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第24話:運命の星、掴む者
#12
しおりを挟む被弾の衝撃が『サモンジSV』のコクピットを激しく揺らし、ギィゲルトは「うむぅ…」と呻き声を漏らした。機体正面を『センクウNX』に向けたまま、ライフルを撃ちながら、『サモンジSV』は出せるだけの速度で後退し続ける。
激突を繰り返した岩塊が上下左右から飛来する間を複雑な機動ですり抜け、斬撃の届く距離まで、さらに間合いを詰めようとするノヴァルナの『センクウNX』。
だがそこへ身を挺して主君ギィゲルトを救援するため、複数の親衛隊仕様機『トリュウCB』がノヴァルナの前へ殺到して来た。不規則軌道を取る大量の岩塊の間を高速で抜けて来るのであるから、かなりの技量を有するパイロット達である事は間違いない。手ごわい敵だ。
「ギィゲルト様。お退き下さい。この先に戦艦を待機させております」
親衛隊のパイロットが『サモンジSV』に通信を入れる。それと同時に『サモンジSV』の戦術状況ホログラムにデータが転送され、パイロットが告げた戦艦の位置表示が追加された。戦艦『ヴェモールド』…通常の艦隊型戦艦だが、この混戦の中でもほとんど損害を受けずにいる。しかも周囲には戦艦四隻に加え、重巡戦隊と二個宙雷戦隊が護衛として付いていた。
これはイマーガラ軍第5艦隊司令の、モルトス=オガヴェイが機転を利かせて、指揮能力を失った主君と総旗艦に代わり、手配を命じたものだった。ちなみに総旗艦『ヒテン』は、ノヴァルナ達の奇襲攻撃で機能不全を起こしたまま、小惑星デーン・ガークの部分崩壊に巻き込まれ、航行不能状態で漂流している。
「よしなに頼む!」
親衛隊パイロットに応じたギィゲルトは、『サモンジSV』に「撤退急げ!」と命じた。自分が為すべき事はノヴァルナを一騎打ちで倒す事ではなく、この戦いに最終的に勝利する事だと心得ているからだ。親衛隊の機数からして“トランサー”を発動したノヴァルナを相手に、全滅させられる可能性も高いが、それが彼等の役目だと割り切るのも、太守として必要な素養である。
超電磁ライフルを放ちながら、取り囲むように『センクウNX』へ迫る親衛隊の『トリュウCB』。“トランサー”を発動しているノヴァルナは、警戒センサーの反応を視覚で見なくとも、いわゆる“心眼”で敵の位置と動きを、捕捉できるようになっている。衝突コースに入って来る岩塊を間一髪で躱し、命中の心配はない敵弾は放置。前進速度を落とさぬようにし、機体をスクロールさせながらノールックでライフルを放つと、『トリュウCB』が二機、三機と爆散する。
だがイマーガラ軍親衛隊も、主君を守るため必死である。さらに二機が銃撃に撃破されても、強引に『センクウNX』へ間合いを詰めて来た。素早くQブレードをポジトロンパイクに変えて、ノヴァルナは敵機と得物を打ち合う。超高速で飛びながら、陽電子の力場を帯びた刃を二合、三合…切り結ぶ度に紫電の火花が散る。
「めんどくせぇ!!」
機体出力の差で敵機を突き飛ばした次の瞬間、『センクウNX』はさらに敵機の胸板を蹴りつけた。ポジトロンパイクを構え直そうとしたその敵機は、飛来した岩塊に激突して火だるまとなる。
ただこの時にはもう『センクウNX』は、次の敵機と刃を交えていた。次の敵機はQブレードを二刀流に持つ強敵である。対するノヴァルナは“トランサー”状態ではあるものの、ギィゲルトを逃がすまいという焦りが、集中力をいつもより妨げていた。ポジトロンパイクより内側の間合いまで飛び込んで来た敵機のブレードが、『センクウNX』の胸板を斜め十字に切り裂いて来る。
“トランサー”発動のパイロットには、精神集中により機体を包む重力子フィールド出力を偏向させ、一種の物理防御バリアを張る能力が付加される。これを破るにはかなり強力な斬撃…つまり一撃必殺となるような物理攻撃が必要だった。しかし集中力が足りない今のノヴァルナの『センクウNX』は、胸部に損害を受ける。装甲板とその下の外殻フレーム、さらにその下の陽電子整流機の一部が切り裂かれ、赤いプラズマが噴き出した。
だが深手ではない。陽電子整流機は破損個所のみが、自動的に回路を閉塞され、噴き出していた赤いプラズマも停止した。そして斬りかかって来た敵機は、第二撃を放とうとしたところを、『センクウNX』がポジトロンパイクによって、斬り捨てる。
それでもまだ敵の親衛隊機は、十機以上が接近していた。それに今の戦闘で『サモンジSV』との距離が、少し開いてしまっている。ギィゲルトを待つ戦艦との距離を考えると、もはや残りの敵機を相手にしている時間はない。
“クソッ! こうなりゃ危険だが、追撃に専念するしか!”
するとその直後、ノヴァルナから一時退避を命じられていた、『ホロウシュ』が次々と急行して来た。真っ先に敵機に仕掛けるのは無論、ラン・マリュウ=フォレスタの機体。それに続き、ナルマルザ=ササーラとヨヴェ=カージェス。さらにナガート=ヤーグマーとガラク=モッカに、キスティス=ハーシェルだ。その他の機体も必死にノヴァルナに追いつこうとしている。
「ノヴァルナ様。ここは我等が!」とラン。
「殿はギィゲルトを!」とカージェス。
ノヴァルナは「おう。済まねぇ!!」と告げて、スロットルを全開にした。
▶#13につづく
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