召還社畜と魔法の豪邸

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第六章 進化する豪邸

しにわすれ

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 飛竜が落ちた場所を目指し進んでいく。枯れ葉を踏みしめ進んでいく。

「リーダ」

 声がしたので振り向くと、バルカンが駆け寄ってきた。
 両手で大きなハンマーを抱えている。

「デッティリアさんは?」
「気がついた。リーダのおかげだ。あのはぐれ飛竜はどうなった?」
「ノアの……お嬢様の魔法で仕留めた。これから、本当に死んだのか確認しにいく」

 緊張した面持ちをしたバルカンは大きく息をはいた。落ち着いたのか、安堵した表情に変わる。

「そうかオレもついていく」
「あぁ」

 軽く頷き先を急ぐ。

「あと、ありがとよ」

 オレの後ろを歩きながら、しみじみとした調子でバルカンが礼をいう。
 しばらく歩くと飛竜をみつけた。首が変な方向に折れ曲がっていて、羽もボロボロだった。

「バルカン」
「なんだ?」
「念のため、隠れて様子をみていてくれ。それで……何かあれば、逃げろ。それから、仲間に連絡して欲しい」
「わかった……あいつは……まだ死んでいないのか?」
「いや、念のためさ」

 笑顔で首を振り、飛竜の死体へと向き直る。
 飛竜は動かない。
 だが、不安だった。あいつは、冒険者に討伐されたという。そしてクローヴィスの攻撃をうけた。
 その後、ガーゴイルの攻撃も受けた。間近でみるとよく分かる。ガーゴイルの攻撃は、かなり深く飛竜の顔をえぐっている。
 それでもあいつは、まるで平気な様子でオレ達の前に立ち塞がった。
 だから、安心はしない。
 慎重に、注意深く、電撃の魔法を打ち込む。
 2回、雷鳴が響く。
 ピクリとも動かない飛竜の死体をみて、ようやく安心する。
 しぶとい敵だった。

「大丈夫そうだな」

 物陰から、バルカンの声が聞こえる。
 振り向かずに大きく頷いて同意した。
 さて、せっかくだ。念には念をということで、黄昏の者スライフを呼び出し解体することにした。
 何時でも呼び出せるようにと刺繍をしたハンカチを広げ、スライフを呼び出す。

「よぉ」

 グルリと肩を回し、いつものようにスライフが空に浮いたままオレを見下ろす。

「リーダ……そいつは?」

 バルカンが少しだけ怯えた声をあげる。
 そういや、スライフのような黄昏の者は恐れられているのだっけ。

「大丈夫だ」

 手をパタパタと振って気軽な調子で問題ないことを伝える。
 スライフはオレとバルカンを興味深そうに見た後で、すぐ側にあった飛竜の死体をみた。

「あいつを解体するのか?」
「そうだ」
「わかった」

 一言だけいっていつものように解体する。解体は瞬く間に終わる。解体を終えた後で、スライフは、しばらく飛竜の変わり果てた姿を眺めていたかと思うと、思い出したように呟く。

「あぁ……こいつは死に忘れだ」

 しにわすれ?

「なんだそれ?」
「文字通り死ぬことを忘れた存在だ」

 そういってスライフは高く飛び立ったかと思うと、すぐに戻ってきた。

「何かあったのか?」
「そういうことか。この森の、その近くに常夜の森があった。おそらくそこでその飛竜は死を忘れたのだろう」

 スライフはオレに向き直り、ゆっくりとした調子で説明する。
 死んだものが生き返った不死者とは違い、生きたまま不死者となった生物を、死に忘れというそうだ。特殊な儀式や、呪いによって、死に忘れは発生するらしい。
 今回、死を忘れた飛竜は、自分が死んだことも忘れて飛び回っていたのだという。
 だからこそ、どんなに攻撃を受けていても平気だったのか。

