推しの兄(闇堕ち予定)の婚約者に転生した

花飛沫

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1. 推しの兄の婚約者‥‥?

推しの兄とご対面

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 チャールトン家とオブライエン家は家同士の仲が良い方だ。別にオズがヒューバートとの婚約を断ったとしても関係が悪くなるということはないだろうが、オブライエン家としては一応友人の子供であるオズと自分の息子ヒューバートが婚約することを望んでいる。
 今回は〝誕生日パーティーの中で仲良くなったらいいな〟程度の軽い顔合わせだ。婚約すれば良いじゃないと言われる程仲良くはなりたく無いが、ヒューバートが闇落ちキャラだということを考えると、こう、余り冷た過ぎる対応をするのもやめておいた方が良い気がする。

(良い塩梅あんばいを考えるのは難しいな‥‥。)

 客間の扉は目の前に。アントニーはオズの手をそっと離し、しゃがみ込むとオズの顔を見た。

「じゃあオズ、僕はここで待っているから、挨拶が終わったら出ておいで。」

 オズは「はい。」と頷いた。アントニーは微笑んで頭を撫でてくれる。中身の年を考えるとこういうのは照れ臭くなるが、悪い気もしない。因みに、アントニーもオズの兄弟なので勿論美形である。
 オズは扉を開いた。キィと蝶番が音を立てて、木の扉はゆっくりと開く。
 少しの隙間からするりと身を滑り込ませて、さっと扉を閉める。

 客間には中心にテーブルがあり、扉の手前とテーブルを挟んだ向かい側に大きめなソファーがあった。三つほど乗っているクッションが柔らかそうである。

 奥側にあるソファーの真ん中に、同い年くらいで凄く整った顔の少年が座っていた。紺の髪に薄いラベンダー色の瞳。髪と同じ色の長い睫毛まつげ。薄い唇に綺麗な鼻筋。
 少し緊張した面持ちで、オズが部屋に入って来たのを見ると慌てて飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置いた。

(アルバート‥‥?)

 オズは最初そう間違えそうになった。ヒューバートは小説に出て来たアルバートにそっくりだった。だがよーく見れば、アルバートの方がもう少しだけ瞳の色が濃いかもしれない。ほんの少し、気が付かないレベルだが。
 兄弟だからそりゃあ少しは似ているかなと思っていたけれど、ここまでとは聞いてない。

(かっ‥‥こよ。これは将来も絶対格好いいタイプだ!)

 アルバートに似ているということは、つまりオズの好みのドンピシャだということにもなる。

 オズが固まっていると、どうしたらいいのか分からないと思われたのか、ヒューバートは手前のソファーを手で示した。

「どうぞ。お掛けになってください。」

 幼い声で、少したどたどしくそう言ってくれた。

「はいっ‥!」
 
 オズは心の中で色々考えながらも、余裕を持ったゆっくりとした動きでソファーに座った。少し身が沈み込む。これは良いソファーである。
 ヒューバートは口を開く。

「ええっと、ヒューバート・オブライエンです。今日は僕の誕生日パーティーにお越し頂きありがとうございます。」

 やはり少したどたどしくはあるが、幼くしてこの言葉遣いは流石貴族だと思う。社交講義とか頑張っているんだろうな‥‥と講義をサボりがちなオズは感心した。
 そしてやはり、顔が良い。

(ぼーっとしてる場合じゃ無い。次は俺か。)

 オズは自分の素とは違う、この顔に似合いそうな大人しくて儚い仕草で礼をする。

「初めまして。オズワルド・チャールトンと申します。こちらこそ、本日はお招き頂きありがとうございます。」

 節目がちに上目遣いで、話終わったら少しだけ微笑む。
 オズの自己紹介を、ヒューバートはぽーっと聞いていた。















 それから少しだけお話しして、オズは客間を後にする。
 扉横で待っていてくれたアントニーが「どうだった?」と聞いてくるので、オズは少し考える。

「優しそうな人だった。」

 そう、本当に優しそうな人だったのだ。他家の屋敷にお邪魔すること自体が初めてなオズを気遣って、

「お手洗いの場所が分からない時はホール横に立っている護衛の人に聞くといいよ。」

 とか、

「紅茶は沢山並んでいるけれど、お水が飲みたくなったらここに居る人に言うと良いよ。」

 という感じで色々教えてくれた。
 いやもう、顔も好みで教養があって紳士だとか‥‥。

(あの人の婚約者なら喜んでなるんですけど!)

 しかし忘れてはいけない。ヒューバートと婚約したらもし彼を闇落ち展開から救えなかった場合、オズも死ぬ可能性があると言うことを。

(その可能性さえなければな‥‥。)

 オズは歩き出したアントニーの隣を歩き、二人はパーティーが行われているホールにたどり着いた。今は午後で、今日はよく晴れている。ホールの壁にガラスでできた大きな扉があって、その扉が大きく開かれて庭にも出られるようになっていた。庭にも立食用と座って茶を楽しむ用のテーブルが幾つか置いてあり、全体から楽しげな雰囲気が伝わっていくる。
 アントニーの後ろについてある程度挨拶回りを終え自由になると、彼はまたしゃがみ込んでオズの顔を見た。

「僕は少し友人達と話してくるね。一人で大丈夫そう?」
「はい!」

(これは好都合だ!)

