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1章
30話 人助けの理由
しおりを挟む今、眼前では感動の光景が広がっているが、俺はその光景を見て別の意味で涙を流しそうになっていた。
親子の感動の光景は、今の俺には毒すぎる。俺は恐らくもう一生両親に会うことがない。この世界から元の世界に戻れないと知っているからそれはもう分かっていた。そして、整理したつもりでいた。
けど、やっぱりそんな簡単に整理できていなかったんだな.....。
今この光景を見て、泣きそうになっているのが証拠だ。
やっぱりまだまだ俺は弱いままだ。
そもそも、引きこもった俺になんの文句も言わず、見捨てることなく育ててくれた父親と母親のことを忘れることなんて無理なことだった。そんなことわかりきっていたはずだったのにな......。
でも、そんなことで泣いていても何の解決にもならない。確かに、会えないことは悲しいし、寂しいとも思う。だけど、それで泣いて立ち止まることなんてできないし、していいわけが無い。
俺は変わると誓った。
だったらこんなとこでくよくよしている暇なんてないんだ。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかべルート公爵家族が俺の存在に気づいて、三人一緒に俺の前までやってくる。
「レイ........私達だけでなく、娘の命まで助けてくれて本当に.....本当にありがとう.......。」
べルート公爵は、自分の命が助けられた時よりも思いを込めて、そんな風に感謝の言葉を告げてきた。
まあ、死ぬと思っていた娘の命が助かったんだもんな、自分の命が救われた時よりも嬉しいはずだろう。
.......もしかしたら俺は、この人達の命を助けるためにこの世界に迷い込んだのかもしれないな。
がらにもなくそんなことを思った。
「本当にレイ君には感謝してもし足りないくらいの恩を貰っちゃったわね。それにしても、あれだけの強さで治癒魔法も使えるだなんて、レイ君は、元いた国では英雄みたいだったのかしら?」
キャルアさんは、これまでの俺の行動の感想を英雄みたいだと言ってきた。
俺が英雄.......か。ははっ、そんなものとは程遠い存在だったな。
「異国の英雄......私の救世主様.......レイ様は英雄..........。」
何やら二人の後ろで娘のエリシャさんがぶつぶつと独り言を漏らしているが、なんて言っているんだろうか? 悪口じゃなければいいけど。
「自分たちの恩を返す前に、また別の恩が出来るとは思わなかったな。なあ、レイ。お前はなんで私たちのことを助けてくれたんだ?」
「え? なんで?」
俺はべルート公爵から問われた質問の意味が全く理解出来なかった。
なんで助けたのかって言われても、そんなの理由なんてないのが普通じゃないのか? 人を助けるのに理由がいるなんて俺は教えて貰ったことがない。
「いや、普通自分の命をかけて誰かを助けようとするならそれをする理由があるだろ?」
え? 普通は誰かを助けるのに意味があるものなのか? マジかよ、それは初耳だ。
人を助けるのに理由はいらないって、昔俺が小さかった頃に俺の命を救ってくれたお姉さんから教えられてたからこれまでも誰かが困ってれば人助けを率先して行ってきた。そのせいで怪我をしたり、いじめられることになり引きこもったりもしたが、俺はその教えを今まで疑問に思ったことはなかった。
だって、誰かが困ってたら助けるのが当たり前で.......ああ、そうか。
「ああ、助ける理由がひとつだけありました。まあ、理由と呼べるほどのことでもないんですけど、誰かが困っているからです。」
「「「「「はっ?」」」」」
俺が理由を告げるとその場にいたメイドさんやへパさんたちまでべルート公爵家族と一緒になって、何を言っているんだこいつはみたいな顔になって俺を信じられないものを見るような目で見てくる。
いや、理由がないのか聞いてきたのそっちじゃん! なんで理由を言ったのに意味わからんみたいな感じになってんの?
「そ、それは理由になるのか?」
「え? 逆にそれ以外に人を助ける理由なんてないですよ?」
「そ、そうなのか.....いや、これは驚いたな.....異国の英雄みたいだと思っていたら、まさか異国の英雄と同じ理由で人助けをするなんてな......。レイはもしかしたらお伽噺の世界からやってきたのかもしれないな、はははっ。」
「あなたの言う通りかもしれないわね。これだけ容姿も整っているし、まさにお伽噺の英雄様だわ。」
「やっぱりレイ様は英雄............英雄...........」
俺の理由を改めて聞いた三人は、それぞれ口々に英雄という単語を口にした。それにしても、この世界のお伽噺の英雄も俺と同じ理由で人助けをするんだな。なんだか親近感が湧いてしまう。
まあ、お伽噺の英雄と俺じゃ天と地以上の差があるけどな。
と、四人で話しているうちに、部屋の外の方から新しいメイドさんがやってきて要件を伝えてくる。
「ご主人様、レイ様のおもてなしの用意が整いました。」
「お? そうか! 予定より早かったな。では、早速下に移ってレイに我がヘイル公爵家で出来うる最大限のおもてなしを披露することにしようじゃないか!」
えっ? なに? おもてなし? え? お礼ってメイドさんたちの御出迎えじゃなかったの?
そんなことを思っていると、あれよあれよと言う間にメイドさんたちや執事のヘパが即行動に移る。いや、みんなめちゃくちゃ早いな? 忍者かよ!
「では、我々もいくぞ、レイ。」
有無を言わさずに俺はべルート公爵に片手を捕まれ、引き摺られるように引き連れられていく、その様子はさながら捕まった犯罪者のようだ。
「そうだ、せっかく病気も治ったんだ、エリシャもくるよな?」
「あたりまえです!!!! この命が尽きても私も出席させていただきます!お父様!!!!」
何やらすんごい勢いでエリシャさんも来るとか言い出した。いやいや、あなたまだ病み上がりですよね? 大丈夫なんですか?
あー、うん。めちゃくちゃ元気良さそうだから大丈夫そうだな。
それにしても、おもてなしってなんなんだろうか?
俺はそんな疑問を胸に抱きながら、引き続きべルート公爵に引きずられていくのだった.......。
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