異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

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5:砂漠で人助け

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「孵化したばかり──というより、まさに殻をやぶった瞬間に、我は襲われたのだ」
「待ち構えてたってこと?」
「うむ。あ奴は以前から、我を喰おうと躍起になっていた。もしかすると我を殺し、数少ない古竜種の頂点に立とうとしているのやもしれぬ」

 卵の中で数十年眠っていたこいつを、ずっと狙っていたのか。
 うへー、執念深ぇー。

「睡眠中は体力と魔力が著しく低下する。故に孵化後の体力魔力を補うために、殻を喰うのだよ」
「え、卵の殻を?」

 いや、卵の殻って栄養があるとか聞いたことはあるな。

「元々、卵は我自身の魔力を練り込んだ物質だからな。貯えていた魔力を喰うだけのこと」
「あー、もしかしてその殻を食べられなかった?」
「多少は喰えた。だが大部分は奴がけし炭にしてしまったのだ」
「あー……」
「故に力が完全に戻るまで、数カ月はかかろう」

 もしかして……

「それまでドラゴンの牙すら通さない俺に、保護されたいってことか?」
「その通り。まぁ他にもなぁ」

 ドラゴンがちらりと見たのはカートの方。

「キャンプ飯か」
「おぉ、さっきのはきゃんぷめしというのか!」
「いや、さっきのっていうか……キャンプんときに作って食べる料理全般を、そう呼ぶんだ」
「きゃんぷ……おぉ、野宿のことか。人間は何故同じ意味の言葉を、二つも造るのか」

 体力と魔力が戻るまで、か。

「代わりと言ってはなんだが、我が迷い人である主にいろいろと教えてやろう。主、この世界のことを知らぬであろう?」
「お、おぉ。まぁ」
「例えばだ。あれは太陽という」

 それは知ってる。

「太陽は北から昇って、南沈むのだぞ」
「え……北から昇って、南に?」
「ふははははははっ。知らなかったようだなぁ」

 え、北から?
 じゃあ俺が北だと思って歩いていた方角って……東!?





「なんだ、主の世界では東から太陽が昇る? ほぉ、世界が違えば、そういった常識も違うのか」
「うわぁぁ、何日これでロスしたんだよぉ」

 ドラゴンに北の方角を改めて教えて貰って歩き出した。
 夜は砂漠でキャンプ。
 砂漠って日中はめちゃくちゃ暑いのに、夜は寒い。
 だけどテントの中は不思議と快適だった。
 ドラゴン曰く──

「内部温度が一定に保たれているようだな。これも加護であろう」

 とのこと。
 更にドラゴンのアドバイスで、早朝から太陽が昇ってしばらくの間、それから日が沈んで暫くの間だけ移動することに。
 
 砂漠ではいろんなモンスターに噛みつかれたっけ。
 サンドフィッシュはいい。
 一番ヤバいのはサンドワームだ。唾液ねちょねちょで、もう最悪。
 携帯用風呂なんてないから、タオルを沸かしたお湯に舌して拭くしかない。
 ほんと、あいつだけは最悪だ。

 そんな砂漠での移動を続けること八日目。

「きゃあぁぁぁっ」

 どこからか、女の人の悲鳴が聞こえた。

「どこだ!?」

 頭の上に乗ったドラゴンがパタパタと上空へ飛ぶ。
 それから「こっちだ」と、左手の砂丘の方へと向かった。
 砂丘を上ると女性がひとり、めちゃデカいサソリに襲われていた。
 襲われて……

「うわあぁぁぁぁーっ!」

 無敵テント掲げて走り出す。
 この世界に迷い込んで十日以上経つけど、なんかもう慣れて来た。
 俺は無敵。ドラゴンの牙も爪も皮膚を通さない。
 だからモンスターを怖い、とは思わなくなった。
 ただ気持ち悪いって感情はあるんだけどな。

「おい主よ。尾の先には麻痺性の毒があるからな」
「毒うぅぅー!?」

 え、毒はどうだろう?
 毒も無効に出来ますかね、神様。

 とにかくブスっとされる前にテントでぶん殴ろう。

「とあぁっ! ほっ、どっせい!!」

 バンッ、ボコッ、スパーンっとサソリをふっ飛ばす。

「大丈夫?」

 倒れている女性に声を掛けた。

「は、はい。助けてくださり、ありがとうござ──きゃああぁぁっ、うし、後ろ!」
「え、うし──」

 ろ? と言い終える前に、俺の頭頂部に何かがこつんと当たった。
 振り返ると黒光りするサソリの尻尾があって、それが頭頂部に向かって伸びている。

 ──尾の先には麻痺性の毒があるからな。

「なぁドラゴン。刺さってる?」
「いや、刺さっておらん」
「ほっ。よかった──チェストォーッ!」
「ギピィーッ」

 サソリが吹っ飛び、今度こそ彼女に手を差しだ──
 ヒュンっと音がして、足元の砂に矢が突き刺さる。

「そこまでよ! レイラ姉さんから離れなさい!!」
「え、あ、えぇ?」

 矢を放ったのは女の子。目の前の子にどことなく似ている。
 ただ弓を構えている子は、随分と鋭い目をしているな。

 二人とも金髪に緑眼。かなりの美少女だ。

「ま、待ってアイラ。この方は私を助けてくださったの」
「ね、姉さんを助け──姉さん逃げてっ!!」
「え、きゃあぁーっ」

 悲鳴が上がった。
 そして俺の頭頂部に何かが当たった。

「刺さって、る?」
「いやぁ、刺さっておらんなぁ」
「ほっ、よかった。うらあぁーっ!!」
「ギピィーッ」
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