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第五章 空は近く、望は遠く
かみさまおねがい
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馬車と牛車。2台は町へと進んでいる。
もう慣れたものだ。ミズキとトッキーが御者をする。
オレはもちろんトッキーが御者をする方に乗る。
ミズキの運転は荒っぽいのだ。安心してゴロゴロできない。
「そういえば、カガミ姉さんが、怒ってたっス。いい加減、ガラクタ片付けろって」
異世界に来てからカガミの小言をよく聞く。
母親かよ、まったく。実際言うと、怒られるのでいわないが。
ガラクタ市で買ったものは、屋敷に置いている。
別に生活に支障はないが、いらないなら捨てろと迫られているのだ。
猿がガッツポーズしている像を広間に置いていたのだが、夜中にみたそれがとても不気味に見えたらしい。
よかれと思っていたのに、大不評だった。
そんな出来事があってから、いらないものは捨てるなり、自室に置くなりしろと言われるようになった。
影収納の魔法で収納すればいいが、アレは寝ると解除されてしまう。
なんとか、寝ているときも解除されないように頑張らねばならない。
「そのうち解決するよ。計画はあるんだ」
「計画っスか?」
「あぁ。修行して影収納の魔法をパワーアップさせるんだ」
「やっぱり先輩は、すごいっスね。いつも先の先を考えてる。ノアちゃんの不安もそうやって、先の事を考えていたからこそのスピード解決だったスもんね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
照れくさくなったので、ごろんと横になる。
プレインは、トッキーと何やら相談し始めた。町に着いた後のことを話しているようだ。
任せておけば大丈夫だろう。
「先輩はどうするっスか?」
レーハフさんの家でトッキー達2人と別れてから、プレインが聞いてきた。
「とりあえず商業ギルドの建物に戻って、ハロルド探しを依頼するよ」
「そうっスね。でも、張り紙できないのは残念っスね」
トッキー達から、レーハフさんに子犬のハロルドを探していることを伝えてもらった。
「おう。わしの子供達にも伝えておこう。ただなぁ、ギルドはともかく、張り紙は禁止されとる」
張り紙は、指定されている場所以外は原則禁止らしい。いわれてみると、町中で張り紙をみたことがない。
ただし、ギルドでペットの捜索はメジャーな依頼ということを教えて貰った。
銅貨2枚くらいで依頼するのだそうだ。子供にとって一攫千金のチャンス扱いらしい。
「ギルドに依頼をして、ついでにバルカンがいれば相談してみるつもりだ。いなければ、少し探してみるかな」
「ボクは、知り合いに相談してくるっス」
「私も、酒場で相談するよ」
ミズキとプレインの2人と別れる。
一通りおわったらギルドで落ち合う予定だ。
ギルドへの依頼も簡単に終わった。迷子のペット探しはメジャーな依頼という話に偽りはなく、相手も手慣れたものだった。報奨金として銅貨2枚をあずけ、依頼料手数料として銀貨20枚を渡す。ギリアの町だけであれば銅貨3枚らしいが、ここは奮発して国中に依頼をかけることにした。
いざとなれば報奨金を増やしてもいい。やるからには少しでも情報が欲しいものだ。
残念なことに、ギルドにバルカンはいなかった。
聖獣ヴァーヨークの所にいるかもしれないと考え向かう。
「リーダ様、ご無沙汰しております」
そこにいたのはバルカンでなかった。エレク少年がいた。
「久しぶりです。こんな所にいるとは予想外でした」
「いえ、私もたまに来ることがあります。聖獣ヴァーヨークの加護が得られるかもしれませんので。ところで、リーダ様は何か用があって町にこられたのですか?」
エレク少年の質問に渡りに船とばかりに相談を持ちかけることにした。
彼はヘイネルさんと一緒にいることが多い。もしかしたら違う視点でアドバイスがもらえるかもしれない。
「お嬢様の、飼い犬……ハロルドという子犬なんですが、行方が分からなくなってしまったので、探しに来たんです」
