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第24話:運命の星、掴む者
#11
しおりを挟む「ぬっ!…ぬおおおおおおっ!!!!」
驚愕の叫び声を上げるギィゲルト。主砲ビームの着弾が小惑星デーン・ガークの地表を抉り、超高層ビル街のように、岩と土砂の柱を大量に林立させる。
低重力の小惑星であるから、砕けた岩石は宙に舞ったままとなって、落ちては来ない。こうなっては、高い機動性を誇るギィゲルトの『サモンジSV』も、回避行動はままならなくなる。戦艦の主砲射撃をまともに喰らえば、ひとたまりも無いのは当然だが、至近弾で吹き上がる砕けた岩盤ですら、激突すれば危険極まりない。
そんな中で『サモンジSV』のコクピットに、ロックオン警報が鳴る。操縦士が咄嗟に操縦桿を引いて機体を後退させると、超電磁ライフルの弾丸が、ギィゲルトの眼前を覆う、灰白色をした砂塵のカーテンを貫いて飛来した。操縦士の研ぎ澄まされた反射神経のおかげで、その銃弾は『サモンジSV』の、右のショルダーアーマーの一部を削り取っただけで済む。
だがその直後、砂塵のカーテンが収まらないうちに、ライフルを撃った『センクウNX』そのものが飛び出して来た。右手には超電磁ライフル、左手には起動させたクァンタムブレードを握っている。
「アッハハハハハ!!」
艦砲射撃への回避で動きの鈍った『サモンジSV』に、ノヴァルナは高笑いを発しながら間合いを詰め、斬りかかっていった。
「く、気でも触れたか。ノヴァルナめ!!」
瞬時に引き抜いた『サモンジSV』のクァンタムブレードで、ノヴァルナの斬撃を防いだギィゲルトは、戸惑い気味に言う。バチバチバチ!…と、真空の宇宙空間であっても、音が聞こえそうなほど切り結んだ双方の刃から、青白い火花が飛び散る。そんな二機の機体を、真横に着弾した『ヒテン』の主砲弾の爆炎が包み込む。
「“死のうは一定”!…コイツが俺の真骨頂さ!!」
舞い上げられる大量の岩と礫に巻き込まれながら、ノヴァルナはクァンタムブレードによる第二の斬撃を放った。その切っ先は、あれだけ素早い機動で攻撃を躱していた『サモンジSV』の、左肩口を切り裂いた。
この戦いにおけるノヴァルナの欠点。それはここまでのギィゲルトへの奇襲が全て、勝利のために計算された計画に沿ったものでしか無かった事である。
セルシュがいた場合、計画通りに進んだ作戦であるなら、どのような奇策でもセルシュは、怒り出したりはしないだろう。
ところがノヴァルナが最終的勝利を求めて、計画にない無茶―――自分の命と引き換えに…いや自分の命を投げ出すような無茶な手段に出た場合、何よりもノヴァルナの身を案じてセルシュは激怒したに違いないのだ。
しかし、今のノヴァルナが懸けるのは、その天衣無縫…セルシュが怒りだすような、命知らずの戦法だった。
味方戦艦の艦砲射撃に巻き込まれる恐れもある中、それまで踏み込めなかった間合いに踏み込み、被弾上等で『サモンジSV』へ突っ込んでいく。突き上がる土砂の間で、左手に握るクァンタムブレードを薙ぎ払う『センクウNX』。土砂の柱を切り裂いた斬撃はその勢いのまま、『サモンジSV』を袈裟掛けしようとする。
だが『サモンジSV』も反応自体は素晴らしい。操縦士が機体機動を、機関士が艦砲射撃への警戒を、そしてギィゲルトがQブレードを操作し、艦砲射撃の着弾に巻き込まれる事なく、ノヴァルナの斬撃を着実に打ち払った。そこから素早く反撃に移ろうとする『サモンジSV』。しかしその時にはすでに『センクウNX』が、もう一方の右手に握る超電磁ライフルの銃口を、ゼロ距離射撃で『サモンジSV』の胸板に向けている。
“もらったぜ!”
