221 / 830
第十三章 肉が離れて実が来る
穏やかな日々(ノア視点)
しおりを挟む
「いってらっしゃーい」
大きく手を振り、リーダ達を見送る。
ハイエルフの里に来て、もう早1ヶ月が過ぎようとしていた。
「トゥンヘル親方。できました!」
「おいらも!」
トッキーとピッキーはハイエルフの大工さん、トゥンヘルさんから大工仕事を習っている。複雑に彫り込んだ木を組み合わせてくっつける不思議な技術だ。
それを使って、海亀の背中に乗せた小屋を立派なものにすると頑張っている。
「うん。昨日よりもずっといい。さて、昨日作ったものと……こう組み合わせると……」
「椅子だ!」
「そう、椅子になる」
「釘も使ってないのに。トゥンヘル親方が座ってもびくともしない」
ハイエルフのトゥンヘルさんは、最初はちょっと怖い人かなと思ったけれど、とてもいいおじさんだった。
初めて会ったとき、トゥンヘルさんは怖い顔をして、長老様のお家をウロウロしていた。
カガミお姉ちゃんに、矢を放って怪我させてしまい、ウンディーネに怒られてしまったらしい。一生懸命に謝っていたけれど、ウンディーネはゆるしてくれないのだとか。なんだか、可愛そうになって、私達も一緒になってウンディーネにごめんなさいをしたら、ウンディーネは許してくれた。
そうしたら、仲裁してもらった恩があるからといって、大工仕事の先生になってくれたのだ。
他にも、世界樹の下の方まで降りて、とっておきの果物を取ってきてくれた。
「すごい大きなイチゴだよ。これ」
「いいっスね」
プレインお兄ちゃんもミズキお姉ちゃんもびっくりしていた。
その日の夜は、皆でその果物を食べた。大きなイチゴ。
ここ最近はずっとこんな感じだ。
朝、お仕事にいくリーダ達を見送って、夕方は皆でご飯を食べる。そして、その日にあったこと、思ったことをおしゃべりするのだ。
「トゥンヘル親方が、地上で旅をした話を聞きました」
「どんな話だったスか?」
ピッキーが、トゥンヘルさんのお話を始める。
「私はね、地上に降りて旅をしたことがあるのさ」
トゥンヘルさんはそう言った。
なんでも600年ほど前に地上に降りて旅をしたことがあるらしい。
続くお話は、リテレテを食べ過ぎてお腹が痛くなったという旅の思い出だった。
「おいらも、お腹痛くなったことあります」
ピッキーが嬉しそうにトゥンヘルさんに言う。
「おいしいもんな」
そう言って、ピッキーと一緒に笑っていた。私も笑った。
そして、そんなピッキーのお話を聞いて、リーダ達も笑った。
次の日は、チッキーとシューヌピアさんのお話だった。
数日に1度、シューヌピアさんが裁縫仕事をチッキーと私に教えてくれるのだ。
「いたぃ」
「あぁ、大丈夫? ……ちょっと血止めの……」
「大丈夫でち。お祈りすれば治るでち」
慣れた調子で、お祈りしてチッキーは針で怪我した指を治してしまう。シューヌピアさんはびっくりしていたが、チッキーはよく指を刺してしまうので慣れっこなのだ。
「チッキーは、ちょっと布を持つ手が近すぎるのね。こうやって、この辺りを持って……」
シューヌピアさんが、目の前でゆっくりと実演してくれる。
ゆっくりなのに、私とチッキーよりもずっと早く布が縫われていく。
「すごい。針子さんみたいでち」
チッキーは裁縫があまり得意ではなかったそうだが、どんどんと上達していて楽しそうだ。
ここ2・3日は、めったに針で指を刺さなくなった。
「へぇ、人形の服か」
チッキーのお話にサムソンお兄ちゃんが感心したように頷く。
「お嬢様と、一緒にお人形の服を作るでち」
「そうか。それなら、俺も手伝ってやるか」
「サムソンお兄ちゃんが?」
それは、私がチッキーと一緒に裁縫のお勉強をした話をした時だった。私の宝物、人形のチェルリーナの服を作るのだ。
「今、魔法で服を作ろうと試行錯誤してるから、そのついでだ」
サムソンお兄ちゃんは魔法で服を作ると言っていた。
すごい。
でも、私はまずは魔法ではなく、自分の手でつくるのだ。
昔見たリーダのように、自分で袋を作ってお花の絵を縫ってみたい。
それに、たまにリーダ達の手伝いをする。
今日はそんな日だ。
