召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二章 屋敷の外へと踏み出して

さわぎのあとのおはなし

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 ノアの胴上げが終わり、興奮状態も冷める頃には夕暮れになっていた。

「あんたたち、今日はどうするんだい?」

 門の方を見て、みんなで帰る相談をしていると、街の人に声をかけられた。

「私たちの屋敷に戻ろうかと思います」
「そとはもうすぐ暗くなるし、もしよかったらうちに泊まっていかないかい? 町を救った英雄さんだ、タダにしとくよ」

 いつの間にか、オレたちは町を救ったことになっていた。領主の宣言が利いたようだ。
 正直なところ、皆ヘトヘトになっていたので言葉に甘えることにする。
 あてがわれた部屋は、2階の角部屋だった。
 窓から、外の様子がよくみえる。ゴブリンの死体はどこかに運ばれていた。方向から、聖獣ヴァーヨークの元へもっていくのだなと思った。
 オーガやゴブリンの襲撃によって破壊された建物や収穫祭の準備も、ゆっくり元に戻ろうとしている。収穫祭の日までに、きれいにして、予定通り収穫祭をするのだそうだ。
 街の人もやる気に満ちているのがわかる。皆、疲れているだろうに笑顔だ。
 そのまましばらく街の風景をながめていると、ふと少しだけ無音になった。
 かわりに後ろから寝息が聞こえてくる。
 振り向くと、この部屋にある二つのベッドのうち、ひとつに寄り添うようにカガミとミズキが寝ていた。
 同じベッドに腰かけて足をプラプラさせているノアと目があう。

「あのね。魔法じゃないのに、空を飛んだんだよ」

 ノアが笑いながらそう言った。
 胴上げのことだろうなと思った。

「気が付いたら胴上げされていてびっくりしたよ」
「最初にプレインお兄ちゃんが、抱っこしてね。ミズキお姉ちゃんが、パースって言って、どんどんいろんな人がふえてきて。お空を飛んだの」
「そっか」
「リーダはやっぱりすごいね。リーダと一緒にいたら街の人は石投げないんだもん。お部屋も笑って貸してくれて……」
「ノアが、ゴーレムでオーガを倒しちゃったからさ。オレなんかよりずっとノアは活躍したよ。ありがとう」

 それから二人で笑いあって、また外をぼんやり見る。ゆっくりと片付けられていく街はずっと見ていられた。
 トントントンと足音がして、扉が開いた。
 プレインが手にトレイを持って戻ってきた。トレイの上には、パンと飲み物のはいった壺がある。パンには野菜を煮込んだものが乗っていていい匂いがした。

「みんな起こします?」
「いや、疲れているんだよ。寝かしとこう」
「……オレは、起きてる」

 ベッドで横になっていたサムソンがむくりと起き上がった。

「オレは、なにもできなかった。お前やミズキ氏が一生懸命にやっていたのに。ずっと隠れていたんだ」
「あの混乱じゃ仕方ないさ。オレは運だけで乗り切っただけだよ。それにゴーレムが作れたのは、サムソンの功績だよ」
「あぁ……」
「ボクも何にもできなかっスよ。先輩やミズキねーさんがすごいだけっス。最初、顔面血だらけの先輩みて背筋凍ったっスもん」
「うん。わたしもね、リーダが真っ赤でびっくりした」

 プレインが務めておどけた口調で言葉を重ね、ノアが同調する。
 それにしても、オレ、顔面血だらけだったのか。何かが頭にあたったのは気が付いていたけど、あの時かな。
 顔あらったとき、血が付いているなと思ったけどさ。

「今日は、飯食ってねよう。明日になったら皆で屋敷にもどって、それから、やることをやろう」
「やること……っスか?」
「お金を稼ぐんだよ。もうスッカラカンだ」
「そういや、そうっスね」

 これまでの日々で、持っていたお金を全部使いきっていた。衣食住は、一応当てがあるにしてもお金は欲しい。快適な生活のためには、お金は必須だ。

「なにをするかなぁ」

 どうやってお金稼ぐか、そんなことをつらつらと考えていると少し眠ってしまったようだ。いつの間にか夜になっていた。二度寝しようとしたけれど、目がさえてきたので、少しだけ外を散歩することにした。
 一階は酒場になっている。降りていくと、にぎやかだった。ミズキが酒場にいる他のお客さんと盛り上がっていて、プレインがなぜか厨房にいるのが目についた。
 喧噪の中に入るのは苦手だ。
 そのままスルーして外へ出る。
 外は、少しだけひんやりとしていた。
 かがり火に照らされてゴーレムの姿と、オーガによって破壊された兵舎が見える。それに満天の星がみえた。

「おー」

 思わず感嘆の声が漏れる。

「あらぁ、どちらかへおでかけぇ?」

 後ろからロンロの声が聞こえる。

「眠れなくてね。それにしても星がすごいなぁ」
「んふぅ。言ったでしょうぅ。空には数多くの魔法陣が刻まれ輝いているって」
「そうだっけ?」
「えぇ。あの一つ一つがこの世界の法や、理を成しているいるのよぅ。例えば、あのひときわ輝く光の粒、あれは看破の魔法を司どる極光魔法陣なのよぅ」

 太古の王様が世界中に統一した法を敷くために、神々に祈り捧げ、空に貼り付けることを許された超大型の魔法陣を極光魔法陣と呼ぶらしい。
 看破の魔法陣もその一つで、オレたちが今まで使っていたのは、空の星のように見える魔法陣へのお願いの言葉に過ぎないのだということだ。

「世界の法か……、もし、オレたちが異世界の人間だとみんなが知ったらどうなると思う?」

 オレは、ちょっとした思い付きから聞いてみた。こっちの人からみて異世界人ってどんなイメージなのかとか知りたい。

「さぁ。わからないわぁ。でも、良いことにはならないでしょうね。闇の鳥のお話にもあるもの」

 闇の鳥という異世界から召喚された鳥の運命を語ってくれる。
 ずっと昔に、召喚魔法を研究していた人々が、偶然から、いかにも飛べそうにもない鳥を召喚した。
 鳥というにも奇妙な姿のソレは、暗闇でもまるで見えているかのように獲物をみつけ、誰にも習うことなく飛翔の魔法により自在に飛べたという。
 闇を恐れず自由に振る舞うその鳥を人々は闇の世界から来た鳥にちがいないと考えたそうだ。

「話がみえない、その闇の鳥と、オレたちに何の関係が?」
「この世界はねぇ。異世界から多様な存在を召喚したり力を取り出して成り立っているのよぅ。夢の世界からブラウニーを、火の世界からサラマンダーを、輝きの世界からウィルオーウィスプを。シルフだってそうだわぁ。魔法だって、他の世界から力を取り出して行使しているのでは? なんて言うひともいるわぁ」
「それで?」
「この世界の人々は新しい世界、新しい世界のもたらす新しい力に飢えているのぉ。いくつかの大国が、他者を圧倒できる力を欲しているわぁ。より有利になるためにね。新しく切り開かれる異世界は、もしかしたら圧倒できる何かを持っているかもしれない」
「実験台にでもされるってことか?」
「新しい異世界の存在を感じさせる闇の鳥は、いろいろな思惑を呼び、悪意にもてあそばれたの。結果的に闇の鳥の最後はひどいものだったそうよ」

 利権の奪い合いに巻き込まれたと。
 一匹の鳥でそれだったら、オレたちはもっと酷いことになる可能性があるかもしれない。異世界の知識が価値を持つかもしれない。
 触らぬ神に祟りなしだ。異世界の住人だったってことは黙っておくことにしよう。

「それにしても、ロンロは物知りだな。それに割と親切だ」
「そうかしらぁ」
「実際のところ、お前はオレたちの味方ってことでいいのか?」
「私はあの屋敷の管理人よぉ。誰の味方かと問われればノアの味方かしらね。屋敷の主人であるノアのね。あなたたちの味方でも敵でもないわぁ。だから、ノアに悪いことが起きない限り、あなたたちが何処で何をしようが知ったことではないのよぉ」
「そうか」

 いろいろ言ってはいるが、やっぱりロンロは親切になってきたと思う。それに今はいつも以上に饒舌だ。

「だから、これからリーダがいかがわしいお店に行こうが知ったことではないの。あぁ、ちなみにだけど、そんなお店は向こうの道をまっすぐよ」
「いかないよ」
「あらぁ、残念」

 何が残念なんだか。
 それだけを言うとロンロはふわりと上昇していく。ずっとずっと高く。そらに浮かぶ月の方へと向かって飛び去って行き見えなくなった。
 オレは、この時はじめて、この世界にも月があることを知った。月は元の世界以上に大きく、そして明るく輝いていた。
 そして今日は満月だった。
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