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第二話 余韻ある余生
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しおりを挟む気付けば憲一は、硝子張りの白い店舗の中にいて、契約書が綴られたファイルを手にしていた。
かくりよにて貸し出されたテナントでは、どんな店でも開ける。一生に一度の願いを叶えるために、借主を手助けしてくれる不思議な力が働き、それが店の売りとなる。
契約期間は、一生のお願いを叶えるまで。もしその間に憲一に何かあって、寿命が尽きるようなことがあっても、契約は終了だ。
借主の都合で途中破棄することもできるが、一度支払った代価── 一生のお願いの払い戻しはきかない。
一生のお願い、は神への最大の我儘だ。我儘を通した人間に、神は二度と振り向いてはくれない。
蝶と契約したが最後──。借主は神の加護の一切を手放すのだ。
「はは……ははは」
契約書を手に、憲一は呆れて笑いが止まらなくなった。
なんて馬鹿げた契約か。
さすがの江美子も怒るんじゃないか。いや──、江美子なら腹を抱えて笑ってくれるような予感がした。
なぜだか、すべてがうまくいく気がして、早く江美子に話したくてたまらない。憲一は帰路を急いだ。
◆ ◇ ◆
憲一の去った部屋で、猫が口を開いた。
「あーあ、蝶ってば意地が悪いよね。どうして教えてやらないのさ。一生のお願いで、奥さんの病気を治せばいいじゃないかって」
にゃん、と可愛い声はしない。きかなそうな少年の声で、猫は人語を介す。
悠然と脚を組み、蝶は薄く嗤った。
「願いの価値は人それぞれ異なるもの。憲一さんにとって、最も情念が働いた願いがこれだったというだけのこと。わたしが口を挟むのは簡単ですが、儲けが減って困るのは貴方ではないのですか。クロさん」
憲一の願いを小箱に収め、「長」の机に置いた。クロは背もたれから机に飛び移って、ぺろりと舌舐めずりひとつ──。
「今月も極上の情念が集まったねぇ」
◆ ◇ ◆
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