召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十二章 甘いお菓子と、甘い現実

いがいなおきゃくさん

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 一生懸命説明した。
 おかげで事なきを得た。
 というより、ノアの聖女としての名声と、特別招待状の威光によるものだ。
 捕らえられるなんてことにならなくて良かった。
 ちなみに、兵士達にはアレが海亀に見えなかったらしい。
 確かにモヒカンの巨大な亀がつっこんできたら焦るし、海亀には見えないか。

「だが、いかに聖女様といえど、町に騒ぎを持ち込んだ責任はとっていただきたい」

 南門の兵士長はそう言った。
 そして、海亀は町に入ることが禁止された。
 だが、オレ達が、町への出入りすること自体は、自由にしていいらしい。

「なんだか、相当揉めていたように思います。思いません?」
「カガミ氏の言う通りだ。なんかお偉いさんが議論していたな」

 聖女様を追い返すわけにはいかない。
 でも、町を混乱させたのに、お咎め無しというわけにもいかない。
 そんなわけで、対応をどうするのか悩んだようだ。
 ごめんなさいと、謝るほかない。
 当の海亀は、久しぶりに故郷の海藻を食べることができてご満悦だ。

「よくこんなに買えたな」

 山盛りになった、四角い板状の海藻を見て不思議に思う。
 遠方より仕入れた品物だ。
 それなりの値段がしたのではないかと思う。

「なんかさ、職人が急に辞めちゃって使い切れないから、どうぞってさ」
「お菓子屋から買ったのか?」
「そうそう。運んでる人は、もう売り先がきまっているって言われてさ。もしかしたら菓子職人に余り物を譲ってもらえるかもよ……って言われて、探して見たの」

 ふらりと町に入ったきり、帰り遅いなと思っていたが、結構苦労したのか。

「へぇ。それにしても、これがお菓子の材料になるなんてな」
「せっかくだから、そのお菓子とやらを明日買いに行こうか?」

 この白い板が、どういうお菓子に変わるのか興味がある。

「そうっスね。観光もかねて」

 お菓子の都といわれるコルヌートセルの第一印象は、甘ったるい香りだ。
 嫌なにおいではないが、洋風のお菓子特有の香りが漂う。
 真っ白い壁と、うす黄色の壁の家に、カラフルな屋根。
 立ち並ぶ多くの店が、お菓子屋がだからだろうか、可愛らしいという言葉の合う町並だ。
 そして、活気に溢れていた。
 お菓子の祭典ヘーテビアーナは、もうすぐ始まるということで、今は準備の追い込み作業ということだ。
 そう聞けば、なかなか良いタイミングで訪れることができたと嬉しくなる。
 のんびり観光して過ごせば、予選開始で祭りには、始まりから終わりまでの全期間楽しむ可能ということだ。
 行進も、第1皇子にお任せしたしな。

「海亀さんは?」
「町に入れないから、お留守番だね」
「だったら、おいらが留守番します」

 今日は、海亀の背で過ごすからいいけれど、明日以降は誰かが留守番をしなくてはダメだろうな。
 だけれど、いつもピッキーに任せきりというわけにもいかない。
 万が一を考えると、同僚かオレの誰かが残る必要もあるだろう。

「留守番は交代制にしよう。どうせ、しばらくこの町をぶらつくだろう?」
「そうっスね」
「それじゃ、とりあえず明日の留守番を決めよう。じゃんけんだ」

 ……ということで、オレが負けてお留守番。
 もう1人は、サムソン。

「お土産期待しててね。留守番暇だからって、出歩いちゃダメだよ。迷子になっちゃう」
「うるさい。ミズキ。はよ行け」

 こたつにこもったままの海亀のお守りとして留守番する。
 ロバに、茶釜と、その子供達も、こたつに入って出てこない。

「どうするんだ?」
「何が?」
「ノアちゃんのお父さん。おそらく第3皇子で間違いないだろ?」
「相手が皇子ってのは驚いたな。どうするかっていうのは、ノア次第だよ」

 あまりにも、暇なので、ゲームをしながらサムソンと雑談して過ごすことになった。
 昼飯はノアが置いていってくれたカロメーと昨日の残りがあるので、ある意味暇なのだ。
 考えてみると、皇子といわれれば腑に落ちることも多い。
 手紙の豪華さや、使者の偉そうな態度。
 国から出られないというのも、立場というものがあるのだろう。
 だが、ノアが会いたいというのなら、成り行きに任せるほか無い。
 もし、何か問題があるのであれば、その時に対応するしかない。

「そうか。そうだよな」
「ところで、屋敷の魔法陣はどうしたものかな」
「行き詰まっているな」

 屋敷の地下にあった超巨大魔法陣。
 思った以上に進捗よく、パソコンの魔法に取り込むことができた。
 そして、プログラム言語への変換もできた。
 だが、分からない事が多い。
 魔法陣とプログラム言語の対照表を作成し、その対照表をパソコンの魔法に取り込む。
 そうやって、変換をしているのだが、未知の言葉があった。
 そこは、星マークでわかるように変換しているのだが、星マークが多すぎるのだ。

「やっぱり、今以上の資料が必要か」
「そうだな。あとは、対照表の洗い直しが必要だと思うぞ」
「今後はそちらにも力を入れるか」
「一応、魔導具から魔法陣の抽出もできそうだから、それも資料になると思う」
「へぇ」
「フェズルードで見つけた本に方法が載っていた。魔導具のメンテナンス方法だそうだ」

 サムソンが、部屋の隅にある柱、模様のように魔法陣が描かれていて、たまに白い光が走る柱を見ていった。

「メンテナンスか……魔導具も手入れが必要なんだな」
「そうらしいな」

 メンテナンスに、魔導具から魔法陣を抽出か。

「それなら、魔導具の効果を、魔法陣にすることで、魔法として使えるのか?」
「試したが、上手くはいかなかった。一応、カガミ氏はもう少し研究するらしいけど。だめでも、新しい魔導具を作るヒントにはなる」
「いいな。少しでも進めることができれば、いずれ問題は解決する」
「あとは……残された時間だな」

 ノアが居ないときには、こんな話ばかりになる。
 超巨大魔法陣と、オレ達の残り時間。
 オレ達の命約は、減り続けている。
 以前、テストゥネル様が言っていたように、減るスピードは穏やかだ。
 だが、ゆっくりと、確実に減っている。
 あと23。
 つまり、ノアがオレに託した願いはあと23個あるということだ。
 ノアの願いが叶う度に、ノアが幸せに近づく度に、オレがこの世界に留まる力は失われる。
 皮肉なものだ。

「だが、命約数に関しては対処方法がない。今まで通り、進めるしかないな」
「そう……だな」

 それは、サムソンとの雑談がしんみりとした雰囲気で進んでいた時だった。

『バァン』

 突如、豪快な音をたてて扉が開いた。
 いきなりのことで、椅子から転げ落ちそうになりながら、入り口を見る。

「おや、2人だけか?」

 そこには、金髪縦ロールの派手なお姉さん。
 正体は、金竜。
 世界樹にいるはずのリスティネルが立っていた。
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