召還社畜と魔法の豪邸

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

あおぞらにみをかくす

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 帝国に来て色々な事があった。
 大軍で行進して、町から町を旅して、ノアの父親を自称するナセルディオに会った。
 だが、ナセルディオは、ノアの事などまったく考えていなくて、自分の為だけにノアを利用しようとした。
 この旅に意味があったのかといえば、無いとはいえない。
 だけれど、ナセルディオの一件には、皆が疲れていた。
 そんなわけで、これからの事は、少し落ち着いてから話しすることにした。
 今は、コルヌーセルの上空を飛行島は飛んでいる。
 コルヌートセルへたどり着いたときには寒かったのに、ヘーテビアーナの本戦あたりでは急に暑くなり、今はクソ暑い。

「赤の月でちから。熱いでちね」

 もうすでに夏。
 真夏の日差しは、遮る物のない飛行島では、よりキツく感じる。

「フルーツポンチを作りすぎていて良かった」
「そうっスね」

 氷をぶち込んだフルーツポンチが、生命線だ。
 だけれど、熱さ以外は、快適だ。
 飛行島は、浮くだけなら安定していて、なおかつゆっくりとした移動も可能。
 高速移動はまだ無理らしい。
 凝り性のサムソンが、この際だから怪しい所は全部直そうと、細々とした部分も手を加えていたのが裏目にでた。
 だが、老朽化した部分も補修したので、メンテナンスが終われば安定度は上がるらしい。

「あと、もう少しで移動もなんとかなりそうだ」

 そのサムソンの言葉を信じて、飛行島は浮くだけに留めている。
 そうやって安定して浮いている中、土を掘り返し、金属製の線を引き出して、魔力を流してチェックしたり、老朽化していた場合は、線そのものを入れ替えたりする。
 ここ数日は天気が良いので、強い日差しの中、メンテナンスは続く。
 サムソン、プレイン、そしてオレの3人は飛行島のメンテナンス。
 ピッキートッキーに、トゥンヘルはオーガメイジの戦闘で痛んだ家の手直しだ。

「リーダ。新しい氷持ってきたよ」
「有り難う、ノア」

 ノアも氷を作ったり、運んだりと大活躍だ。

「カガミ姉さん、今日も部屋にこもってるっスよ」

 手帳を貸して欲しいと言っていたな。
 ノアの持っていた赤い手帳。
 異世界のさらに先にあった世界で、赤い髪の人に、手帳のことを聞いたとか言っていた。

「確認したいことがあるんです」

 そんな事を言っていた。
 作業中、プレインが心配そうに家を見て呟く。
 カガミは最近元気がない。
 魅了にかかり、ノアに酷いことをしたとずっと後悔している。

「確かにな。結構やつれていたし……。どうしたものかな」
「別に、カガミ氏が悪いわけじゃないからな」

 落ち度があるとすれば、オレもだ。
 カガミ1人を行かせたわけだしな。
 だが、理屈では分かっていても、納得できないようだ。
 不可抗力なんだよと言っても、カガミは引きずっている。

「後は、これからどうするのかっていうことも考える必要があるぞ」
「確かに」

 作業も一段落し、昼食を取った後も似たような話になる。
 チッキーの注いでくれたお茶を飲んで、一息しながらの雑談。

「ラテイフさん達にお別れの挨拶が言えなかったのが、ちょっと寂しいっスよね」

 そうだよな。
 本戦の途中で、別れて以来、まったく声かけないまま今の状況に陥ったからな。
 加えて、コルヌートセルでの、オーガメイジとの乱闘。
 心配しているだろう。

「だけど、町に戻るってのもな。町を荒らしたとかいわれて指名手配されてたりしたら不味いぞ」

 確かにサムソンの言う通りだ。
 町であれだけの騒ぎを起こしたのだ。手配されていても、おかしくない。
 最悪、帝国から逃げ出す必要もある。
 ノアには悪いが……。

「あっ、いいこと思いついた」

 そんな時、ミズキが立ち上がった。
 その楽しそうな顔が、逆にオレの不安をかき立てる。

「思いついたって?」
「変装してラテイフさん達の所に行けばいいんだよ」
「変装?」
「そうそう、魔法でさ」

 あのブラウニーに対してやった、あれか。

「でも、あれってブラウニーにすぐバレたじゃないか」
「ブラウニーが賢いからだよ」

 本当にそうかな。
 どうにも変装には良い思い出が無い。
 あれ、外見や声は変わるけれど、言葉使いとかは自分で演技しなくてはダメだから難しいんだよな。
 いや、待てよ……女装じゃなければ、大丈夫か。
 でもなぁ。
 いろいろと不安になる。
 変装の魔法は、自分がきちんと変装できているのか分からないところがある。
 鏡ごしに見ないと、幻術が作用しているのか判断できないのだ。
 かといって、今の自分に対してきちんと幻術がかかっているのかを、手鏡片手に確認し続けるわけにもいかない。
 少しだけ考えたが、どうでもいいかと開き直った。
 今回は、オレがやるわけでは無い。ミズキだ。
 いいだしっぺがやるなら、オレは別に問題ない。

「いいんじゃないか」

 にこやかに了承する。

「だよねだよね」
「じゃあ、ミズキくん。よろしく」
「リーダも行こうよ」
「嫌だよ」

 ブラウニーの一件で懲り懲りなのだ。

「まぁ、いっか。じゃあ私が行くね」

 うん。そうだな。言い出しっぺが責任を取るべきだ。

「まかせた。ミズキ。発言者が実行する。それが我々のルールだ」

 オレが厳かに言った一言に対し、ミズキがハイハイと軽く応じた。
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