召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者

だれかがしきを

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 死に忘れは、倒すのにとても時間がかかる。
 名前のとおり死を忘れているから、攻撃を受けても死んだことに気がつかず戦い続けるのだ。
 聖なる力で浄化すれば、なんとかなるようだが、神官の数が間に合っていないようだ。
 だが、浄化できなければ、死を忘れた魔物、死に忘れは、何度倒しても深く傷を与えても倒れない。
 浄化以外の対策は、死に忘れが死を思い出すまで攻撃し続けることで、それはオレ達以外には難しいらしい。
 さて、どうしたものか。
 どう動けばいいのか見当もつかない。
 だが、まずはできることから片付ける。
 ノアの援護だ。
 とりあえず他に犠牲者が増えないようにと、茶釜の子供2匹を海亀の小屋へと入れる。

「ピッキー! トッキー達と一緒に小屋に入れ! 武装して、援護を頼む!」
「分かりました!」

 それから、ピッキー達3人に、武装した上、小屋から出ないように伝える。
 あとは空を飛び回る魔物と戦いながら、茶釜の子供を奪還しようと四苦八苦しているクローヴィスとノアを援護する。

「ノア!」
「大丈夫! 受け止めたよ!」

 その甲斐があって、なんとかノアが茶釜の子供を取り戻していた。
 子ウサギを抱きしめて、ノアが降りてくる。
 茶釜はそれに安堵したかのように駆け寄って頬ずりした。
 だが、まだ戦いは終わっていない。
 クローヴィスが人型になって、オレへと駆け寄ってくる。

「だめだ、バラバラに戦ってるよ! 皆!」
「いろんな所から襲ってくるからかな」
「違うよ、あんなにいっぱい騎士がいるのに、なんでバラバラに戦うんだよ!」
「クローヴィス君は、どんな状況かわかるんですか?」
「まぁね、いっぱい勉強したから」

 小屋から身を乗り出して声をかけてカガミに向かってクローヴィスは答えると、そのまま身軽な動きで小屋へと入っていく。
 それからキョロキョロと小屋を見回し、オレ達に向かって声をあげる。

「えっと、このコップが隊列」

 そう言ってテーブルにあるコップなどを並べて現状の説明を始める。

「五つ並んだコップ、これが隊列。で、こうやって上の方から……」
「ちょっと待て、こっち使った方がいいだろう」

 サムソンがゲーム板を持ってくる。
 暇つぶしに作った将棋だ。

「うん! こっちの方がいいかも」

 将棋の駒を、クローヴィスがテキパキと並べて説明を再開する。

「隊列があって、上の方から魔物が攻めてきている」
「なるほど、クローヴィス君は、空から見たんだな」
「でも、弓を持ってる人が前に出てるんだ。こっちの盾を構えた兵士と横並びで戦ってる」
「盾を持った人が前にでて、後ろから矢を撃ったほうがいいのに?」
「そうなんだ。あんなにいっぱい人がいるのにバラバラなんだ」
「それぞれの諸侯に指揮官がいるから、指揮官同士の連携がうまく取れてないのでござろう。寄せ集めの軍にはよくあることでござる」

 ハロルドはそんなクローヴィスの言葉に解説を入れる。
 連携がとれていないからバラバラに戦っていて、効率が悪いということか。

「それなら、誰かが指揮をとればもっと上手く戦えると?」
「上手くいくでござろうな」
「ハロルド様が指揮をとれば……」
「ピッキーが言うこともわかるでござるが、拙者では諸侯は従わぬでござろう。諸侯の指揮官には、プライドがあるでござる。大義がなければ従いたくても従えぬでござるよ」

 上手くいくのはわかっていても、プライドがそれを許さない。
 なんで俺様が、あいつの言うことを聞く必要がある……といったところか。
 めんどくさいが、この状況ではそれをいちいち説得する余裕はない。

「ノアの名前でぇ、指揮をとるのは?」

 ロンロが声をあげる。

「ノアの名前で指揮?」
「ふむ、姫様が指揮をとっているという建前でござるか。指揮する内容が、もっともな指示であれば、言うことを聞くやもしれぬな」
「ノアノアが皆に命令するってわけ?」
「実質は違うでござる。建前だけ。姫様の言葉を誰かが伝えるような形をとるでござるよ。おそらく諸侯も、今のやり方がいいとは思っていないでござろう。そうであれば、いいわけを用意できれば、いいと言うことでござる」
「聖女様の言葉であれば、協力してもいいだろう……って感じか?」
「そういうことでござる」
「具体的な指示はどうする?」
「じゃあ、ハロルドが……」
「隊列を整えるくらいはできるが、全体の作戦をどうするかが問題でござる」

 全体の作戦か。
 隊列を整えて戦うだけでも十分だと思う。
 そりゃ、一気に片付けることができる作戦があれば別だろうけれど。

「でさ、今は敵はどういう風に攻めているの?」
「こんな風に……こっちから、こんな感じで攻めてきているよ。急に方向変えて、後ろの人達が狙われてる」

 クローヴィスが先程空から見た様子を教えてくれる。

「本当によく見ているな」

 彼の説明によると、細長い行進に北の方から大きく分けて2つの魔物の群れが向かっているという。
 ユテレシアの説明では、3つの群れだった。
 今、そのうち一つと戦っているわけだから、ユテレシアの説明と一致する内容だ。
 そして、2つの群れのうち、先行する一つが、オレ達の方に向かっていたが、いきなり進行方向を行進の後方へと変えているところだったという。

「俺達が狙いというわけではなくて、この隊列そのものが狙いなのか?」

 サムソンが独り言のように呟き、魔物の群れを表す飛車の駒をつつく。
 魔物の暴走。ただの偶発的な事故なのだろうか。
 だが、そんな気はしない。
 これには意味がある。
 イ・アという奴が言っていたこと。
 以前、パルパランが襲撃したように、この魔物の暴走もまた、襲撃の一つでないかと考えてしまう。
 あまりにも規模が大きく、ピンポイントで行進を狙うタイミング。
 どうしても、何らかの意図があるのではと考えてしまう。
 加えて、今回は死に忘れの大群。
 神官達もうろたえる量の死に忘れだ。偶然とは考えにくい。

「そういえば、死に忘れが増えてるって聞いたけど、後ろの方のやつらの方が死に忘れ多いってことか?」
「なんか、どんどん黒いやつが増えていたよ」
「私も見た。増えていたの。黒いのが」

 死に忘れとなりつつある大量の魔物か。
 そんな魔物が狙っているのは行進の後方。
 対するオレ達はまとまりがない状況での対処している……か。
 この状況で今でているアイデアは、ノアの名前で指揮を執ること。
 目的は、迫りくる敵を撃退し、犠牲を出さないこと。
 欲しいのは情報と対策案。
 混乱の声が続くなか、急ぎそれらをまとめてはなくてはならない。
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