お出かけしたリーダ達がすぐに戻ってきた。
「今日は、大仕事だ」
「小さい飛行島の場合は、皆で手分けしてバラバラにやるっスけどね」
「でも、大きい飛行島だと魔法陣大きくてさ、手伝って欲しいって感じ。ノアノアお願い!」
私はお願いされたのが嬉しくて、頑張ってお手伝いする。
「この魔法陣……真ん中の辺りが読めないんです。ノアちゃんはどう?」
カガミお姉ちゃんに分からないものが、私に分かるわけがない。
「分からない……」
「そうですか。もし何か気がついたら教えて欲しいと思うんです。どんな些細なことでも、お願いね」
「皆で考えれば、いつかヒントくらいは見つかるかもしれないしね」
俯いて首を振る私に、カガミお姉ちゃんはいつものように、お願いと言ってくれる。
リーダも一緒に考えようと言っている。
一緒に。
そう、皆一緒にだ。
私も一杯考えよう。あとでロンロとお姉ちゃんにも相談しよう。
でも、まずはお仕事だ。
考えながらのお仕事は、私にはまだ無理だ。
だからお仕事に集中だ。
壁に張ってある魔法陣をみて、描き写していく。
「ノア、その下の辺りをお願い」
「あっちから、こっち?」
「そうそう」
「まかせて、リーダ!」
すぐに私でも出来るという確信がもてた。ずっと魔法の勉強をしていて、同じ事は何度もやっている。だから、思い切り大きな声で返事した。
それからは、お仕事に夢中になって、考える間もなく夕方になっていた。
「今日はこれくらいかな」
「そうっスね」
「あー。疲れた。お腹すいちゃった」
私も、お腹がすいた。
「今日はなんだろうね」
リーダの言葉に、考える。
昨日はチーズ焼きだった。ハイエルフのチーズは世界樹の樹液で作るといっていた。
「樹液って、なんだかオレ達カブトムシみたいだな」
リーダは笑っておかわりしていた。
その前は、山盛りのサラダに、プレインお兄ちゃん特製のマヨネーズ。
前の前は……。
「今日は、どんなご飯なのかな」
「楽しみだね」
長老様のお家へ帰る途中、足下まで広がる夕暮れを背にして、私と手を繋いだリーダが笑って頷いた。
大きく手を振り、リーダ達を見送る。
ハイエルフの里に来て、もう早1ヶ月が過ぎようとしていた。
「トゥンヘル親方。できました!」
「おいらも!」
トッキーとピッキーはハイエルフの大工さん、トゥンヘルさんから大工仕事を習っている。複雑に彫り込んだ木を組み合わせてくっつける不思議な技術だ。
それを使って、海亀の背中に乗せた小屋を立派なものにすると頑張っている。
「うん。昨日よりもずっといい。さて、昨日作ったものと……こう組み合わせると……」
「椅子だ!」
「そう、椅子になる」
「釘も使ってないのに。トゥンヘル親方が座ってもびくともしない」
ハイエルフのトゥンヘルさんは、最初はちょっと怖い人かなと思ったけれど、とてもいいおじさんだった。
初めて会ったとき、トゥンヘルさんは怖い顔をして、長老様のお家をウロウロしていた。
カガミお姉ちゃんに、矢を放って怪我させてしまい、ウンディーネに怒られてしまったらしい。一生懸命に謝っていたけれど、ウンディーネはゆるしてくれないのだとか。なんだか、可愛そうになって、私達も一緒になってウンディーネにごめんなさいをしたら、ウンディーネは許してくれた。
そうしたら、仲裁してもらった恩があるからといって、大工仕事の先生になってくれたのだ。
他にも、世界樹の下の方まで降りて、とっておきの果物を取ってきてくれた。
「すごい大きなイチゴだよ。これ」
「いいっスね」
プレインお兄ちゃんもミズキお姉ちゃんもびっくりしていた。
その日の夜は、皆でその果物を食べた。大きなイチゴ。
ここ最近はずっとこんな感じだ。
朝、お仕事にいくリーダ達を見送って、夕方は皆でご飯を食べる。そして、その日にあったこと、思ったことをおしゃべりするのだ。
「トゥンヘル親方が、地上で旅をした話を聞きました」
「どんな話だったスか?」
ピッキーが、トゥンヘルさんのお話を始める。
「私はね、地上に降りて旅をしたことがあるのさ」
トゥンヘルさんはそう言った。
なんでも600年ほど前に地上に降りて旅をしたことがあるらしい。
