371 / 508
第18話:未来への帰還
#02
しおりを挟む「ぬぅおおおおおおおお!!!!」
獣ような咆哮を上げたササーラは、六人は腰掛けられるであろう、円形ソファーを両手で掴んで大きく振り回す。ササーラに掴み掛ろうとする、ナルナベラ星人の傭兵達が、悉く弾き飛ばされる。ガロム星人のササーラ同様、二メートルほどの巨躯で筋骨逞しいナルナベラ星人だが、地力はササーラの方が桁違いに強いようだ。
それで一方つい今しがたまで、ノアを散々いたぶり抜いていたビーダとラクシャスはと言うと、ノヴァルナの完璧なドロップキックを喰らったビーダは、ノックアウトされたまま床から起き上がられずにおり、ラクシャスは驚くべき素早さでキャビンを逃げ出している。
また『アクレイド傭兵団』のバードルドは、ランの背負い投げで脳天を壁に打ち据えられて、床の上で人事不省に陥っていた。
ただノヴァルナの目的は、あくまでもノアを自分の手に取り戻す事であり、ここで敵を一掃する事ではない。ましてや、これまでにない怯え方をしているノアを、一刻も早く連れ出すべきだと判断したノヴァルナは、強く命じた。
「ササーラ、ラン。こっからズラかるぞ!」
そしてノアに「ノア…歩けるか?」と優しく問い掛ける。無言で頷いて立ち上がるノアの向こうでは、ランがソニアを立ち上がらせ、さらに麻薬の“ボヌーク”を打たれて放心状態の続く、メイアを抱え起こそうとしていた。
「ササーラ、急げ!」
ササーラの大暴れでナルナベラ星人の傭兵で、立っていられたのはすでに五人。ササーラはその五人めがけてソファーを投げつけた。三人がそれに激突して転倒すると、残る二人に間合いを詰め、両腕から繰り出したラリアットでぶっ飛ばす。全員が立てない状態になったのを確かめたノヴァルナ達は、来た時と同じ素早さで、キャビンから姿を消した。
キャビンを脱出したノヴァルナ達は、アーザイル家の保安科員が確保している、『ラッグランド58』のエアロック室の一つへ飛び込んだ。『サレドーラ』に乗り移らせるノア達に、簡易宇宙服を着せるためだ。
通路に出て銃を構える保安科員達。ノアは宇宙での活動経験も多いため、手際良く簡易宇宙服を着込んだが、全くの素人のソニアと、麻薬の影響下にあるメイアはひどく手こずっていた。先に着終えたノアが、ソニアを手伝ってやる。ソニアは唇を震わせながら、ノアに謝罪しようとした。
「ノア…あたし…」
「話はあと…」
エアロック室の外では、追って来たナルナベラ星人の傭兵達と保安科員達が、銃撃戦を始めた。ノヴァルナとササーラが保安科員達に加わる。
「だけど…」
言葉を続けようとするソニア。ノアはそんな彼女に後ろを向かせ、背中の生命維持モジュールの動作確認を行いながら告げた。
「ソニアは何も悪くないよ…」
ここでソニアに謝罪されると、逆に自分が泣き崩れてしまうかもしれない…ノアはそんな気がしたのである。
だがそれ以上に問題なのがメイアだった。虚ろな眼をし、普段からは想像もつかないほどの、うっとりとした表情のまま息を荒げ、全身の力が抜けきった状態で、簡易宇宙服を着せようとするランに、全く協力しようとしない。
ソニアの宇宙服を着せ終えたノアが、ランを手伝い始め、ノヴァルナはアーザイル家の保安科員二人に指示し、ソニアを『サレドーラ』へ送り届けさせた。
するとその直後、周囲の緊張状態の中で、ちょっとしたハプニングが起こる。ノアとランの二人がかりで宇宙服を着せられていたメイアが、前から抱き起していたランの首に不意にしがみつき、唇を奪ったのである。麻薬の回った体をラクシャスにまさぐられ、性的興奮を高められていた結果だ。
ランは驚いてメイアを引き剥がす。ノアも目を丸くして一瞬、怯懦の気持ちを忘れていた。そしてランにとってさらに間が悪いのは、それをノヴァルナに見られてしまった事だ。
「なにやってんだ、ラン。今は、んな事してる場合じゃねーだろ!」
「わ、わ、私からしたんじゃ、ありません!」
ノヴァルナに叱りつけられて、動揺を隠せないラン。それをよそにノアはメイアの宇宙服を着せ終えて、ノヴァルナを振り返った。
「準備完了」
「よし。みんなメットを密封。外へ出ろ! 扉を爆破すっぞ!」
叫んだノヴァルナは、全員がエアロックから宇宙へ飛び出すのを見届けると、自分もヘルメットを気密状態にする。そして手榴弾を四つ取り出し、まとめて安全ピンを抜いて、エアロック室と通路を隔てる扉の前に転がした。
ノヴァルナが宇宙へ飛び出すと同時に起きる、手榴弾の爆発。エアロック室の通路側の扉が吹き飛び、船内の空気が急激に吸い出され始めると、ナルナベラ星人の傭兵達も安全域まで逃げ出すしかない。もはや到底ノヴァルナ達を追っている場合ではなくなった。
▶#03につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる