召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二章 屋敷の外へと踏み出して

ぶらうにーとたけとんぼ

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 翌日、居間に行くとプレインが一人ニヤニヤして、何かを食べていた。ロンロはその姿を興味深かそうに眺めている。

「マヨネーズっス。夜なべして満足いくものが出来たっすよ」

 これなしでは生きていられないとか言いつつマヨネーズだけ食っている姿を見て朝から微妙な気分になる。
 しばらくして、ノアとカガミとミズキがぞろぞろと起きてきた。
 プレインは、もうすぐ寝るらしい
 ノアがそそくさと用意したカロメーにマヨネーズつけて、それを食べて満足すると「寝る」と言って部屋から出て言った。

「サムソンは、まだ寝てるのか」
「夜通しで魔法の研究しててさっき寝たところよぉ。りばーすえんじにありんぐぅっていうのをしてるらしいわぁ」

 昨日の晩からカガミの研究を参考に試行錯誤していたらしい、ロンロもずっと手伝いをしていたが何をやっていたのか分からなかったそうだ。
 ただ全く違う魔方陣から全く同じ結果を発生させたりほとんど同じ魔方陣から全然違う結果を発生させたりと不思議な現象次々と起こしていたとしきりに感心していた。

「えぇとぉ、伝言もあるわぁ、いろいろな種類の魔法を試してみたいから資料があったら用意しといてだってよぅ」
「色々な種類の魔法……確か、召喚魔法を使ってなかったよね」
「そうなんですよ。結構複雑な魔方陣を書かなきゃいけないんで、後回しにしてたんですけど使いたいと思っていたんです。リーダもそう思いません?」

 確かに召喚魔法は使っていない。この世界にきた理由が召喚魔法によるものだとしたら、知っておくべき魔法と言えるかもしれない。

「急ぐ予定もないし、試してみよう」

 召喚魔法で分かっているのは、小人の召還、黄昏の者の召還、物体の召喚の3つだ。
 そのどれも奥が深いのか、説明書きがたくさんあって、一冊の本に魔法陣がこの3つしか載っていなかった。
 小人……ブラウニーは、家の掃除や雑務を御願いできるそうだ。
 黄昏の者は、他人に危害を与えることなどを願える使い魔らしい。
 物体は、望んだ物体を呼び出すことができるという理解で大丈夫そうだ。

「ブラウニーにしよ。屋敷の掃除してもらってさ、快適に過ごそうよ」
「私もそれがいいと思います」
「説明書きが長いな……誰か読んだ?」
「私が長い文章読むわけないじゃん」
「カガミは?」
「魔法の種類を優先してみていたので、詳細はわかりません」
「ノアとロンロ……」

 呼びかけようとしたら、ノアはマヨネーズをトマトにつけてモグモグ食べていた。静かだと思ったけれど、マヨネーズ気に入ったのかな。
 ロンロは視線に気がついたのか、こちらへ近づいてきた。

「ブラウニーはいい子たちのはずよぉ。言うこと聞かなければ一人生贄にすれば言うこと聞くらしいしぃ、大丈夫じゃないかしらぁ」

 その生贄とかいう考え方が大丈夫とはいえない気がするけれどブラウニーを呼ぶことにした。
 初召喚魔法だ。
 魔法陣を書き写し触媒を用意する。触媒は、パンとお酒と果物らしい。果物がないため街で買ってきたレモンを使う。甘くはないけれど勘弁してほしい。
 複雑な魔法陣を描き切った時にはすでにお昼頃になっていた。

「みんな何してんのさ?」

 サムソンが起きてきたようだ。

「これからブラウニーを召喚しようかと」
「この屋敷の掃除をお願いしようと思うんです。そろそろ個室とかほしいとは思いません? 思いますよね」
「んー、いろいろな魔法陣を比べてみたかったから、そう言う資料を集めて欲しかったんだけど……まぁ、カガミ氏に任せるよ」

 エリクサーを増やした時と同じようにみんなで魔法を詠唱する。
 ちょっと言い間違えた気がした。
 魔法自体は成功したようで、魔法陣の中心が光ったのちドライアイスを炊いたような白い煙を伴って小人が姿を現した。
 沢山いる。数えて見ると17人いた。
 あぁ、こういうのがブラウニーというのかと思った。
 豊かなあごひげを蓄えた小人のお爺さん。絵本で見た白雪姫の童話に出てくる小人さんだ。身長30センチくらいだろうか。
 ブラウニーの一人と目があった。