「それは……、この町ではぐれたということですか?」
「いえ、そうではないのですが……」
召喚魔法で呼び出したのはいいけれど、戻った先がわからない。こんなことを言って良いのか悩む。
「そうですか。ギルドへの依頼はなされたのですか?」
「すでに終えました。国中に依頼を……捜索の依頼をかけることにしました」
「国中に! それは大事な子犬なんでしょうね。私も気に掛けることにします。ところで、教会には相談しましたか?」
教会? その発想はなかった。しかし、信者でも無いのに教会に相談してどうするのだろう。
この世界の常識がないからわからない。
「いえ、教会にはしていませんが……教会もペット探しをしてくれるのですか?」
「そういうわけでは無いです。ただ、国中という観点から見ると教会組織は、国家を超えるので、相談の価値があるかもしれません」
どこの世界でも教会は国を超えて権力をもっているのか。
頼むことができたら、効果はあるかもしれない。
「そんな権力もっている教会が、私達に力を貸してくれるでしょうか?」
「リーダ様は、タイウァス神の信徒では?」
そんな話は初耳だ。誰かと間違えているのだろう。
よく分からないうちに妙な神様の信者にされるのも困るので否定しておかねば。
「いえ、違いますが……どこでそんな話が?」
「この町のタイウァス神殿で多大な貢献をしたと聞きましたが? 神官長がとても感謝していると伺っています。今だったら、ペット探しくらいなら協力してくれると思いますよ」
全然覚えが無い。本当にオレが感謝されているなら嬉しい話だ。是非ともハロルド探しに協力して欲しい。駄目もとで行ってみるか。
「やはり、覚えが無いのですが、一応伺ってみようと思います。ちなみに、タイウァス神殿は何処にあるんでしょうか?」
「普段、青空市場をしている町の端です。私も用がありますし、せっかくだから案内しましょうか?」
あー。思い出した。
水くんで、苦情いわれて、金貨を寄付してしまったところか。
ここからの道が怪しいし、案内をお願いして手早く済ませてしまうか。
「それでは、案内をお願いします」
案内をお願いすると、エレク少年は、準備すると走って何処かにいってしまった。
それから、馬車でもどってくる。歩きじゃないのか。しかも、御者付きだ。
「どうぞ、リーダ様」
「馬車まで用意してくれたんですか?」
「いえ、偶然です。受け取る荷物があるので、ヘイネル様に用意してもらっていたのです」
偶然か。それならいいか。
「わざわざ私のために用意されていたらと少し不安になりました」
「あはは。さすがに私の一存で馬車まで用意できません」
楽しそうにエレク少年は笑う。道すがら、ヘイネルさんが最近になって急な予定が入って忙しくなったことを聞く。おかげで約束した勉強を教える話も、延期にして手伝いに精を出す毎日だそうだ。
こちらは別に急がないので、時間が出来たらいつでもどうぞと言っておいた。
青空市場はお休みで単なる広場になっている通りをぬけ、タイウァス神殿のある城壁の側までやってきた。
以前とは違い水をくむ人が沢山いる。よく見ると無料では無くなっている。現金なものだ。
「ようこそ。リーダ殿。貴方には感謝しきれないですな」
迎えてくれたのは前回と同じ白いヒゲの神官だった。今回は、笑顔で歓迎してくれた。
「いえいえ、何もしていません」
なんでこんなに歓迎されているのかわからない。
エレク少年は神官の1人から、なにやら受け取っていた。ひょっとして彼は、タイウァス神の信者なのか。
「そんなことはありませんぞ。タイウァス神の加護による湧き水を熱心に求め、対価として金貨一枚を寄付された。あの様子が、話題となって、湧き水の価値を町の人々が認めたのです」
「えぇ、本当に、最近はタイウァス神の信徒も増えています。リーダ殿のような偉大な魔法使いが価値をみとめたことは大きい宣伝になりました」
白いヒゲの神官と、その助手の神官が口々に賞賛してくる。
正直なところ、何でそんなに評価されているのかわからない。
しかし、そんな高評価を利用する。今のうちに、依頼を進めることにするのだ。
ハロルドの捜索の話だ。タイウァス神のご加護というのがあるなら、あやかりたい。
神様お願いってやつだ。
もう慣れたものだ。ミズキとトッキーが御者をする。
オレはもちろんトッキーが御者をする方に乗る。
ミズキの運転は荒っぽいのだ。安心してゴロゴロできない。
「そういえば、カガミ姉さんが、怒ってたっス。いい加減、ガラクタ片付けろって」
異世界に来てからカガミの小言をよく聞く。
母親かよ、まったく。実際言うと、怒られるのでいわないが。
ガラクタ市で買ったものは、屋敷に置いている。
別に生活に支障はないが、いらないなら捨てろと迫られているのだ。
猿がガッツポーズしている像を広間に置いていたのだが、夜中にみたそれがとても不気味に見えたらしい。
よかれと思っていたのに、大不評だった。
そんな出来事があってから、いらないものは捨てるなり、自室に置くなりしろと言われるようになった。
影収納の魔法で収納すればいいが、アレは寝ると解除されてしまう。
なんとか、寝ているときも解除されないように頑張らねばならない。
「そのうち解決するよ。計画はあるんだ」
「計画っスか?」
「あぁ。修行して影収納の魔法をパワーアップさせるんだ」
「やっぱり先輩は、すごいっスね。いつも先の先を考えてる。ノアちゃんの不安もそうやって、先の事を考えていたからこそのスピード解決だったスもんね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
照れくさくなったので、ごろんと横になる。
プレインは、トッキーと何やら相談し始めた。町に着いた後のことを話しているようだ。
任せておけば大丈夫だろう。
「先輩はどうするっスか?」
レーハフさんの家でトッキー達2人と別れてから、プレインが聞いてきた。
「とりあえず商業ギルドの建物に戻って、ハロルド探しを依頼するよ」
「そうっスね。でも、張り紙できないのは残念っスね」
トッキー達から、レーハフさんに子犬のハロルドを探していることを伝えてもらった。
「おう。わしの子供達にも伝えておこう。ただなぁ、ギルドはともかく、張り紙は禁止されとる」
張り紙は、指定されている場所以外は原則禁止らしい。いわれてみると、町中で張り紙をみたことがない。
ただし、ギルドでペットの捜索はメジャーな依頼ということを教えて貰った。
銅貨2枚くらいで依頼するのだそうだ。子供にとって一攫千金のチャンス扱いらしい。
「ギルドに依頼をして、ついでにバルカンがいれば相談してみるつもりだ。いなければ、少し探してみるかな」
「ボクは、知り合いに相談してくるっス」
「私も、酒場で相談するよ」
ミズキとプレインの2人と別れる。
一通りおわったらギルドで落ち合う予定だ。
ギルドへの依頼も簡単に終わった。迷子のペット探しはメジャーな依頼という話に偽りはなく、相手も手慣れたものだった。報奨金として銅貨2枚をあずけ、依頼料手数料として銀貨20枚を渡す。ギリアの町だけであれば銅貨3枚らしいが、ここは奮発して国中に依頼をかけることにした。
いざとなれば報奨金を増やしてもいい。やるからには少しでも情報が欲しいものだ。
残念なことに、ギルドにバルカンはいなかった。
聖獣ヴァーヨークの所にいるかもしれないと考え向かう。
「リーダ様、ご無沙汰しております」
そこにいたのはバルカンでなかった。エレク少年がいた。
「久しぶりです。こんな所にいるとは予想外でした」
「いえ、私もたまに来ることがあります。聖獣ヴァーヨークの加護が得られるかもしれませんので。ところで、リーダ様は何か用があって町にこられたのですか?」
エレク少年の質問に渡りに船とばかりに相談を持ちかけることにした。
彼はヘイネルさんと一緒にいることが多い。もしかしたら違う視点でアドバイスがもらえるかもしれない。
「お嬢様の、飼い犬……ハロルドという子犬なんですが、行方が分からなくなってしまったので、探しに来たんです」
「それは……、この町ではぐれたということですか?」
「いえ、そうではないのですが……」
召喚魔法で呼び出したのはいいけれど、戻った先がわからない。こんなことを言って良いのか悩む。
