頭良すぎてバカになる

さとう たなか

文字の大きさ
18 / 28
第2章

5

しおりを挟む
文化祭の毎年の恒例で、2年生はお化け屋敷をすることになっている。
今日は学園祭の準備日。
校舎2階の2年生の教室を全部使うから、2年生みんなが忙しなく動き回る。
俺と風馬、雨宮さんは自分たちの教室で設置する飾りの井戸を作っていた。
ここから幽霊役の生徒が飛び出すことになっていたんだけど、おばけ役の生徒が急にやりたくないと言い出して困っていると雨宮さんが話出したのをきっかけに、なんでかわからないんだけど、俺は女の子のゴスロリ衣装を着ることになってしまった。
雨宮さんが学校を回るときに着ようとしていたらしい。
簡易でつくられたダンボールのパーテーションの裏で雨宮さんに教わって着た。着替え終わると、雨宮さんが口を抑えて泣きそうな顔をして俺を見てきた。
「ああ嘘っ、ああーもう、かわいい…っ!」
黒の膝下まである黒のゴスロリ衣装。
ロングの黒髪のウィッグも被せられた。
静電気で顔にくっつく。
脚に履いた黒タイツが肌にまとわりつく感じが気持ち悪い。
パーテーションから出ると、井戸作りをしていた風馬に出くわす。
なめるように下から上に見てくる風馬。
口に手を当てる。
笑ってる、こいつ。
「女子のサイズ入るとかすげえな。似合うじゃん、美空」
「うっせえ」
雨宮さんが俺の頭の上に血の着いた斧の飾りをかぶせてきた。
「これで完璧!」
ノリノリで楽しそうな雨宮さん。
「もう…、和洋折衷すぎない?これで井戸から出るの?」
「おもしろそうじゃん。意外性があって」
風馬までそんな事言う。
「笑われるよこんなの…」
本番やらないからな、俺。
ん?
…太ももが急に涼しい。
片面のスカートがめくれ上がっていた。
「ちょっ!!」
スカートをはたき落とすと、風馬が捲っていたことがわかった。
お腹を抱えて笑っている風馬。
「うわ!なにお前律儀にパンツになってんの!」
「バカ!!」
風馬の肩を思いっきり叩いた。
そして本番当日。
井戸のおばけです、と雨宮さんからクラスのみんなにこの格好のまま紹介されて、開場まで写真撮影に追われた。困ったのが、みんな、ノリだと思うんだけど抱きしめて撮影してきたこと。
ああ、なんか、罪悪感…。
「帰りたい」
「まあ、そういうなって」
風馬と井戸からどう出るか最終リハーサルをしていた。
昨日の時点ではまだはっきりとどうするか決まってなかった。
「時間大丈夫なの?風馬」
「ん、なんか、他の教室の飾りが壊れたから、お化け屋敷だけ午後からやるんだって」
「あっ、そうなんだ」
じゃあ、下手したら丸一日この格好の恐れがあるのか。
こうなったらやるしかないか。
リハーサル開始。
候補1、人が来たら井戸からバッと立ち上がる。
「どう?怖い?」風馬に聞いてみる。
「うーん、微妙」
「じゃあ、」
候補2、立ち上がって両手を上げる。
「どう?」また風馬に聞いてみる。
「ゆるキャラちゃんだな」
「怖くないってことね」
「うーん」と風馬が顎に手をあてて考え込む。
「美空、声出すか」
「なんて言うの?」
「王道のうらめしやじゃない?」
「…初対面の人にそれ言うのもなあ。それに和製だし」
「1枚2枚って感じでもないじゃん?」
「…あっ。カミソリが1枚2枚は?」
結局、うらめしやって言いながら井戸から出てくることになった。
お化け屋敷がなんとか開場して、やってみたけどこれが意外と受けが良かったみたいで。
「後呂くんすごい、かわいいおばけに会えるって噂になってるよ」
と雨宮さんがわざわざ言いに来てくれた。
「誰も怖がってないじゃん…」
「まあ、いいじゃん、盛り上がってるんだし」
一緒に井戸の裏で待機していた風馬がニヤニヤしながら言う。
「はあ、もう、次のグループで最後にするからね。後は風馬がやってよ」
「あー?やだよ」
そう2人で言っていると教室の外から人の声が聞こえて来たから、急いで井戸の中に隠れた。
息を潜めて隠れる。井戸の内側から外を除き込める小さな除き窓から様子を伺う。
お客さんの反応は思惑と違かったけど、この人で最後だから、ちょっと本気でやるか。
除き窓から人の脚が見えた。
と、同時に思いっきり井戸から飛び出した。
「うらめしやー!」
目の前にいたのは
「あっ、」
恐怖で歪みきった顔で絶叫する
「睦、」
だった。




