銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第23話:フォルクェ=ザマの戦い 後編

#13

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 前衛を務める各艦から、悲鳴のような損害報告がもたらされる総旗艦『ヒテン』の艦橋では、総司令官代理の大役を仰せつかったナルガヒルデが、累積していく味方艦隊の損耗数を、無感情な眼で見据えていた。
 戦闘開始以来約一時間…完全破壊された味方艦は戦艦15・重巡8・軽巡16・駆逐艦18・正規空母4・軽空母2・BSI等58。ほぼ基幹艦隊一個分だ。無論これは“完全破壊”された数であって、その数倍の艦が相応の損害を受けている。

 だがナルガヒルデの第1艦隊、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第2艦隊、そしてカーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊は、まだ一隻の脱落艦も出してはいない。半球陣の中央やや後方で密集し、戦闘に参加していないからだ。

 自らは動かず、周囲の味方が次々と倒されていく…キリキリと胃が痛みそうなこの状況でも、『ヒテン』の司令官席に座るナルガヒルデの表情に変化はない。そうでなければまだ二十代後半のナルガヒルデが、ウォーダ家の存亡をかけたこの戦いで、ノヴァルナから司令官席に代理として座るよう命じられるはずもない。

「味方がやられてる状況で、いつまでもこうしてはおれん。俺は出るぞ!」

 そう連絡を入れて来たのは、第6艦隊司令でBSI総監のカーナル・サンザー=フォレスタであった。『ホロウシュ』のランの父親のフォクシア星人は、“鬼のサンザー”とも呼ばれる猛将で、居ても立っても居られないらしい。

「出られて…どうされるのです?」

 落ち着いた口調で問うナルガヒルデ。

「決まってる。俺のBSI部隊で敵の包囲を突破し、ギィゲルト殿の本陣を突く」

「本陣の位置は分かっていても、総旗艦『ギョウビャク』の位置は特定できていません。むやみに突撃して、敵本陣に達する事に成功したとして、『ギョウビャク』に逃げられたのでは本末転倒です」

「逃がしはせん!」

 気持ちに任せて言い放つサンザー。するとナルガヒルデは“鉄の女”の本領を発揮して、この狼のような猛将にぴしゃりと告げた。

「感情論で押し切っていい話ではありません。安易な抜け駆けでギィゲルト殿を逃がした場合、ノヴァルナ様への不忠の極みとなる事への覚悟はお有りなのですか、フォレスタ様」
 
「むぬ! 不忠だと!?」

 娘のランもそうだが、サンザーも“不忠”という言葉には、敏感な男だった。彼等の種族フォクシア星人は、約三百年前の銀河皇国とモルンゴール恒星間帝国の戦争の際、重大な局面で双方へ寝返りを繰り返した事で、種族全体が不忠者の日和見主義者だというイメージを持たれており、サンザーのフォレスタ家はその払拭を、生涯の目的として来た。そのため“不忠”や“日和る”といった批判には、我慢ならないものがあるのだ。

「ニーワス、おまえは―――」

 生意気な小娘が!…と言いたげな眼で怒声を発しようとするサンザー。しかしこの辺りの手綱捌きもまた、ノヴァルナから信頼を得ている所以だった。

「そのような事がお分かりにならない、フォレスタ様ではないと知った上で、あえて失言させて頂きました。それについてはお詫び致します」

「む…」

 女性教師然とした態度で、そのように落ち着いて言われると、途端にサンザーはバツが悪くなる。

「我等がいまだ戦闘に参加せずにいるのは、今はノヴァルナ様からの突撃命令を待つ事が、我等の為すべき事の全てだからです。その時は必ず来ると信じて、どうかお待ちください」

 さらに言葉を続けるナルガヒルデ。するとサンザーは、通信ホログラムスクリーンの中のナルガヒルデが、司令官席の肘掛けに置いた右手を、固く握りしめているのに目を留めた。
 常に冷静沈着に見えるナルガヒルデとて、武の道を選んだ者である。味方の艦が次々と撃破されていく状況で、何もしない…いや、何もできない今に、忸怩たるものを感じているのは、自分と同じに違いない。そう理解したサンザーは、大きく息を吐いて「わかった。騒がせて済まなかった」と詫びを入れる。

「だがノヴァルナ様からの突撃命令が出た時は、俺の『レイメイ』が先陣を切らせてもらう。いいな?」

 ニタリ…と攻撃的な笑みを浮かべて告げるサンザーに、ナルガヒルデも僅かながら口角を上げて応じた。

「その時は、ご存分に…」



 しかし事態は予断を許さない。第五惑星公転軌道付近の主戦場から離れた、小惑星帯フォルクェ=ザマに本陣を置いたイマーガラ軍総旗艦、『ギョウビャク』の艦底部の一部が開き、大型小惑星デーン・ガーク表面へ降り立つ、巨躯のBSHOの姿があった。ノヴァルナの『センクウNX』より二回り以上も巨大なその機体は、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラ専用機『サモンジSV』である。

 『サモンジSV』は、反重力ホバーで『ギョウビャク』の下から出ると、小惑星デーン・ガークの特徴である巨大クレーターの端へ移動。右肩に担いでいた長砲身の大型ランチャーを構えた。パイロットスーツ姿のギィゲルトが言う。

「これより超空間狙撃砲、『ディメンション・ストライカー』を使用する」





▶#14につづく
 
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