「そうですか。ギルドへの依頼はなされたのですか?」
「すでに終えました。国中に依頼を……捜索の依頼をかけることにしました」
「国中に! それは大事な子犬なんでしょうね。私も気に掛けることにします。ところで、教会には相談しましたか?」
教会? その発想はなかった。しかし、信者でも無いのに教会に相談してどうするのだろう。
この世界の常識がないからわからない。
「いえ、教会にはしていませんが……教会もペット探しをしてくれるのですか?」
「そういうわけでは無いです。ただ、国中という観点から見ると教会組織は、国家を超えるので、相談の価値があるかもしれません」
どこの世界でも教会は国を超えて権力をもっているのか。
頼むことができたら、効果はあるかもしれない。
「そんな権力もっている教会が、私達に力を貸してくれるでしょうか?」
「リーダ様は、タイウァス神の信徒では?」
そんな話は初耳だ。誰かと間違えているのだろう。
よく分からないうちに妙な神様の信者にされるのも困るので否定しておかねば。
「いえ、違いますが……どこでそんな話が?」
「この町のタイウァス神殿で多大な貢献をしたと聞きましたが? 神官長がとても感謝していると伺っています。今だったら、ペット探しくらいなら協力してくれると思いますよ」
全然覚えが無い。本当にオレが感謝されているなら嬉しい話だ。是非ともハロルド探しに協力して欲しい。駄目もとで行ってみるか。
「やはり、覚えが無いのですが、一応伺ってみようと思います。ちなみに、タイウァス神殿は何処にあるんでしょうか?」
「普段、青空市場をしている町の端です。私も用がありますし、せっかくだから案内しましょうか?」
あー。思い出した。
水くんで、苦情いわれて、金貨を寄付してしまったところか。
ここからの道が怪しいし、案内をお願いして手早く済ませてしまうか。
「それでは、案内をお願いします」
案内をお願いすると、エレク少年は、準備すると走って何処かにいってしまった。
それから、馬車でもどってくる。歩きじゃないのか。しかも、御者付きだ。
「どうぞ、リーダ様」
「馬車まで用意してくれたんですか?」
「いえ、偶然です。受け取る荷物があるので、ヘイネル様に用意してもらっていたのです」
偶然か。それならいいか。
「わざわざ私のために用意されていたらと少し不安になりました」
「あはは。さすがに私の一存で馬車まで用意できません」
楽しそうにエレク少年は笑う。道すがら、ヘイネルさんが最近になって急な予定が入って忙しくなったことを聞く。おかげで約束した勉強を教える話も、延期にして手伝いに精を出す毎日だそうだ。
こちらは別に急がないので、時間が出来たらいつでもどうぞと言っておいた。
青空市場はお休みで単なる広場になっている通りをぬけ、タイウァス神殿のある城壁の側までやってきた。
以前とは違い水をくむ人が沢山いる。よく見ると無料では無くなっている。現金なものだ。
「ようこそ。リーダ殿。貴方には感謝しきれないですな」
迎えてくれたのは前回と同じ白いヒゲの神官だった。今回は、笑顔で歓迎してくれた。
「いえいえ、何もしていません」
なんでこんなに歓迎されているのかわからない。
エレク少年は神官の1人から、なにやら受け取っていた。ひょっとして彼は、タイウァス神の信者なのか。
「そんなことはありませんぞ。タイウァス神の加護による湧き水を熱心に求め、対価として金貨一枚を寄付された。あの様子が、話題となって、湧き水の価値を町の人々が認めたのです」
「えぇ、本当に、最近はタイウァス神の信徒も増えています。リーダ殿のような偉大な魔法使いが価値をみとめたことは大きい宣伝になりました」
白いヒゲの神官と、その助手の神官が口々に賞賛してくる。
正直なところ、何でそんなに評価されているのかわからない。
しかし、そんな高評価を利用する。今のうちに、依頼を進めることにするのだ。
ハロルドの捜索の話だ。タイウァス神のご加護というのがあるなら、あやかりたい。
神様お願いってやつだ。
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