召還社畜と魔法の豪邸

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第十三章 肉が離れて実が来る

穏やかな日々(ノア視点)

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「いってらっしゃーい」

 大きく手を振り、リーダ達を見送る。
 ハイエルフの里に来て、もう早1ヶ月が過ぎようとしていた。

「トゥンヘル親方。できました!」
「おいらも!」

 トッキーとピッキーはハイエルフの大工さん、トゥンヘルさんから大工仕事を習っている。複雑に彫り込んだ木を組み合わせてくっつける不思議な技術だ。
 それを使って、海亀の背中に乗せた小屋を立派なものにすると頑張っている。

「うん。昨日よりもずっといい。さて、昨日作ったものと……こう組み合わせると……」
「椅子だ!」
「そう、椅子になる」
「釘も使ってないのに。トゥンヘル親方が座ってもびくともしない」

 ハイエルフのトゥンヘルさんは、最初はちょっと怖い人かなと思ったけれど、とてもいいおじさんだった。
 初めて会ったとき、トゥンヘルさんは怖い顔をして、長老様のお家をウロウロしていた。
 カガミお姉ちゃんに、矢を放って怪我させてしまい、ウンディーネに怒られてしまったらしい。一生懸命に謝っていたけれど、ウンディーネはゆるしてくれないのだとか。なんだか、可愛そうになって、私達も一緒になってウンディーネにごめんなさいをしたら、ウンディーネは許してくれた。
 そうしたら、仲裁してもらった恩があるからといって、大工仕事の先生になってくれたのだ。
 他にも、世界樹の下の方まで降りて、とっておきの果物を取ってきてくれた。

「すごい大きなイチゴだよ。これ」
「いいっスね」

 プレインお兄ちゃんもミズキお姉ちゃんもびっくりしていた。
 その日の夜は、皆でその果物を食べた。大きなイチゴ。
 ここ最近はずっとこんな感じだ。
 朝、お仕事にいくリーダ達を見送って、夕方は皆でご飯を食べる。そして、その日にあったこと、思ったことをおしゃべりするのだ。

「トゥンヘル親方が、地上で旅をした話を聞きました」
「どんな話だったスか?」

 ピッキーが、トゥンヘルさんのお話を始める。

「私はね、地上に降りて旅をしたことがあるのさ」

 トゥンヘルさんはそう言った。
 なんでも600年ほど前に地上に降りて旅をしたことがあるらしい。
 続くお話は、リテレテを食べ過ぎてお腹が痛くなったという旅の思い出だった。

「おいらも、お腹痛くなったことあります」

 ピッキーが嬉しそうにトゥンヘルさんに言う。

「おいしいもんな」

 そう言って、ピッキーと一緒に笑っていた。私も笑った。
 そして、そんなピッキーのお話を聞いて、リーダ達も笑った。
 次の日は、チッキーとシューヌピアさんのお話だった。
 数日に1度、シューヌピアさんが裁縫仕事をチッキーと私に教えてくれるのだ。

「いたぃ」
「あぁ、大丈夫? ……ちょっと血止めの……」
「大丈夫でち。お祈りすれば治るでち」

 慣れた調子で、お祈りしてチッキーは針で怪我した指を治してしまう。シューヌピアさんはびっくりしていたが、チッキーはよく指を刺してしまうので慣れっこなのだ。

「チッキーは、ちょっと布を持つ手が近すぎるのね。こうやって、この辺りを持って……」

 シューヌピアさんが、目の前でゆっくりと実演してくれる。
 ゆっくりなのに、私とチッキーよりもずっと早く布が縫われていく。

「すごい。針子さんみたいでち」

 チッキーは裁縫があまり得意ではなかったそうだが、どんどんと上達していて楽しそうだ。
 ここ2・3日は、めったに針で指を刺さなくなった。

「へぇ、人形の服か」

 チッキーのお話にサムソンお兄ちゃんが感心したように頷く。

「お嬢様と、一緒にお人形の服を作るでち」
「そうか。それなら、俺も手伝ってやるか」
「サムソンお兄ちゃんが?」

 それは、私がチッキーと一緒に裁縫のお勉強をした話をした時だった。私の宝物、人形のチェルリーナの服を作るのだ。

「今、魔法で服を作ろうと試行錯誤してるから、そのついでだ」

 サムソンお兄ちゃんは魔法で服を作ると言っていた。
 すごい。
 でも、私はまずは魔法ではなく、自分の手でつくるのだ。
 昔見たリーダのように、自分で袋を作ってお花の絵を縫ってみたい。
 それに、たまにリーダ達の手伝いをする。
 今日はそんな日だ。
 お出かけしたリーダ達がすぐに戻ってきた。

「今日は、大仕事だ」
「小さい飛行島の場合は、皆で手分けしてバラバラにやるっスけどね」
「でも、大きい飛行島だと魔法陣大きくてさ、手伝って欲しいって感じ。ノアノアお願い!」

 私はお願いされたのが嬉しくて、頑張ってお手伝いする。

「この魔法陣……真ん中の辺りが読めないんです。ノアちゃんはどう?」

 カガミお姉ちゃんに分からないものが、私に分かるわけがない。

「分からない……」
「そうですか。もし何か気がついたら教えて欲しいと思うんです。どんな些細なことでも、お願いね」
「皆で考えれば、いつかヒントくらいは見つかるかもしれないしね」

 俯いて首を振る私に、カガミお姉ちゃんはいつものように、お願いと言ってくれる。
 リーダも一緒に考えようと言っている。
 一緒に。
 そう、皆一緒にだ。
 私も一杯考えよう。あとでロンロとお姉ちゃんにも相談しよう。
 でも、まずはお仕事だ。
 考えながらのお仕事は、私にはまだ無理だ。
 だからお仕事に集中だ。
 壁に張ってある魔法陣をみて、描き写していく。

「ノア、その下の辺りをお願い」
「あっちから、こっち?」
「そうそう」
「まかせて、リーダ!」

 すぐに私でも出来るという確信がもてた。ずっと魔法の勉強をしていて、同じ事は何度もやっている。だから、思い切り大きな声で返事した。
 それからは、お仕事に夢中になって、考える間もなく夕方になっていた。

「今日はこれくらいかな」
「そうっスね」
「あー。疲れた。お腹すいちゃった」

 私も、お腹がすいた。

「今日はなんだろうね」

 リーダの言葉に、考える。
 昨日はチーズ焼きだった。ハイエルフのチーズは世界樹の樹液で作るといっていた。

「樹液って、なんだかオレ達カブトムシみたいだな」

 リーダは笑っておかわりしていた。
 その前は、山盛りのサラダに、プレインお兄ちゃん特製のマヨネーズ。
 前の前は……。

「今日は、どんなご飯なのかな」
「楽しみだね」

 長老様のお家へ帰る途中、足下まで広がる夕暮れを背にして、私と手を繋いだリーダが笑って頷いた。
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