微笑み返すしかなかった。
まったく。せっかくカガミが持ち直したというのに、こんな手紙を放ってよこしやがって。
ナセルディオのやる事はいちいち腹立たしい。
だけれど、少しの不安とは裏腹に、カガミは冷静だった。
夕食時も、その後も、カガミは普通だった。
そして、手紙の話は再度出ることもなく、日々が過ぎた。
なんとなく暗黙の了解ではあるが、飛行島を直してギリアに戻るという方向で、皆が行動している。
手紙については一言もないが、カガミの顔色も良くなったので一安心だ。
今日はメインとなる飛行島を下からいじることになる。
いつもは連結している小型の飛行島の一つを分離させて、そこにオレとサムソン、あとリスティネルで、下に回り込む。
それから、飛行島の下から、部品を外し整理するのだ。
「やっぱり怖いな」
飛行島から除き込むようにサムソンが下を見て言う。
確かに命綱がない状況で下を見ると怖い。
大きな飛行島の時はそれほど感じなかったが、直径5メートルくらいの小型飛行島に乗っていると頼りなく感じてしまう。
今日のところは、リスティネルがいるので、落ちても大事にはならないが、いつまでリスティネルがいる訳ではない。対応は考える必要がある。
島の周りに柵でも作るかな。
「ふむ。そこのガーゴイルは外れるのか。興味深いの」
「トゥンヘルさんから教えていただきました」
メインとなる飛行島は、他の飛行島と違って、ガーゴイルの像が下部に設置されている。まるで飛行島を背負うように設置されたガーゴイル像。その彫像を外したら、その奥の方に金属線の先が見えるのだ。
先日、あの貫通する矢に打たれて、どれだけこの配線は傷ついているのかと心配になったが、無傷だったので安心する。
「あぁ。トゥンヘルさんから貰った図面通りだ。こことここをこの部品で繋げれば……」
サムソンがぶつぶつ呟きながら、用意してきた金属製の線をつなげていく。
うまくいきそうな雰囲気だ。オレの作業も問題なく進む。
自信満々なサムソンの言葉に、すぐ帰れるかなと思ったが、それから先は結構苦労した。
頭の中で全てを考え、その通り進むということはまれなことだ。
配線を繋げる途中に、石にこすらせてしまい、金属の線につけた模様がおかしくなったりする。ほんの数ミリ金属線の長さが足りず、全体をゆがめて帳尻を合わせたりすることもあった。
だが、苦労した甲斐があった。
全てが終わり、家に戻り、そして操縦席に座って動かすとうまく動いたのだ。
「いけるいける」
サムソンが大きな窓から見える外を見て、楽しそうにガチャガチャとレバーを動かし、アクセルを踏む。
高い場所を飛んでいるので、風景は雲ばかりだが、それでも景色は変わる。
見てると俄然、オレも動かしたくなった。
サムソンが一通り動かした後、オレも使わせてもらう。
「おー。雲に突っ込め!」
「おいおい、乱暴にするなよ。まだ本調子じゃない」
怒られてしまった。
だが、楽しすぎる。
「ちょっと、サムソン……いや、リーダか。飛行島がさ、揺れるから、スピード落として」
「ラジャー」
「ラジャーって……」
飛行機乗りの返事はラジャーだろ。ロマンの分からない奴だ。
スピードを出しすぎると飛行島が揺れるらしく、ミズキに苦情を言われた。
呆れて去っていったミズキなどほっぽいて、飛行島を動かして遊ぶ。
スピードを出せば揺れる。
だけど、問題点はそれぐらいだ。うまく動かせて楽しい。
あまりにも自由に動かせるので一瞬魔が差して急降下をしようとしたが、それだけは止められた。
でも、めちゃくちゃ楽しい。
「これでどこにでも行けるな」
「ギリアまで、ひとっ飛びっスよね」
一通り飛行島を飛ばして満足した後、なごやかに話ながら一階に降りることにした。
そこで、のんびりと楽しんでいたのは、オレ達だけだったことに気がつく。
「リーダ」
広間に入った途端、ミズキがオレに駆け寄ってきた。
部屋の中央にあるテーブル前、カガミが座っていて、チッキーがオロオロしている。
「何かあったのか?」
「私は……この招待状に書いてある舞踏会に行きたいと思います」
オレの目を見て、カガミがはっきりと答えた。
「中身は見たのか?」
「いや、見てないっス」
「とりあえずさ。持って帰って、皆で見ようかなって」
そうか。
軽い気持ちで見ようって気にはなれないもんな。
「先に、食べてから話をしよう。美味いよ、これ」
ピザを一切れパクリと食べて、2人に笑顔を見せる。
まずは食事だ。
落ち着いてから手紙を見ても、バチは当たらない。
「そうだね。お腹空いてたんだよね」
「お茶を用意するでち」
食事再開。
パクリパクリとピザを食べながら、チラリと黒い筒を見た。
ここへ、帝国へ来たきっかけは同じような筒に入っていた手紙だった。
なんで、このタイミングで……まるで挑発しているように、黒い筒が見えた。
「じゃ、読むぞ」
食事を終えて、一段落してから筒を開ける。
「今度は、手紙だけだね」
ミズキがボソリと言った言葉に頷く。
今回は、手紙だけが入っていた。
――親愛なるノアサリーナ。
その一言で手紙は始まっていた。
内容はとてもシンプルだ。
前回の手紙と同様に、やたら面倒くさい言い回しで書いてあるが、内容はシンプル。
青の月、その初日に、帝都の宮殿で舞踏会が開かれるそうだ。
全ての皇子が揃う大事な催しらしい。
ノアに対する舞踏会の招待状。
従者として女性を1人同行させることを許す。
そんな内容だ。
青の月……元の世界でいう7月か。あと一月くらい先。
「なんだ、これ」
読んだ直後、思わず感想がもれる。
同僚達も一様に同じ態度だ。
ノアはじっとその手紙を見つめていたが、何も言わずにオレに返す。
「どうするんだ?」
「無視だ。無視」
サムソンの問いに、吐き捨てるように返す。
考えるまでもない。いちいちナセルディオに付き合う必要はない。
無視でいいだろう。そう思った。
だが、それとは違う考えを持っていたい人間がいた。
カガミだ。
「少し考えさせてください」
彼女はそう言って手紙を手に取り、広間から出ていってしまった。
「リーダ」
カガミのその姿を見て、ノアが不安そうに小さく呟く。
「大丈夫だよ」
そう微笑み返すしかなかった。
まったく。せっかくカガミが持ち直したというのに、こんな手紙を放ってよこしやがって。
ナセルディオのやる事はいちいち腹立たしい。
だけれど、少しの不安とは裏腹に、カガミは冷静だった。
夕食時も、その後も、カガミは普通だった。
そして、手紙の話は再度出ることもなく、日々が過ぎた。
なんとなく暗黙の了解ではあるが、飛行島を直してギリアに戻るという方向で、皆が行動している。
手紙については一言もないが、カガミの顔色も良くなったので一安心だ。
今日はメインとなる飛行島を下からいじることになる。
いつもは連結している小型の飛行島の一つを分離させて、そこにオレとサムソン、あとリスティネルで、下に回り込む。
それから、飛行島の下から、部品を外し整理するのだ。
「やっぱり怖いな」
飛行島から除き込むようにサムソンが下を見て言う。
確かに命綱がない状況で下を見ると怖い。
大きな飛行島の時はそれほど感じなかったが、直径5メートルくらいの小型飛行島に乗っていると頼りなく感じてしまう。
今日のところは、リスティネルがいるので、落ちても大事にはならないが、いつまでリスティネルがいる訳ではない。対応は考える必要がある。
島の周りに柵でも作るかな。
「ふむ。そこのガーゴイルは外れるのか。興味深いの」
「トゥンヘルさんから教えていただきました」
メインとなる飛行島は、他の飛行島と違って、ガーゴイルの像が下部に設置されている。まるで飛行島を背負うように設置されたガーゴイル像。その彫像を外したら、その奥の方に金属線の先が見えるのだ。
先日、あの貫通する矢に打たれて、どれだけこの配線は傷ついているのかと心配になったが、無傷だったので安心する。
「あぁ。トゥンヘルさんから貰った図面通りだ。こことここをこの部品で繋げれば……」
サムソンがぶつぶつ呟きながら、用意してきた金属製の線をつなげていく。
うまくいきそうな雰囲気だ。オレの作業も問題なく進む。
自信満々なサムソンの言葉に、すぐ帰れるかなと思ったが、それから先は結構苦労した。
頭の中で全てを考え、その通り進むということはまれなことだ。
配線を繋げる途中に、石にこすらせてしまい、金属の線につけた模様がおかしくなったりする。ほんの数ミリ金属線の長さが足りず、全体をゆがめて帳尻を合わせたりすることもあった。
だが、苦労した甲斐があった。
全てが終わり、家に戻り、そして操縦席に座って動かすとうまく動いたのだ。
「いけるいける」
サムソンが大きな窓から見える外を見て、楽しそうにガチャガチャとレバーを動かし、アクセルを踏む。
高い場所を飛んでいるので、風景は雲ばかりだが、それでも景色は変わる。
見てると俄然、オレも動かしたくなった。
サムソンが一通り動かした後、オレも使わせてもらう。
「おー。雲に突っ込め!」
「おいおい、乱暴にするなよ。まだ本調子じゃない」
怒られてしまった。
だが、楽しすぎる。
「ちょっと、サムソン……いや、リーダか。飛行島がさ、揺れるから、スピード落として」
「ラジャー」
「ラジャーって……」
飛行機乗りの返事はラジャーだろ。ロマンの分からない奴だ。
スピードを出しすぎると飛行島が揺れるらしく、ミズキに苦情を言われた。
呆れて去っていったミズキなどほっぽいて、飛行島を動かして遊ぶ。
スピードを出せば揺れる。
だけど、問題点はそれぐらいだ。うまく動かせて楽しい。
あまりにも自由に動かせるので一瞬魔が差して急降下をしようとしたが、それだけは止められた。
でも、めちゃくちゃ楽しい。
「これでどこにでも行けるな」
「ギリアまで、ひとっ飛びっスよね」
一通り飛行島を飛ばして満足した後、なごやかに話ながら一階に降りることにした。
そこで、のんびりと楽しんでいたのは、オレ達だけだったことに気がつく。
「リーダ」
広間に入った途端、ミズキがオレに駆け寄ってきた。
部屋の中央にあるテーブル前、カガミが座っていて、チッキーがオロオロしている。
「何かあったのか?」
「私は……この招待状に書いてある舞踏会に行きたいと思います」
オレの目を見て、カガミがはっきりと答えた。
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