召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

ラプテイオ一味

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 海亀に、助け出した人達を乗せて右の砦とやらに向かう。
 助けたうちの一人である伯爵家のご令嬢ピサリテリアが、魔法で生み出した蝶々についていった先。
 そこはモルトールの町を象徴する大きな砦の1つだ。
 右の砦と呼ばれる建物らしい。
 質素な外観の砦。
 入り口で、門番へと声をかけて、助けた人を引き渡す。
 ついで、クビシテリア男爵の屋敷が本拠地であることなどを説明した。
 最初は、どうにも応対しかねていた門番だったが……。

「ネックリート伯爵家の者を、こんな所にいつまで立たせる気?」

 ピサリテリアが前にでてこんなことをいうと、門番は駆け足で砦へと入っていき、すぐに責任者がオレ達に会うという事になった。

「いってらっしゃい」
「ノアノア頑張ってね」
「うん」

 面倒ごとは任せたとばかり、オレとノアだけがピサリテリアと一緒に砦の中へと入っていく。
 同僚達は海亀の背で休むそうだ。
 ノアに働かせて自分はさっさと休むとは。
 まったく。

「では、ここにてお待ちくださいませ」
「えぇ。ありがとう。あと、家の者へと使いを」
「かしこまりました」

 砦に来てからの彼女は水を得た魚のように、自信満々に動いてくれる。

「私の分しかないけれど、ノアサリーナの分も、それに表の海亀にいる者達にも何か飲み物を」
「申し訳ありません」

 本当に、偉いさんというか、人に指図するのに慣れている感じだ。
 大人ってわけでもないのに。
 すごいな身分ってやつは。
 もっとも来る前も、ピサリテリアはそんなに大人しかったわけではない。
 この砦までの間も、次々と魔法を使い、綺麗な服を取り出して着替えたりするなど、有能さをこれでもかと言うくらいにアピールしていた。
 これぞ魔法使いって感じだ。
 そして、その度に応対していたノアが「凄いですね」と褒め、ピサリテリアは「私、スプリキト魔法大学の学生ですもの」と答えていた。
 彼女にとってスプリキト魔法大学の学生というのは誇りなのだろう。
 ノアと二人のやり取りが微笑ましかったので笑ったら、睨まれた。
 失敗失敗。
 他にも、彼女は偽装の魔法によって身分を偽っていたから、奴隷と間違われて連れ去られたことがわかった。
 奴隷専門の誘拐犯だったそうだ。

「いつまで待たせるのかしら?」

 そんなことを考えながら、ぼんやりと部屋の調度品を眺めていると、ピサリテリアが痺れを切らした言葉を漏らした。

『カチャリ』

 それとほぼ同時、複数の使用人を連れ一人の人間が入ってきた。

「お嬢様!」

 入ってくるなり、ピサリテリアへと声を駆け寄っていったので、彼女の知り合いなのだろう。

「お祖父様は?」
「はい、旦那様はお嬢様がいなくなったことに大変ショックを受けられまして。はい……その寝込んでおられまして」
「そんな……私のせいで」
「ですが、お嬢様がご無事との知らせを聞いて、やっと気を取り直しましてございます。ですが、まだ……」
「ごめんなさい、私が思い上がっていたせいで」

 そして、それに続き、鎧姿の男が入ってきた。
 他の兵士とは違って身なりがいい。
 着込んでいる青い鎧も装飾が施されていて、勲章がいくつもついた赤いマントが目立つ男だ

「これは、これは、よくぞご無事で」
「えぇ。隣の者達が助けてくれました」
「聞き及んでおります。ラプテイオ一味の者を一網打尽にし、なおかつ囚われていた者達を助け出したとか。よくぞやった。して、其方がノアサリーナだな」

 鎧姿の男はノアへとしかめ面で声をかけた。

「ご挨拶が遅れました。ギリアの領民ノアサリーナにございます」

 しかめ面に、怯むことなくノアは立ち上がり、向き直るとスカート
の裾を小さく摘まみ挨拶を返す。

「では、後は任せました」
「ピサリテリア様はどちらへ?」
「私、すぐにお祖父様の元へ戻らなくてはなりません。ですので、これにて退出いたします。ノアサリーナ達は私を助けました。くれぐれも失礼な対応をとらないようにしてくださいませ」
「もちろんでございます」

 ノアが挨拶した直後、令嬢はそう言ってそそくさと使用人をつれ退出した。
 先ほど、彼女の祖父が寝込んでいるという話をしていたので、一刻も早く元気な姿を見せたいのだろう。

「さて」

 彼女が部屋を出て行くまで見送った後、鎧姿の男はオレ達に向き直り言葉を続けた。

「今回、其方達が捕らえた一団には賞金がかけられている」
「そうでしたか。名の知れた者達だったのですね」
「うむ。ついては調査のうえ、報奨金を支払うことになる。なので、それが終わるまではモルトールに滞在していただきたい」

 えっ?
 報奨金は嬉しいが、モルトールの町に滞在?

「それは時間のかかることなのでしょうか?」

 思わず主人であるノアを差し置いて、オレが口を出してしまう。
 鎧姿の男が眉尻をピクリと上げてオレを睨んだ。
 最近は、結構自由にできていたが、ギリアとは違ってオレが好きに声をかけていい状況じゃなかった。
 ギリアの人達は、なんだか諦めている感じがあるからな。

「私達は少し急いでおりまして……その、モルトールに滞在するようにとの急な話でありましたので、驚いてしまったのでございます。それに私はまだこのような幼い身。ですので、多くの事は後ろにいるリーダに任せています。そのため出た発言でございます。お許しくださいませ」

 すぐにノアがフォローしてくれて事なきを得た。

「そうか。だが、困りましたな。其方の捕らえたラプテイオ一味は、奴隷専門の盗賊ということで、それなりに名の知れた一団。領主様としても、驚異は取り除かれたとアピールしておきたいでしょうからな」
「そうでございましたか」
「よって、なんとか予定を調整してモルトールに滞在していただきたい」
「リーダ」

 ノアが、ここから先は任せたとばかりにオレを振り返り名前を呼ぶ。
 オレは軽く頷き引いて、受けた事を態度でしめした。
 慣れない人とのやり取りは、こんな芝居がかったやりとりが必要でめんどくさい。

「難しいです。私達は急ぎの用がありますので、ところで報奨金の受け取りまでどれくらいの時間が必要なのでしょうか?」
「一味の者が多いからな。壊滅したのか、それとも一部を捕らえたのかで話は変わる」

 そう言って、鎧姿の男はしばらく唸るように小さく声をあげ考え込んだ。

「それほどに変わるのですか?」
「うむ。調べると、丁度な、今朝ほど条件付きで報奨金の積み増しがあったのだ」
「今朝……積み増し……ですか?」
「一味全員を捕らえた場合は、報奨金に金貨1000枚が追加される。このため、確認に時間がかかる。特に、倒壊した建物の下敷きになっている者もいるのでな」

 今朝に積み増しか。
 タイミングが悪いのか、それともいいのか。

「それは時間がかかりそうですね。私達は帝国へ雪が降る前にたどり着きたいのですが……」
「領主はセレモニー好きなので、難しいだろうな。報奨金の問題だけではない。今回の件は、伯爵のご令嬢を助け出したという点において名誉な事でもある」

 そう答えた後「ぞんざいには出来ぬ……」と小さく呟き鎧姿の男は再び考え込みだした。
 だが、先ほどの質問には即答だった。
 つまり、数ヶ月かかるという見込みなのだろう。
 報奨金は惜しいが、早く出て行きたい。
 さて、どうしたものか。
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