絶好の機会に眼を輝かせるノヴァルナ。ところが次の瞬間、ヘルメット内に被弾予測警報が、普段よりひときわけたたましく鳴り響いた。直撃を含んだ、危険度がかなり高い警報を示している。そして警報音の種類は“同士討ち”…味方戦艦の艦砲射撃を示している。
「んな、くそぉッ!!」
一瞬の躊躇いの後、ノヴァルナはライフルのトリガーを引くと同時に、艦砲射撃に対する回避行動を取った。ただその一瞬の間を見逃す『サモンジSV』では無い。機体を素早く翻して銃弾を僅差で躱す。そこへ降り注ぐ艦砲射撃の無数のビーム。
小惑星全体を揺るがすほどの爆発が立て続けに起こって、ノヴァルナとギィゲルト双方のBSHOまで、低重力の地表から舞い上げられる。ところが事態はそれだけに留まらない。ほぼ一箇所に主砲の集中砲火を受けた結果、小惑星デーン・ガークの上半分が大きくひび割れ、崩壊を起こしたのである。巨大な岩盤に大小の岩塊。そして大量の砂塵が無重力の宇宙空間へ彷徨いだした。
「あぶねぇッ!!!!」
視界の眼前を猛然と通過し、あわや激突かと思えた大きな破片を、紙一重でやり過ごした『センクウNX』のコクピットでノヴァルナは叫ぶ。さらに右から左から超高速で飛んで来る岩塊。どれも『センクウNX』と激突すれば、ただでは済まない大きさだ。それを驚異的な反射神経で躱すノヴァルナ。そんな『センクウNX』の周りに襲い掛かる味方からの艦砲射撃は、激しさを増すばかり。
しかも総旗艦『ヒテン』からの主砲射撃は正確を極め、『センクウNX』と『サモンジSV』の間にあった、巨大な岩塊を爆破した。四散する大量の岩に巻き込まれるように、吹き飛ばされる二機のBSHO。
「ナルガの奴。無茶しやがってぇええ!!」
自分がそうするように命じたにも拘らず、ナルガヒルデの容赦ない砲撃に文句を言いながら、ノヴァルナは必死に機体の姿勢を制御する。
ここで利を得たのはギィゲルトの方だった。機体出力と三座式の操縦方式にものを言わせ、力づくで機体を安定させると、表面を包む重力子フィールドで砂塵や小石を弾くままに、距離が開いた『センクウNX』へ超電磁ライフルを一連射する。
「く!」
真横へ一直線に回避するノヴァルナ。だがその眼前で、『センクウNX』より大きな二つの岩塊が激しく回転しながら激突した。砕け散った岩が『センクウNX』へ高速で向かって来る。咄嗟にそれをQブレードで両断するノヴァルナ。だがそこでヘルメット内に大きく鳴り響く、至近距離からのロックオン警報。死神の鎌が首筋に迫る感覚。
そしてこの感覚を打ち消すものこそが、“トランサー”の発動だ―――
期せずして窮地に陥ったノヴァルナ。その精神が一瞬に満たない時間で、『センクウNX』と一つになる。まるで瞬間移動のような瞬発力を見せて、ギィゲルトの銃撃を躱した。限界まで研ぎ澄まされた精神が、『センクウNX』を操縦者たるノヴァルナの肉体そのものに化す。モニターやホログラム画面を見ずとも、『センクウNX』の各種センサーが捉えた情報は直接、脳へ流れ込んで来る。
“来たぜ、この力!!”
それまで見えなかったすべての岩塊の動きと、間もなく降り注ぐであろう味方戦艦の砲撃位置を感じ取り、その間を縫って『センクウNX』が間合いを詰める。
「むぅ、たわけめ。しまった!!」
ギィゲルトはノヴァルナの“トランサー”を発動させてしまった自分へ、呪詛の言葉を吐いた。超電磁ライフルを放ちながら、出せ得るだけの速度で後退する。だが岩塊の海が、ギィゲルトの後退速度を鈍らせていた。
『サモンジSV』の銃撃の弾道を見切ったノヴァルナは、そのすべてを紙一重で掠めさせて、自らのライフルで反撃を行う。単発モードで一発、二発、三発とトリガーを引くと、銃口を飛び出した銃弾は二発目、三発目が『サモンジSV』の右腕の付け根と、左大腿部を貫通した。
▶#12につづく
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