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30話

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 神様って本当にいるんだなぁ。
 そんなことを、ブレアゾン王国首都にある大聖堂で思っていた。

 大森林前でのあの一件から十日後。
 植物の蔦で簀巻きにされた王女を連れれ、にこにこ顔のエルフ長老が国王に謁見した。
 国王は驚いたのと同時に顔面真っ青に。

「謁見の間でお漏らしをしていた坊主が、こんなに大きくなるとは。人間の生とは、本当に短いものだと実感しますね」
「オ、オレアシス殿。そんな昔の話は、止めに致しましょう。して、い、いったいこれはどういう?」

 そこで長老が大森林での話をし、しかも精霊の力で当時の会話を再生。
 人間と大森林との間で不可侵条約っていうのが結ばれていたらしく、王女は未遂とはいえ、それを犯していた。
 もっともあの祭壇だけは暗黙の了解という形で見逃して貰えていたらしいが。

「王女は認めようとなさいませので、ここは神に審議していただくとしましょう」

 そう言って一同が大聖堂へ移動。
 で、長老が神に語り掛けると、あっさり降臨した。

『王女が大森林を焼き払う命令を出したのは本当ですわ。まったく嘆かわしい。
 自分こそが世界の中心とでも思ったのでしょうか?
 ブレアゾン国王。あなたの育てたに問題があったのではありませんか?
 人の上に立つ者として、しっかり教育をなさい──と言っても、この年齢ではもう手遅れでsぃようか?』

 降臨したのは女神様で、なかなかに辛辣な人だ。
 まぁそれだけのことはやっちゃったんだし、仕方ないんだろうけど。

『しかし、責任は王女だけではありません。勇者召喚術を残した、わたくしたち神にも責任がございます』

 だから今後、勇者召喚用の魔法陣が使えないようにする──そう女神は言った。

「あのっ。だったら俺たちを元の世界に──」

 戻してくれ。そうお願いをしようとしたが、今さら戻ってどうするのか。
 日本じゃ俺たち、どういう扱いになっているんだろう?

 神隠し?
 それともよくある、転移時に俺たちを知る人たちからの記憶の抹消?
 
 戻った先に、居場所はあるのか。
 そしてこの世界に、俺の居場所はもうできている。

 そして女神の返事は──

『申し訳ありません……招いた方を再び元の世界に戻すことは、世界の断りを二度も改変することとなり、危険が伴います』

 それはこちらと、そして地球が存在する世界両方に影響すると。

 それでも戻りたいのならば、時間をかけ、危険を最小限に留める準備を整えてから逆召喚魔法をやるという。
 十五人で話し合った結果、戻りたいという声が女子からあったものの、いろいろな影響を考えて諦めることにした。
 代りにこの世界で、自由気ままに暮らせるようお願いする。

 ある子はパティシエになりたかったからと、今持っている戦闘スキルを料理スキルと交換して貰ったのもいる。
 全員が些細な願いを叶えて貰った中、俺はと言うと──





「カケル。そろそろ葡萄の収穫が出来そうよ」
「梨もです」
「リンゴ、もう少しなの」

 エルフの里は、実りの秋を迎えていた。
 里の周辺は様変わりしている。

 もともと里は、大森林の開けた所にあったが、今はその開けた場所が拡大されている。
 森を伐採したんじゃない。
 
 森を動かして貰ったのだ。

 俺が女神にお願いしたのは、農業をしたすい森にして欲しいということ。
 木を伐採することに躊躇うエルフもいたので、だったらそっくりそのまま木を移植して貰おうと考えたんだ。

 結果、森はブレアゾン王国側に大きく膨らんだが、あの件もあって国王は文句を言えず。
 王女はお城に監禁の身となった。

 しかもこれだけでは終わらない。
 戦争を引き起こそうとしたのは本当で、国王の知らぬ間に隣国へ宣戦布告の手紙も出していたらしく。
 ブレアゾン王国はこの先数十年は、国としての立場は悪くなるだろう。

 ま、俺たちには関係ないか。

 クラスメイトは冒険者になったり、別の国で職に着いたりしている。
 俺はこの里でエルフと一緒に、これからもずっと暮らして行く。
 たまに冒険の旅に出て、クラスメイトらと再会も約束した。
 異世界で同窓会っていうのもいいな。

 そうそう。俺の無スキルは、この世界を削ってしまうだけで危険だからって──

「"再生"──うぅん、なかなかうまく削れないなぁ」
「今度は何を作っているの?」
「んー。収穫した葡萄を運ぶための物を作ろうと思って。車輪を付けてさ、押しながら収穫できるようなのを」

 その車輪を作ろうとして、石を削っているんだが……綺麗な丸を作れないんだよなぁ。
 
『無』で削ったものを、元通りに出来る『再生』。
 このスキルを女神から渡された。
 そっくりそのまま再生するが、過去に削ったものは戻せない。
 丸一日過ぎたらダメなんだってさ。
 
『地図職人が困りますから』

 と、スキルを与えられたとき、女神にそう言われた。
 それはうん、申し訳ないなって思う。

「あぁーダメだ! スキルがあっても俺のセンスがないから作れやしない!」
「諦めて篭に入れなさいよ」
「その方がきっと早いです」

 ネフィとルナに言われ、諦めて普通に収穫を開始。
 後ろでスーモがなにかごそごそしている。

「スーモ、何やってんだ?」
「ん……スーモ作ったの」
「作ったって何を……おおぉ!?」

 スーモが作っていた。
 それはまるで作業用一輪車のよう荷車だ。
 だけど車輪は二つで、荷台部分も平らな箱型になっていてバランスも良さそうだ。
 タイヤは木製だが……

「おぉ、スムーズに動く」
「こ、これでいいの?」
「いい、いいっ。ありがとうなスーモ」

 スーモを撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

 俺にセンスがなくても、誰かがカバーしてくれる。
 ひとりでやらなくてもいいんだ。
 そうだよな。

「さ、収穫しようぜ。みんなが梨食いたいって、手紙きてたんだよ」

 これからも、無からいろいろ作っていくぜ!

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