召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

ぱーさすおうち

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「何だあれ?」
「家だろ」

 いや、見ればわかるが、唐突すぎて訳がわからない。家が飛んできたのだ。
 気球はゆっくり下がる、いち早く地上に降りる判断をしたピッキーは賢い。得体が知れない物体が空から迫ってくるのだ、機敏に動けない気球に乗っているままは危ない。
 ところが飛んでくる家は予想以上に早かった。

「何で?」

 クローヴィスの驚く声が聞こえる。
 気球が先ほどまであった場所をめがけて空飛ぶ家は飛んでいたが、急に方向転換した。直角に。
 何だ?
 よく見ると、ノアとクローヴィスに目標を変えたようだ。
 気がつくのが遅かった。
 クローヴィスは急旋回し家を引き剥がそうとする。その試みは上手くいったようだった。クローヴィスの機敏な動きに、空飛ぶ家は追いつけず慣性がついたように進み続ける。
 だが、誤算があった。家が飛び進む軌道上に、気球があったのだ。
 空飛ぶ家の端が、気球に絡みつき、引っ張られる。
 大きく揺さぶられるゴンドラに、獣人達3人が振り落とされまいとしてしがみつく。

「わわわ!」

 トッキーの叫び声がする。

「3人とも飛び降りて! 私達が受け止めるから!」

 ミズキが大声で叫ぶ。ところが混乱する3人には聞こえていないようだ。
 クローヴィスは、家に引っかかっている気球が大きく揺さぶられないように、大きな円を描くような軌道でゆっくりと下降する。

「興味深い。アレの目的は……間違いないようだ」

 オレの側で黄昏の者スライフがボソリと呟く。ニヤリと笑っている。
 あと、今になって気がついたが、スライフが一回り大きくなっている。
 今は、そんなことはどうでもいい。
 先ほどのスライフの呟きだ。
 何かわかったのだろうか。

「どういうことだ?」
「ん? あぁ。今回の対価は、アレの答えでいいか?」
「止める方法があればいいが……分かることがあるなら教えてくれ」
「アレは残滓だ。古い時代の。そして、あの娘」

 スライフはボソリボソリと呟くように言葉を発し、ノアをその大きな紫色の手で指さす。

「ノアに何が?」
「あの娘が何かしたようだ。きっかけはソレだな。そう、胸にかけているペンダントとあの家は共鳴している」

 は?
 胸のペンダント……。

「おい、スライフ」
「本日は以上だ」

 こちらの混乱には我関せずといった調子で、スライフはゆっくりで消えていく。
 その答えだと、どうすれば良いかわからない。

「あと、もう一つだけ」
「なんだ」

 必死になったオレの呼びかけに消えかかりながら、スライフはギョロリとオレを睨む。

「あれを止める方法っていうのはあるのか?」
「ううむ。本日はサービスだ。お得意さんだからな。おそらく……あの家の中に、動きを制御するものがあるはずだ。娘が抱えているペンダントを使えば、何とかなるのではないか? 古い時代、人は皆そうやって、ああいう物を動かしていたと聞く」

 最後にそう言い残して消えていく。
 ノアのペンダント……。
 テストゥネル様の?
 いや、違う。
 屋敷のマスターキーだ!
 ノアが持っているもので、思い浮かぶものはそれだった。屋敷のマスターキー。
 そして、屋敷のマスターキーということは、アレは屋敷の一部という可能性は高い。
 そもそも突拍子ないことは大抵、ギリアにある屋敷がらみだ。
 何とかして確かめる方法はないのだろうか。
 そんなことを考えていると、ずっと家の端に引っかかっていた、気球がはずれる。
 大きく上にぶん投げられた気球とゴンドラは弧を描くように、山なりに落ちていく。ゴンドラにつかまっている獣人達3人もろとも急降下し落ちていく。

「クローヴィス!」
「まかせて!」

 ノアの声に反応してクローヴィスが、気球の方へと飛んでいく。
 うまい具合に反転し、後足でゴンドラを受け止める。

「さすが!」

 カガミが賞賛の声をあげる。確かに、見事な手際だ。
 ゴンドラの上下もきっちり把握して確保した。おかげで獣人達3人は全員、無事だ。

「ゆっくり下ろすよ」

 ゴンドラと気球を抱えたクローヴィスがスピードを落としこちらへと戻ってくる。
 そんな時、さらに空飛ぶ家はスピードを一段階上げた。
 一気に急加速した空飛ぶ家に、ゴンドラと気球ごと、クローヴィスとノアがぶつかる。

