周変軌道のプラネトロイド

さとう たなか

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運転席。
暖房の音だけが車内に聞こえる。正面に見える歩道に植えられた木々も葉っぱがないから寂しいし、曇り空も相まって景色はしんみりと映った。
デパートなどのショッピング施設が並ぶ大通りは休日のせいもあって、車が渋滞していた。
信号が青に変わり止まっていた車が待ってましたと次々に動き出す。もうすぐ信号の前を通り過ぎれる、という所で信号が黄色、赤に変わり、スイの車は信号前で停止した。
長く渋滞に巻き込まれていたのか、スイは重くため息をつく。
やっとまた信号が青に変わり、スイはハンドルを回す。
向かったのは広い駐車場が併設されたこの地域の中では大きいデパート。車が止められるところが無いかとウロウロし、車を駐車させる。
車から降りたスイ。
大型チェーン店のデパートの看板を見上げ、入り口の自動ドアから漏れ出る店内BGMが耳に入りスイは肩をすくめる。
意を決してデパートの中に入ると自動ドアの入り口から家族連れや学生の若者の集団、カップルが多く行き交う。デパートの中一面クリスマス一色の様子にスイは口を尖らせ、頬を掻く。
入り口の壁に貼られていたデパートのチラシが目に入り、近づくと、クリスマス用にチラシが作られ、ケーキや、チキンの値段、おもちゃの値段が書かれていた。
「おもちゃ高っかいよねえ」と後ろから声が聞こえ、やっぱりそうだよなとスイは共感する。

「ねえ、スイ」

突然、後ろから聞こえてきた声に名前を呼ばれ、チラシを見ることに没入していたスイは我に帰り、「なんだ」とお隣さんに聞いた。
…。
…ん?
…いや、おかしい、いるはずがない、と、驚いたスイは慌てて後ろを振り返る。デパートの入り口から入ってきた家族と目が合う。その家族の顔が怪訝そうだったのにスイは眉をしかめる。

「スイ、こっち」

下から声がし、スイは顔を下に向けた。
そこに白髪の小学生くらいの子供がいた。
季節大外れの白の半ぞでTシャツ。
スイは見覚えがあった。

「お前!」

スイは慌ててしゃがみ込み、子供、いや、お隣さんを睨みつけた。

「なんでここにいるんだ!」

「ウフフ、きちゃった」

アポなしで来た彼氏彼女のように愛らしく言うお隣さん。

「いつの間に、」

「ハルちゃんの忘れ物なんてなかったの。後ろの席に首をちぎって忍ばせて置いたんだー」

「バケモンかよ、お前は」

「ちょっとー、それ宇宙人に対して失礼でしょ。頭部を変形させて人の形にしたから、少々背は縮んだけどねえ」

と、お隣さんは片手を頭の上で上下させる。

「それより君さ、なんでプレゼント買いに行くって言ってくれないの」

両手を腰に当て、ぷんすかと口を膨らませながらスイに聞くお隣さん。
聞かれたスイは分が悪そうに顔をそむけ、頬を掻いた。

「タイヤ交換しに行くって言ったろ」

口先でブツブツと言うお隣さん。

「デパートでタイヤ交換できんの?」

「うっ」とお隣さんは口を紡ぐ。

「プレゼントを買いにわざわざ街まで出向くなんて、君はほんとにハルちゃんのこと
が…」

好きなんだねとお隣さんが言いかけた途端にスイは「ああああーっ!!」と赤面させながらお隣さんの頭部めがけて手をかけようとした。

「おっと、首はぶっ飛ばすなよ。ここでやったらどうなるかな?」

すんでの所でお隣さんに脅され、スイは周りを見渡す。
苦い顔をしてこちらを見ながらデパートを出入りする客が目に入る。

「ぐぬぬ…」

周りから見たら、子供を怒鳴りつける大人である。
スイは行き場を失ったこそばゆさを閉じ込めた拳を震わせ、ゆっくりと拳をおろした。

「…家にハルを一人置いてきたのか」

冷静になったスイがお隣さんに言う。

「まさか、ちゃんと胴体は置いてきたよ。遠隔でハルちゃんを見ているから安心して」

するとハルは今首無し胴体と一緒に家にいるのかと、そう思うとスイは呆れて「あそ」と返事を返した。

「ハルちゃんのプレゼント。決めるの手伝ってあげる」

いつも来ている半袖シャツをひるがえしてお隣さんは言う。その時、半袖の下が素足だということに気づき、スイは恐る恐る聞く。

「…お前、下履いてんのか」

「え?履いてないけど」

スイは小さくなったお隣さんを担ぎ上げ、急いで子供服売り場に向かった。
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