保健室、ベッドで仰向けに寝る睦を見下ろしていた。
ゆっくり、睦が目を開く。
ぽけーっと、呆然とした目で天井をみ見てから、俺を見る。
「ふぁ…、天使さん、ここは天国か地獄どちらですか?」
「何言ってるの、」
寝ぼけてる。
睦がゆっくり体を起こして頭の後ろを手で摩る。
頭でも打ったのかな。
「大丈夫?」
睦の後頭部に手を当てる。
「あっ、ごめんなさい、」
あれ、他人行儀な言い方。
睦は後頭部に当てた俺の手を握って離すと俺の顔をじっと見た。
目を見開いて、驚く。
「あっ!みうじゃん!なにその格好可愛すぎない!?」
気づいてなかったんかーい。
「押し付けられたの…。ホントは今すぐ脱ぎたい」
「えー、だめ。そのままでいて?」
「びっくりした。睦、驚き過ぎて失神しちゃうんだもん」
俺を見て驚いた睦はあのまま卒倒してしまった。その場にいた俺と風馬で両手脚を抱えて保健室に走っていって今に至る。
今、代わりに井戸のお化けは風馬がやってくれてる。
「わあ、そうだったの、ありがとう」
「なんで苦手なのに来るわけ」
去年は一緒にお化け屋敷に入ったけどご覧の通り睦がこんなだから、イケメンが暴れるわで大変だった。
「何となく、入りたくて、お化け屋敷」
「あっそ」
他の先輩に誘われて行ったのかな。
「みんなが井戸で可愛いお化けに会えるよって言ってたけど、美空だったんだね」
「うん。あっ、うんじゃなくて…、その、別に、可愛くはない、」
「えー、今女の子にしか見えないよ」
睦はウヘヘと笑うと、俺に向かい合うようにベッドの上で脚を組んで座る。
睦は俺に顔を近づけて面白そうなものをでも見るように凝視してくる。
「な、なに…」
「これ、お化粧してるの?」
睦が俺の頬を人差し指で撫でる。なでた指先を見つめて、蝶の羽を掴んだ後みたいについた白い粉を指同士で擦る。
「さらさらしてる」
「粉だから」
「ふーん、」
睦が膝の上に置いていた手を握りしめて俺の唇にキスをしてきた。
急だったし、学校だし、保健室だったから、顔をそむけた。
「ちょっ、」
「んーにゃ。口、ベタベタする、」
睦が不快そうな顔で自分の唇むぐむぐする。
「口紅塗られたから」
「だからちょっと赤いんだ」
睦の唇が赤くなる。
「睦も付いたよ」
「ん。取って」
「自分でやりなよ」
「おねがい」
俺は睦の唇を指で擦った。
口紅が広がっていく。
拭き方を知らないから、全然消えない。
血肉食った後に見えてきた。
睦の顔ふにふにしてて柔らかい。
黙っている睦の顔はかっこいい。
「睦って、キス魔だね」
「だって美空が好きなんだもん」
「このまえ、無我夢中でしてたもんね」
睦が目を下にそらした。
顔が赤くなってる。
かわいい。
「あれは、その…、うん…ごめんね、」
ゆっくり視線を俺に戻した睦と目が合った。
見つめた。 
お互いに。
「美空、キスしていい?」
睦がひそめるような、低い声で言った。
「睦は?」
そう言うとすぐに唇に柔らかい感触があたった。



ーーーーーーーーーーー




「志望校は変えたんだ」
かいとくんが言った。
帰り道、季節は冬。
日当たりの悪い歩道には雪が少し残ってて、口を開くと息が白く出る。
「あっ、そう…だったんだ」
かいとくんから、そう言われて返す言葉が見つからなかった。
自分は合格ラインにいたから。
「美空と同じところには行けないんだなあ」
寂しそうにかいとくんは言う。
「…でも、かいとくんすごく頑張ってた」
話すのが辛い。
この言葉のチョイスであってたかな。
「ありがとう、美空」
かいとくんは笑いながら言った。
しばらく無言で歩いて…。
「…、卒業式の練習ってさ、疲れるよね」
かいとくんは話始める。
「うん。ちょっと寝てた」
「てか、なんで、受験も終わっていないのに卒業式の練習すんだろ」
「追い出されてる感じする」
「じゃあ追放式だ。卒業式じゃなくて」
「なんか悪いことしたみたい」
俺は笑った。
「美空」
「ん?」ってかいとくんを見た。
横でかいとくんが立ち止まったから、「どうかした?」って近づいた。
かいとくんが俺を見つめる。
気づいたら、かいとくんの顔が目の前にあった。
唇に柔らかい感触があったから、キスされたことはわかっていたけど、体が動かなかった。
かいとくんは顔を離した。
「ごめん」
かいとくんは走り去っていった。
名前を呼びたかったんだけど、唇にまだキスされた感触が残っていて、そればっかり気になっちゃって、声が出なくて言えなかった。
待って、かいとくん
どうして泣きそうな顔してたの
怒ってないよ、俺
だから、泣かないで
卒業式の愚痴、まだたくさんあるんだ
って。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...