召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十三章 人の名、人の価値

ついげき

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 門が閉められる?
 町に閉じ込められると不味い。

「急げ、ミズキ急げ」
「すでに全力!」

 門を閉められてはたまらない。

「ダメです。こちらの門は壊れております」

 だが、兵士の叫び声で杞憂だったことに気がつく。
 そうか、海亀がぶち当たって門を破壊した時の、あのままだ。門は修理が終わっていない。
 ファインプレーだよ、あの海亀。
 茶釜は更にスピードを上げ一気に門をくぐり抜け、そして、街道を走り続ける。

「まだ追ってくるでござる!」

 しつこい。
 だが、町から外にでた事は、有利に働く。

「きゃぁ!」

 白い鎧姿の悲鳴が聞こえる。
 思いっきりぶん回した魔壁フエンバレアテがぶち当たったのだ。
 町の被害を考えなくていいので、思い切り鉄板をぶん回せる。
 そして。

「あっ。見えた! オーガメイジはあそこにいるよ!」
「ぬぅ。右から回り込む気でござるな」

 ノアが一方を指さし声をあげる。
 森に挟まれたこの道は、ある意味ドライアドであるモペアのフィールドだ。
 さっそく木の葉がオレ達の追っ手に襲いかかるように飛び交い、黄色い粉……花粉が追っての視界を惑わす。
 飛び交う木の葉は、オーガメイジに小さな切り傷を付け、まき散らされた花粉に、白い鎧姿は咳き込む。
 特に、飛び交う木の葉による傷で、オーガメイジから吹き出す血が見えることで、姿がチラチラと見えた。
 これで、幾分戦いやすくなる。

「あと2人」

 ミズキがオレ達をチラリと振り返り笑う。
 白い鎧姿の1人が落馬してゴロゴロと転がっているのが見えた。
 三対一の状況だったにもかかわらず、ミズキが1人を、馬から叩き落とすことに成功したのだ。
 だが、追っ手の数は増えている。
 どこまで逃げればいい。
 答えの思いつかない問いが浮かぶ。だが、深く考える暇はない。
 オーガメイジの強大さ、そしてあの白い鎧姿の強さと数。

『ダン……ダダダダダ』

 連続して、打撃音が鳴り響く。
 ノアがいつの間にか魔法の矢を唱えていた。
 何10本もの矢が白い鎧姿にぶち当たる。オーガメイジにもだ。
 そして何10本目かの魔法の矢があった時に、オーガメイジが姿を現した。
 透明化の魔法が切れたのだ。
 昔ギリアでゴーレムにより倒すことができた。褐色の巨人。あれ、そっくりだ。
 違うのは、こいつは、全身に刺青を入れているところ。
 そして右手には眩しく煌めく金属製の小手を付けているところだ。
 やつが全身に入れている刺青は魔法陣だ。
 使いたい魔法があるときは、体に入れた入れ墨を手で掴み取るようにさわり、詠唱するようだ。
 奴が何かの魔法を使う。一瞬だけ黄色い盾が奴の周りに複数出現した。
 どうやら魔法の矢に対する防御のようだ。
 一瞬だけ現れた黄色い盾が消えた直後から、魔法の矢がまったく当たらなくなった。
 正確には、当たっているのだが、霧のように消えてしまうのだ。

「オォウガゥアァ!」

 オーガメイジが、大きな声で吠えたかと思うと、また新しい魔法を詠唱する。
 青く光った奴の口を見て、とっさに不味いと判断し、魔壁フエンバレアテを総動員して奴にぶち当てる。
 バランスを崩したオーガメイジの口からビーム砲のような雷撃を打ち出され、それが茶釜を狙った。
 だが、バランスを崩したことが功を奏したようだ。
 放たれた電撃は、茶釜を大きくそれ、地面に長細い穴をあけ、続く2撃、3撃目も、茶釜が体を動かすことで、避けることができた。
 だが、急にジグザグに動いたことで、さらに大きく馬車は揺れた。
 凄いスピードで逃げているだけに、今にも外れそうな車輪がいつまで持つのかを考えるのが怖い。

「痛い」

 ノアのつぶやきが聞こえる。

「大丈夫?」
「ちょっと頭ぶつけただけ。でも、ハロルドが」
「なんの! まだまだぁ!」

 心配するノアの言葉にニヤリと微笑み、大きく剣を振り回し、白い鎧姿を牽制する。
 だが、ハロルドは腹部を大きくえぐられるような怪我を負っていた。
 オーガメイジに魔壁フエンバレアテを総動員したことがあだになっていた。
 片手で俺を掴み、片手で剣を振るうような形で白い鎧姿を4人同時相手している。
 ハンディキャップが大きすぎる。
 しかもエリクサーを飲む隙さえ与えてくれない。
 この状況が続けば、やられてしまう。
 何か手を考えなくては……。

「ミズキ! このままじゃジリ貧だ」
「大丈夫、あと少しでゴール!」

 オレの声に、ミズキが意外な答えを返す。
 ゴールだって?
 次の瞬間、オレ達は空中を走っていた。
 そして、その先には飛行島。
 さらに飛行島の端には四つん這いになるように、オレ達を見つめる1人の影。
 カガミだ。

「目が覚めたのか」
「そうみたい。カガミが魔法の壁で道を作ってくれてる。駆け上がるよ」
「あぁ」
「プレインお兄ちゃんだ!」

 さらにオレ達の前方に、プレインがパッと姿を現す。

「あの変な矢を撃ってた奴に、ありったけの品物をぶち当ててやったっスよ」

 そう言って、プレインはすぐに姿を消す。

「全員無事か?」

 電撃の魔法で、オーガメイジを迎撃するサムソンの声が聞こえた。
 シューヌピアは、矢を放って白い鎧姿を攻撃してくれている。

「いっけぇ!」

 ミズキが叫んだ。
 次の瞬間、オレ達は飛行島に乗り込む。
 急に方向転換した茶釜により馬車は大きくひっくり返り、オレ達は飛行島に投げ出された。

「まだまだ油断できぬ」

 起き上がり、ノアからエリクサーを受け取りかけていたハロルドが警戒の声をあげる。

『ドン』

 それとほぼ同時、ハロルドは地面から湧き出るように姿を現した七色に光る矢に貫かれ、倒れた。
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