「じゃ、ほっとくと動き始めるってことか?」

 すでに解体された後なので、さすがに復活するとは思えないが、念のため聞いておく。

「いや、それはない。我が輩が見たときには、すでにそいつは死んでいた。死に忘れに、死を思い出すまで攻撃をしつづけた結果だろう。これをやったのは、なかなか苛烈な性根をもったヤツだな」
 楽しそうに笑いながらスライフは断言した。
 ノアは必死だったからな。その結果だろう。

「いきなり、死体がくっついて復活するかと思ったよ」
「そこまで強力な不死者ではない。さて……こいつの肉は腐りかけだから旨くは無い。どうする?」

 腐ってなければ美味しいのか。
 どうしようかな。この際、ぜんぶくれてやってもいいかな。
 そうだ。

「いつものように内臓なんかはくれてやるから、代わりにあの温泉に魔物が近寄らない方法を教えてくれないか?」

 こんな風にどんどこ魔物に襲撃されるのはバルカンが心配だし、温泉に入るのにいちいち護衛を考えなきゃいけない。
 いつものように、多めの触媒を交換条件に質問する。

「威圧の魔導具を作ればいいだろう。ちょうど触媒もある。簡単なことだ。知りたいのはそれだけか?」

 ぶっきらぼうに、そしてつまらなそうにスライフは返答した。
 なんだか軽く流された。作り方……あの口調だったら、屋敷で調べればすぐ見つかりそうだ。
 どうしようかな。飛竜だから、大鹿なんかより有益な情報を教えてもらったほうがいいか……。

「一つ教えてくれ」
「なんだ?」
「オレは、昔の歴史を調べているんだ」
「れきし?」
「古い国のことだ」

 そうテストゥネル様は、この世界に留まり続けるためには、遙かな昔にこの世の全てを手に入れようとした王朝を調べろと言っていた。そのための歴史だ。
 オレの質問をつまらなさそうに聞いていたスライフだったが、古い国という言葉を聞いて表情を変えた。それは何かに納得した様に見えた。

「そうか。それか。であれば、古くからある建造物に聞くしかない」
「建造物に聞く?」

 建物に聞く? どういう事だろう。考古学的な何かだろうか。

「物尋ねの魔法だ。物尋ねの魔法は、看破の魔法として動作するよう仕組まれている。だが、古い時代に存在したもの……遺物を触媒にすれば、看破への動作は回避されるはずだ。だから、古い建造物に、使え。物尋ねの魔法を使え」

 物尋ねの魔法? 初めて聞く魔法だ。遺物……は、何度か看破でそういうのを見たな。エリクサーなんかがそうだったはずだ。

「試してみるよ。ありがとう」
「では、血と贓物は貰っていく。頭蓋骨は、お前の物だ。必要だろ」

 頭蓋骨が必要?
 いろいろ分からないことだらけだ。さらに追加の質問をしたかったがスライフは、そんなオレの思いを無視して言葉をつづける。

「それにしても……だ。生者が、儀式もなく呪いでもなく死に忘れに成り下がるとはな。かの王の帰還も近いとみえる。人の世は大変だ」

 そんな事を言ってスライフは去って行った。
 目の前には大量の肉と、少しだけ血のついた頭蓋骨が残された。考えるのは後にして、影収納の魔法を使い投げ込んでいく。

「さて帰るか」

 振り返ったオレを、納得した様子のバルカンは頷いた。
 とりあえず威圧の魔導具とやらを調べよう。
 これからの予定を考えながら、軽い足取りで温泉へと戻る帰り道のことだ。

「助けられてばっかりだな」

 しみじみとした様子でバルカンが言った。

「そんなことないさ。それに温泉はバルカンが頼りだ」
「あー。そっちはまかせてくれ。飛竜に荒らされた後片付けして……なんとしても雪が降る前に湯治宿を開いてみせるぜ」

 いつもの笑顔でバルカンは請け負ってくれる。
 温泉に一旦戻り、ロバに乗り屋敷に戻る。
 工事も、飛竜も、終わった。あとは仕上げだ。ラストスパートだ。
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