召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

ハイエルフさんたち、わたしたち

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「ロンロ。次はこの家だ。この下、ちょっと見てくれないか」
「わかったわぁ」

 ハイエルフの里で、仕事を始めて早2週間がすぎた。
 仕事時間はやや長め。
 労働するのはオレと同僚だけだ。ノア達は長老の家でお留守番。
 飛行島は密集しているとはいえ、島と島の間には隙間がある。
 隙間を飛び越え、作業を進めることになる。

「おっとと」
「ちょっと! リーダ大丈夫?」

 たまに足を踏み外しそうになる。念の為、命綱をしているので、最悪な状況にはならないはずだ。だが、油断はできない。
 世界樹の中であれば、リスティネルが助けてくれるそうだが、飛行島はそうではない。

「ハイエルフが何をしようと勝手。なれど、私は、手を貸す気はない」

 リスティネルの言葉だ。口調から、飛行島を使うことが気に入らないようにも思えた。
 まだ踏み外したことはないが、風が強い時も多いので慎重に進めたい。

「やっぱりノアノア達連れてくるのは不安だよね」
「今日なんか、風が強いっスからね。ノアちゃんだと吹き飛ばされそうっスね」

 ノア達にも手伝ってもらおうという話もでたが、飛行島間の移動がネックとなり、話は流れた。

「一カ所に腰落ち着けて仕事するなら、いいんだけど。最近は飛行島飛び回ってるしね」

 そんなわけで、オレ達だけで仕事をする。
 ハイエルフ達は、最初こそ印象が悪かったが、ノアを受け入れてくれるし、思ったよりも親切だった。
 住み込みで作業を進めていくと、里のことも分かってくる。
 情報源は、もっぱら夕食時の皆との会話だ。

「私達は、小さい頃からずっと一緒だったんです」
「幼なじみなんですね。そういのって素敵だと思います」

 シューヌピアが言うには、兄カスピタータと、ツインテールの2人。シューヌピアを含めて4人は子供の頃からいつも一緒だったそうだ。
 ハイエルフはめったに子供を授からないらしい。同時期に、4人の子供が生まれるというのは滅多にない。だから4人は特別に育てられたという。

「里に4人も子供がいるというので、当時は苦労したと、今でも言われるんですよ」

 色々な知識を学ぶチャンスを与えられたそうだ。
 他にも、地上を旅するという役目を仰せつかり。無事果たした事というのも彼女たちのハイエルフの里における地位を押し上げる一因ともなったという。

「地上は過酷というか不思議なところです。私たちの常識が通じないことも多々ありました」

 そうだろうな。元の世界におけるオレ達で考えるなら、海外旅行をするようなものだ。

「常識って?」
「そうですね……言葉には苦労しました。長老から一応習ったのですが、どうしても駄目で。最後は、シルフにお願いしたんですよ」

 シューヌピアは笑いながら言うが、語学は難しい。オレ達もシルフの助力がなかったら、どうなっていたことやら。

「文字も違いますよね」
「そうなんです。文字。ルウオ文字がなんとか、ヨルノ文字は絵本くらいしか読めなくていっつも兄に頼り切りでした」
「ヨルノ? ルウオ?」
「ヨルノは、ギリアで使っていた文字……と思います。ルウオは……」
「南方ですよ。もっとも南方は言葉も文字も沢山あるんですけどね」

 言葉も文字も、苦労していなかったから意識しなかったが、そんな呼び名があるのか。
 何にも考えていなかった。
 シューヌピアさんの話、ノアや獣人達3人の話、オレ達の仕事の話、話題は事欠かない。
 充実した日々だ。
 それに、風にゆられうごく、枝に張られた道にも慣れてきた。
 慣れてくると周りの風景をみる余裕もでてきた。
 ここが世界樹の上にあるとは思えないほど、自然豊かな里だ。
 樹の幹にそって、滝がながれ、夕方には枝と枝の間を踊るように動き回るサラマンダーが、明かりを提供してくれる。
 昼間は皆がゆったりとしている。
 一生懸命仕事をするのが馬鹿馬鹿しくなる。地上で肉がまっていなければ、1年くらいはここにいたい。
 音楽を楽しみ、詩を語るハイエルフ達をみると、そりゃこの生活を守りたくなるなと感じる。
 オレ達がお仕事をしている間、獣人達3人はハイエルフ達からいろいろと習っているらしい。

「トゥンヘル親方とピッキー兄ちゃんが同じ事やってたでち」
「案外面白いハイエルフなんですね、トゥンヘルさん」

 夕食の時は、3人の体験談がよく話題にあがる。
 ノアは基本的に長老の家か、オレ達のところ以外には行ってはならないことになっている。
 なんでも呪い子としての力が世界樹に悪影響を与える可能性を危惧されているようだ。
 故に監視付き。もっとも監視といっても、いつも長老かリスティネルが様子を見る程度なので大した事はない。
 獣人達3人はその点、比較的自由に行動できるらしいが、それでもやはりあまり歩き回らないそうだ。
 だからといって彼らが辛い思いをしているかというと、そういうわけではない。
 ノアはエルフの長老から直々に魔法について色々と教えてもらっているらしい。話を聞く限り、ハイエルフの持つ知識は凄い物だ。
 魔力の性質を視覚的に判断することもハイエルフは出来るそうだ。

「あのね、限りなく透明に近く薄い青なんだって。私の色」
「透明に近い青って、素敵です」
「うん。ノアノアにぴったりだよ」

 ロンロが昔言っていた魔力の色か。
 ノアは水色なのか。
 でも、魔力の色って、特性を持つのじゃなかったかな。呪い子は、特に色が影響力を持つとか言っていたはずだ。

「特性ってやつは聞いたの?」
「魔力自体が、束縛からの解放? 力を持っているんだって、リスティネル様が言ってたよ」
「へぇ。なんだかかっこいいな。ノア」
「えへへ」

 束縛からの解放……、ジラランドルを拘束していた鎖を壊せたのはノアの魔力が持つ特性だったのかな。それに、封印、聖剣を抜くことができたのも、もしかしたら……。
 ともかく皆、楽しそうで何よりだ。
 仕事して夕食時に報告を聞く。
 どれもこれも、楽しい話で聞いていて疲れが吹き飛ぶ話だ。
 そんな感じで、ちびちびと作業を進め、充実した日々が続く。

「おい、ちょっと見つけたんだが……」

 そんなある日サムソンが、何かを見つけたと報告をしてくれる。
 そして……。

「リーダ。飛行島の下にぃ、魔法陣、見つけたわぁ」

 ロンロは魔法陣を見つけたという。
 出来事、発見は重なるものだ。空飛ぶ家に関してエンジンの魔法陣となる可能性があるもの。そして、魔法陣そのものを解析している途中でサムソンが見つけたもの。
 私生活も、仕事も、順調に進んでいることが実感できて良い感じだ。
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