『ガァン!』

 鈍く大きな音がする。

「まずいよ、チッキー達だけでも助けにいかないと!」

 ミズキがそう言うが早いか、こちらの方に向かってくる屋敷へと飛んでいく。
 そして空飛ぶ家の屋根に槍を刺した。あいつ乗り移る気か。身軽で思い切りのいいミズキらしい判断だ。
 クローヴィスにぶつかった直後から、空飛ぶ家は速度を目に見えて落としている。だが、止まるわけでもないようだ。
 そのまま勢いにまかせて空飛ぶ家は真っ直ぐこちらへと向かってくる。あのままの起動であれば、オレ達にはぶつからない。多分、頭上を一気に飛び去っていくような形になる。
 オレ達の頭上あたりに来た時に飛び乗れるようにと、手早く飛翔魔法を詠唱する。
 ノアはクローヴィスがいるので、あの家から脱出も容易だろうが、獣人達3人はそうではない。
 ミズキも同じように考えたから乗り込んだのだろう。
 だが、ミズキ一人では3人同時は荷が重い。少なくとも、あと一人は必要だ。
 チャンスは、一度きり。
 ミズキのように常時起動しておけばよかったと、少しだけ後悔する。だが、あいつみたいに器用にできそうもないので、オレに出来ることをしよう。
 あと少しで家がオレ達の頭上を通り抜けをという時だった。
 タイミングをみて家に乗り込もうと準備していたオレの意表をつく行動をするヤツがいた。
 海亀だ。
 オレ達が立っている地面……海亀が大きく動く。
 海亀は上昇して、真っ向から空飛ぶ家に体当たりするように動いた。
 いきなりのことでびっくりする。

「えっ? ちょっと、まて、まて」

 サムソンが絶叫する。
 甲羅の端を、家の土台に体当たりするような形で、海亀が空を飛び真っ向からぶつかる。そのまま、大きくひっくり返るように、亀が前のめりになる。
 前脚で逆立ちするような形になり、上に乗っていた俺たちはその状況で空飛ぶ家に叩きつけられる。
 上に乗っていた小屋も、大きく投げ出され、オレ達は気球めがけて跳ね飛ばされた。
 目の前が真っ暗になって、わけがわからない。
 すごい衝撃にクラクラする。
 少しして落ち着き、周りの様子がなんとか見て取れた。
 とりあえず全員無事だ。
 海亀は平気そうにキョロキョロと辺りをみていて、獣人達3人はミズキが確保してくれたようで元気そうだ。
 ノアとクローヴィスも、もちろん無事だ。クローヴィスは銀竜の姿をやめて、人型になっている。
 海亀の背にいた残りの面々は、思い切り気球の胴体部分へと、足場ごとダイブしたが、不幸中の幸い、怪我一つない。どうやら気球がクッションになってくれたようだ。
 そういえば、気球についてケルワッル神殿の神官が言っていたことを思い出す。
 神の加護によって落ちることなどないと言っていた。
 絶対に安全という自信のある態度から、万が一落ちることがあっても、いざという時はクッションになって守ってくれる仕組みかもしれない。
 とにもかくにも、全員がこの空飛ぶ家に乗り込んだことになる。
 周りの景色が高速で動いていることから、この家はすごいスピードで進んでいることが分かる。
 だが、その場に立っていオレ達には、強い風がたたき付けることもない。小さな地鳴りのような音がするだけだ。エアコンの室外機を彷彿とさせる、風切り音と地鳴りの中間という音だ。
 魔法の力によるものだろうか。
 乗り込んだ空飛ぶ家は高速移動を続けているわけだから、これからどうなるかは分からない。
 だが、とりあえず、皆がバラバラにならなかったことにホッとする。

「あっ、そうだ」

 ふと我に返ったように、ノアがトコトコと近づいてきた。
 オレを見上げて、ノアは胸元からマスターキーを引っ張りあげる。

「マスターキー?」
「光っているの」

 マスターキーは、ほんのりと金色に光っていた。
 黄昏の者スライフが言う通りだ。このマスターキーに反応したのか。

「ノアノア、このマスターキーがどうしてこうなったかわかる?」
「わからない」
「そっか。ところでノアちゃん。最後にマスターキーにお願いしたのはいつ?」
「あのね、さっき鳥に気球が襲われた時に、ガーゴイルに助けてってお願いしたの」
「ガーゴイル……マスターキーのやつか」
「でも、すぐにミズキお姉ちゃんが退治してくれたから、やっぱりいいよって……」

 その時か、ノアはガーゴイルにお願いをしたつもりだったが、別のお願いとして取られてしまった、そんなところだろうか。

「あの、先輩」

 頭上からプレインの声が聞こえた。声がした方を見やると、空飛ぶ家の屋根に登っていたプレインが降りてきて、この家の高い部分を指差した。

「何かあったのか?」
「なんか見覚えがあるんスけど」
「見覚え?」

 言われるがまま、プレインに倣って屋根に登り、プレインが指さす方を見る。
 確かに身に覚えがある光景が広がっていた。4分割されたテーブル。柱だらけの部屋。
 プレインの言うとおり、何処かでみたことがある。
 どこかで……。
 思い出した。そうだ、最初に物尋ねの魔法を使い、屋敷から転移した先にあった部屋だ。
 たしか、4分割されたテーブルの中央に杖が刺さっていた。
 あの部屋だ。
 つまり、この家は屋敷がらみ。
 ほぼ確実に、そうであろうと思っていたが、これで確定だ。

「せっかくだ。この家をもう少ししらべよう」

 オレは皆に向き直り、そう言った。
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