「お前がわしらぁ呼んだんか?」

 ドスの利いた低い声だ。ちょっとガラが悪い。ふと見ると他の3人は距離を取っていて、オレがブラウニーの集団のすぐそばにかがんでいたような形になっている。ロンロはノアのそばにいて、ノアは興味深そうにこちらを見ている。ほっぺにマヨネーズつけて、可愛い。

「わしらぁ呼んだのはお前か聞いとるじゃが」

 周りの状況を確認していたら、苛ついたように再度質問された。

「そうですそうです。家を掃除してほしいかなとか思いまして」
「ハァン、美味しいお酒にパン。それに甘い果物。その引き換えに頼みを聞くのがわしらのシノギじゃけん」
「すみません。ちょっと果物を切らしてまして……」
「美味しい果物、そこを違えたらタマの取りあいになってもおかしくないけん、腹くくって物言いや。んで、果物はどうするんか?」

 すごく睨んでいるし、なにこの言い方、こわい。
 なんだか絵本で見るハイホーハイホー言っているイメージと違いすぎてこわい。

「うぁぁ、ガラわる」

 ミズキがボソッと呟いた。その声に反応してブラウニーが一斉にミズキを見る。

「お、お嬢様方もいらっしゃいましたか、失礼失礼。少し口が滑ったらしいですワイ。約束と違う贈り物に、約束以上の人数呼ばれましたので、少し気が立ってしまっていましたワイ。ハハハハ」

 ミズキに対する態度の豹変ぶりにビビる。なに、こいつら。
 続いてカガミとサムソンが質問する。ブラウニーは、7人を1セットで活動すること。触媒の品質というか味が大事なことが分かった。あと、コイツらは男と女で態度が豹変することもわかった。
 オレはコイツらを2度と呼ばないと心に誓うことにする。
 カガミが交渉して、家の掃除をしてもらうことになった。カガミとミズキが7人ずつのブラウニーを引き連れて掃除に向かう。現場指示をしてほしいらしい。残った3人はオレにつけられた。3人はすごく嫌そうにオレを見た。
 カガミとミズキにつけられた奴らは歌を歌いながら作業しているが、オレにつけられた3人はとてもどんよりした顔で適当に作業している。やる気が感じられない。
 掃除は日が沈むまでかかった。
 途中、何か作業を始めたサムソンにブラウニー3人を押し付け、ノアと外で遊んだ。
 木の枝で竹とんぼを作ってみせると大喜びしていた。調子に乗って3つ作った。

「日没がきましたワイ。今度は甘くて美味しい果物をお待ちしてますぞ。それではお嬢様方ご機嫌よう」

 手を振りながらブラウニーは煙を起こして消えて行った。
 夜に、カガミがリストを二つ見せてきた。
 一つは家の修繕に必要な物品のリスト。この屋敷はいたるところが痛んでいるので、快適な生活には修繕が必要ならしい。割と沢山ある。お金がかかりそうだ。
 もう一つは、書物の目録だった。どんな本や巻物があるかがリストアップされている。それを見てサムソンが感嘆の声をあげる。

「これだよ、これ。こういうのが欲しかったんだ」
「いちいち本を読むのも大変だからね、ブラウニーさんたちにダメ元で御願いしたら、あっさりOKしてくれたの。整理整頓は彼らの得意分野らしいんです。とっても頼りになったからまた呼びたいと思うんです」

 なんだろうか、あのコンパクトヒゲ親父どもの態度の変わりようにもやもやする。

「まぁ、好きにすればいいんじゃないの」

 オレは呼ばないけれどな。
 ただ、ブラウニー共のおかげで掃除は一気に終わった。これで一人一部屋使うことができるので、相部屋で寝ることもなくなったわけだ。

「あとはお風呂かぁ」

 ミズキがそんなことを呟いた。今は、大量のお湯を沸かすのが大変なので、体を拭くくらいしかしていない。お風呂は薪をくべて沸かすようになっていた。井戸のように魔法陣でなんとかなるかと思ったが、そんな魔法陣は屋敷にはなかった。
 大量の水を汲んで沸かすのがめんどくさいのでなんとかしたい。

「今日はブラウニーさんが2階のお風呂にお湯張ってくれてるよ」
「本当に? ちょっといってくる。ノアちゃんも一緒に行く?」
「わたしは……いい……です」

 頭を振ったあと、どこかに行ってしまった。ロンロもついて行ったので大丈夫だろう。

「ノアちゃん、恥ずかしいのかな」

 心配そうにカガミが呟いた。
 その言葉が少しだけ気になった。
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