続くお話は、リテレテを食べ過ぎてお腹が痛くなったという旅の思い出だった。
「おいらも、お腹痛くなったことあります」
ピッキーが嬉しそうにトゥンヘルさんに言う。
「おいしいもんな」
そう言って、ピッキーと一緒に笑っていた。私も笑った。
そして、そんなピッキーのお話を聞いて、リーダ達も笑った。
次の日は、チッキーとシューヌピアさんのお話だった。
数日に1度、シューヌピアさんが裁縫仕事をチッキーと私に教えてくれるのだ。
「いたぃ」
「あぁ、大丈夫? ……ちょっと血止めの……」
「大丈夫でち。お祈りすれば治るでち」
慣れた調子で、お祈りしてチッキーは針で怪我した指を治してしまう。シューヌピアさんはびっくりしていたが、チッキーはよく指を刺してしまうので慣れっこなのだ。
「チッキーは、ちょっと布を持つ手が近すぎるのね。こうやって、この辺りを持って……」
シューヌピアさんが、目の前でゆっくりと実演してくれる。
ゆっくりなのに、私とチッキーよりもずっと早く布が縫われていく。
「すごい。針子さんみたいでち」
チッキーは裁縫があまり得意ではなかったそうだが、どんどんと上達していて楽しそうだ。
ここ2・3日は、めったに針で指を刺さなくなった。
「へぇ、人形の服か」
チッキーのお話にサムソンお兄ちゃんが感心したように頷く。
「お嬢様と、一緒にお人形の服を作るでち」
「そうか。それなら、俺も手伝ってやるか」
「サムソンお兄ちゃんが?」
それは、私がチッキーと一緒に裁縫のお勉強をした話をした時だった。私の宝物、人形のチェルリーナの服を作るのだ。
「今、魔法で服を作ろうと試行錯誤してるから、そのついでだ」
サムソンお兄ちゃんは魔法で服を作ると言っていた。
すごい。
でも、私はまずは魔法ではなく、自分の手でつくるのだ。
昔見たリーダのように、自分で袋を作ってお花の絵を縫ってみたい。
それに、たまにリーダ達の手伝いをする。
今日はそんな日だ。
お出かけしたリーダ達がすぐに戻ってきた。
「今日は、大仕事だ」
「小さい飛行島の場合は、皆で手分けしてバラバラにやるっスけどね」
「でも、大きい飛行島だと魔法陣大きくてさ、手伝って欲しいって感じ。ノアノアお願い!」
私はお願いされたのが嬉しくて、頑張ってお手伝いする。
「この魔法陣……真ん中の辺りが読めないんです。ノアちゃんはどう?」
カガミお姉ちゃんに分からないものが、私に分かるわけがない。
「分からない……」
「そうですか。もし何か気がついたら教えて欲しいと思うんです。どんな些細なことでも、お願いね」
「皆で考えれば、いつかヒントくらいは見つかるかもしれないしね」
俯いて首を振る私に、カガミお姉ちゃんはいつものように、お願いと言ってくれる。
リーダも一緒に考えようと言っている。
一緒に。
そう、皆一緒にだ。
私も一杯考えよう。あとでロンロとお姉ちゃんにも相談しよう。
でも、まずはお仕事だ。
考えながらのお仕事は、私にはまだ無理だ。
だからお仕事に集中だ。
壁に張ってある魔法陣をみて、描き写していく。
「ノア、その下の辺りをお願い」
「あっちから、こっち?」
「そうそう」
「まかせて、リーダ!」
すぐに私でも出来るという確信がもてた。ずっと魔法の勉強をしていて、同じ事は何度もやっている。だから、思い切り大きな声で返事した。
それからは、お仕事に夢中になって、考える間もなく夕方になっていた。
「今日はこれくらいかな」
「そうっスね」
「あー。疲れた。お腹すいちゃった」
私も、お腹がすいた。
「今日はなんだろうね」
リーダの言葉に、考える。
昨日はチーズ焼きだった。ハイエルフのチーズは世界樹の樹液で作るといっていた。
「樹液って、なんだかオレ達カブトムシみたいだな」
リーダは笑っておかわりしていた。
その前は、山盛りのサラダに、プレインお兄ちゃん特製のマヨネーズ。
前の前は……。
「今日は、どんなご飯なのかな」
「楽しみだね」
長老様のお家へ帰る途中、足下まで広がる夕暮れを背にして、私と手を繋いだリーダが笑って頷いた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる