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騎士と派閥と学園生活と

第150話-向かい風の中での希望-

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「先輩が以前私達に言いがかりをつけて来て、先輩の背後には総長様がいる様に言ったことですよ」

 その場をそのまま立ち去るつもりだったのに、私は口を出していた。
 相手の出方に余裕があって、それを私は不気味に感じたからだ。

「あれは総長の勘違いだったって貴方が言ったのよ」
「それは先輩をためです。あのままだと怒りの矛先はそちらに向いていましたよ」
「どうかしらね。でも貴方は間違いって自分で言ったのよ。それを後から訂正するなんて自分が馬鹿だって言ってる様なものよ」
「そんなのは時と場合によります。正直言って私は先輩達に恩を売って終わらせたつもりでした」
「言ってくれるわね。でも、貴方の言葉通りなら恩着せがましいだけね」
「だからそれを訂正して報告するんですよ」

 今度はあっちが溜息をついた。深い深い溜息を見せつける様に。

「領主の娘フランソワさんは思い通りに行かなくなったら嘘の告げ口を偉い人にするのね。見損なったわね。誇りが無いのかしら」

 散々な言われようだ。そこまで言うか。ただ、ここで私は思った。価値観が違いすぎると。
 多分先輩連中は本当に訂正する事を恥だと思ってる。その感情がひしひしと伝わってくる。そうでなければ、向こうに都合が悪いのだからもっと焦るはずだ。
 この人だけなのかどうかは分からない。もし、総長もその考え方なら私の方が悪者になる。恩を売った判断が間違いだった。
 私だけの評価が下がるならいい。でも、そうじゃない。これはフランソワ自身の評判が落ちる。それは借り物の私がしてはいけない事だ。

「何も言い返せないのかしら? だったら私達と仲良くしましょう。ほら、優しく指導してあげるわよ。早速だけど、ちゃんと謝らないとね。『無礼な事を言ってすいませんでした』って」

 謝罪の言葉を言うのは簡単だ。だけど、それは解決策じゃない。むしろ、こっちの首根っこを掴まれる事に値する。
 ここで私が逆ギレして立ち去って総長に報告してらこの人達の問題は解決しても、フランソワ自身に近衛騎士になってくれた皆、友達にも迷惑をかける事になりかねない。
 この学院が……いや、この世界での誇りの価値を改めて実感した。だから皆は地位にこだわって、振る舞いを大事にする。ある意味目の前にいる先輩の様に面の皮厚く生きて他人の上に立つ方が望まれるのかも知れない。
 人としてはあっちが間違っているとは思う。だけど、この場の生き方としては向こうの方が正しいのかもしれない。

「ほら、早く。私と仲良くすれば私の派閥に入れてあげるわよ。そしたら私が守ってあげるから」

 都合の良い事を言う。マッチポンプも良いところだ。
 どこかその一言がどこか気にかかる。なぜ、そんな事を言ったのか。
 多分先輩は私の上に立ちたいんだ。優越感に浸るためか、それとも狙いの近衛騎士を取られたからか。明確な理由が分からない。
 だけど、相手の真意は最後の一言にある。それは私がこの場を乗り切るための希望に見えた。
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