 今日の任務を遂行する為に、どうやって一人になろうかと考えていたところだ。オズは元気よく頷いた。
 アントニーはまだ心配そうな顔をしている。

「そっか。何か困ったら声を掛けてね。」
「はい。楽しんできてね!」

 去っていくアントニーにぶんぶん手を振って見送ると、オズは一人になった。その途端、オズに声をかけようとタイミングを窺っていた子供達に囲まれてしまう。

「こんにちは!」
「オズワルド君だよね。一人になったの?」
「良かったら一緒に話さない?」

 まだ名前もうろ覚えな人達に囲まれてオズは身動きが取れなくなった。

「えっと‥‥。」

 それでもおしとやかな受け答えで何とかかわし、天使のイメージを守りつつ、立ち止まったら話しかけられる確率が上がると気が付き適当に歩き回ることにした。
 
 カツカツカツと靴と床板のぶつかる音が屋敷の廊下に反響する。オズは考えを整理しながらよく分からない廊下を歩いていた。

(まず、『アルバート毒殺未遂事件』の犯人だよな‥‥。)

 小説には、アルバートを毒殺しかけた犯人の名前は出てこなかった。
 ヒューバートは幼い頃から理不尽な事件や言い掛かりに巻き込まれて酷い目に遭い、その上悪い噂まで流れて人から避けられ、そんなことの繰り返しで病んでいったと書かれていた。そして彼の身に起こる最初の理不尽な事件がこの『アルバート毒殺未遂事件』なのである。
 しかしこういう事件があってヒューバートに罪がなすりつけられたとは書かれていたが、誰がアルバートを殺そうとしたのかについては一切説明が無かった。
 と言うのも、これらのヒューバートについての話は、回想としてアルバートが主人公に語ったものでしかないからだ。物語は主人公が学園に来る高等部から始まり、ヒューバートはその時には既に病んでいたので、主人公がヒューバートの病むきっかけとなる事件に遭遇することがこの小説内には無い。高等部に入るまでにはヒューバートの病みは完成されているわけである。

(まあヒューバートが病むことはアルバートが気落ちするための設定って感じで、主人公が物語で巻き込まれていく事件には関係が無いしな‥‥。)

 さて、犯人をどう探せば良いものか。
 本当ならアルバートのことを思って毒殺未遂事件ごと未然に防ごうと、オズがアルバートと共に行動し続ければ良いのではと思っていた。だが犯人を捕まえる為には、アルバートを一人にさせて敵が毒殺を仕掛けようとしたところで現場を押さえるしか無いかもしれない。

(変な事して物語が変わって、ヒューバートがなすりつけられるのが他の人の毒殺事件の罪とかになったら面倒だし。)

 では先ずはアルバートを探すべきだろう。しかし、オズには今気になる事が一つ。

「あ、オズワルド君。また会ったね。」
「‥‥はい。」

 オズは先程から廊下を歩いては時々ホールに入ったり庭に行ったりを繰り返しているのだが‥‥ホール1、ホール2もあり庭に出る扉も二つあるのに、さっきからどこに行ってもヒューバートに出会ってしまう。
 オズは美しい微笑みを浮かべて「奇遇ですね。では、僕はこっちに行くので。」と言うとヒューバートに背を向け、反対方向に歩き出す。

(何でこんなに会うんだ‥‥?もうこれで六回目だぞ。)

 しかもアルバートには一回も会えていない。推しに会うのを楽しみにしているのに。
 ツカツカと廊下を歩き、ホール2の庭へ出る。

「あ。」
「え?」
 
 なんとそこにヒューバート。

(マジでどういうこと!?後をついて来たわけでもなく行く先々に居るって、そっちの方が怖いんだが!)



 これは、運命の悪戯いたずらなのだろうか。



 物語では、ヒューバートは次第に病んでいき、その婚約者も共に死んでしまう。ヒューバートは周囲の人間に嫌われ蔑まれ避けられたが、彼の婚約者だけは違ったのかもしれない。アルバートが主人公にヒューバートのことを話す時、彼と婚約者は普通に仲が良かったと言っていた気がする。
 幼い頃からの婚約でもお互いのことを好いている様な書かれ方だったので、他の政略結婚の為に婚約した人達とは違い、恋に落ちてから婚約をしたのかもしれない。実際、オズはこれまでオブライエン家からヒューバート誕生パーティーや茶会の招待を何度も貰っていた。それらを断らず最初から会っていたら、もう随分前にオズワルドとヒューバートは出会っていたことになるし、時間をかけて互いを好きになってから婚約をしていても可笑しくはない。

(なんて事だ‥‥まさか、ヒューバートはオズワルドに恋をする運命なのだろうか?)
 
 適当に庭を歩き回っていても、友人と話をしながら立食用スイーツを食べ歩いているヒューバートは、気が付いたら何故なぜか側に居る。
 オズは唾をごくんと飲み込んだ。

(何が運命だ!俺は運命を曲げる為に行動するんだぞ。ヒューバートぐらいいてやる!)

 そう意気込んだオズは、少し人混みから離れて、近くにあった茂みに思い切り飛び込んだ。






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