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本編 第二部(シオン・エンド編)
80. 商業の都エフォザ
しおりを挟む商業の都エフォザは活気に満ちている。
王都から東へ、馬車で揺られること三日。僕達はフェルナンド領の中心部に到着した。
窓から見える景色は、王都と同じかそれ以上に整備された町だ。この辺りは、ちょうど川の合流地点だ。王国北東部からの川と、王都の方面から流れる川がぶつかる。
荷物を運ぶのは船のほうが楽だから、昔から商いで栄えてきた。
「私のご先祖様は、王都に向かう船から通行料をとることで、富を得たそうです。それを魔導具作りの研究に使っていました」
「通行料ですか。払わない船は?」
これだけ広い川なら、逃げ切る船もいるだろう。僕の問いに、ネルヴィスは川辺の塔を示す。
「あそこに見える塔から、大砲でドカンと」
「まさか、船を沈めたんですか?」
「不法通行ですからねえ。まあ、それで王家ともめたことがありまして。王家が税金を下げる代わりに、通行料を取らないことになりました」
すると、ネルヴィスの隣に座っているシオンが、含みを持たせて問う。
「あの王家が、税金を下げたんですか?」
「商人が自由に出入りするほうが、うまみが大きいと気付いたんですよ。税金を少し下げるだけで、フェルナンド領が払う税金が多いのに変わりないですし、こちらのご機嫌をとれるでしょ?」
僕は不思議に思う。
「忠臣として、なんでも言うことを聞くわけじゃないんですね」
「搾取されすぎると切れるのが臣下ですよ。我々は魔導具技師として、防衛にちゃんと貢献してますしね。王妃様が王宮を離れるのは痛いですが、幸いなことに、王太子候補の第一王子は聡明な方ですから、王が邪魔さえしなければまとまるかと思います」
ネルヴィスはため息をついた。言葉に反して、あまり期待していない様子だ。
「エフォザは白く輝いていて、綺麗な町ですね」
太陽光を反射して、家並みが白く光っている。すっかり夏らしくなり、あちらこちらに植えられた木々や草花は濃い緑陰を落としていた。
「一度、火災にあったので、耐火のために漆喰を普及させたんです。義務にする代わりに、領地がいくらか補助金を出しています」
建物は白い石材を使っているだけでなく、あちらこちらの家の壁には白い漆喰が塗られているのか。漆喰は高価だから、裕福な証拠だ。
「あちこちに水路があるんですね」
僕が窓に張り付くようにして見ているので、タルボがクッションを差し出す。
「ディル様、首を痛めますよ。クッションをどうぞ」
「なんでしたら、私の膝に乗せてあげましょうか」
ネルヴィスがすかさず口を挟む。
レイブン領からの帰りと違い、馬車に同乗する必要はなかった。シオンと会うのが一か月ぶりだったので、ゆっくり話をしたいと思い、僕がシオンに提案したら、不公平だからとネルヴィスも同席している。
ひょうひょうとしているわりに、ネルヴィスは仲間外れにされるとすねる。
呆れた僕がネルヴィスのほうを見ると、シオンもにこりとして膝を示す。まねくように手を広げるのを見て、その美貌にふらふらっと引き寄せられそうになった僕は、慌てて手を振った。
「いえ、クッションで大丈夫です」
「「そうですか、残念です」」
ネルヴィスとシオンの声がそろい、ネルヴィスはいぶかしげにシオンを見た。彼が隣でしていた仕草には気づいていなかったようだ。
「ちょっと、ディル様。面倒くさい人達にモテてますけど、大丈夫ですか? ストレスならおっしゃってください。追い出しますから」
隙があれば傍にいようとする二人をうっとうしがっているのは、タルボのほうである。
僕も一人の時間が欲しい時は席を外してもらっているが、今のところ、タルボほどピリピリはしていない。
シオンには前世のことは話していないが、それ以外はほとんど短所もばれているせいか、とりつくろわなくていいから気楽だ。他人といて疲れるのは、気苦労がほとんどで、それがないおかげである。
「大丈夫ですよ、タルボ。あ、見てください、小舟ですよ。家の裏に小舟をとめてるなんて、不思議です」
「水路沿いに倉庫を建てて、船からそのまま積み込んでいるんですよ。倉庫の前には、たいてい店がありますよ」
「水路から盗みに入られたりしないんですか?」
「そういうことがあるので、たいていの店は用心棒を置いています。それでも水路から川につながる地点には衛兵がいますから、川まで逃げおおせるのは難しいですね」
ネルヴィスが説明すると、シオンが茶化して問う。
「川まで逃げた盗賊は、大砲でドカンですか?」
「嫌ですねえ、そんな前時代的な。使い捨ての魔導具でドカンですよ」
どちらにしろ、爆破するのか……。
僕とシオンの顔がけげんなものになったのは、しかたないと思う。
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