銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#04

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 敵の戦艦・重巡の主砲射撃が精度を欠く中、猛進する二段構えの宙雷艇部隊の、前列十隻が宇宙魚雷を各二本発射する。肉迫攻撃による宇宙魚雷は、撃つ方も撃たれる方も剣呑極まりない。

「敵宙雷艇、魚雷発射!」

「回避、迎撃、急げ!」

 『ヴァンドルデン・フォース』の軽巡と駆逐艦に、少なからず混乱が起きる。迎撃誘導弾が大量に発射され、宙雷艇を狙っていた主砲も、魚雷にの方へ照準を切り替えた。エネルギーシールド貫通機能と反陽子弾頭を持つ宇宙魚雷は、軽巡や駆逐艦には一本喰らっただけで命取りだからだ。

 一方の宙雷艇前列十隻は針路を離脱コースに取る。その中の一隻が駆逐艦の主砲に撃たれ、半壊しながらあらぬ方向へ飛んで行った。すると後列の十隻が、さらに加速をかけて突出。『ヴァンドルデン・フォース』の艦列をすり抜けて、戦艦と重巡航艦の中央部隊へ向かう。

「魚雷発射!」
「宙雷発射!」
「魚雷、撃てッ!」

 十隻の宙雷艇それぞれで声が上がり、大物喰いの必殺槍が二十本、本命を狙って一斉に放たれた。ノヴァルナの『クォルガルード』以下、軽巡群からの速射弾幕で射撃精度の低下している、『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦と重巡航艦へ殺到する。アクティブシールドを掻い潜り、欺瞞電波を発信し、獲物に狙いを定める宇宙魚雷。
 しかし戦艦と重巡航艦は防御も硬い。至近距離に迫った魚雷に対し、艦の弦側にズラリとCIWS(近接迎撃兵器システム)が起動。ブラストビームを雨あられと浴びせた。これを受けた宇宙魚雷は、目的を果たせず次々と爆発する。

 ただそれでも四本の魚雷が命中した。一本はラフ・ザスの『ゴルワン』に後続する戦艦に。そして重巡航艦の一隻に二本。もう一隻に一本である。戦艦は魚雷の一本程度なら耐えられるが、二本喰らった重巡は早くも戦列を脱落し始めた。また一本が命中した重巡も、速力が低下している。

 旗艦『ゴルワン』の艦橋では、この状況にベグン=ドフが怒声を上げた。

「前衛部隊は何をしているか!! 機先を制されおって!」

 先手を取られた形の『ヴァンドルデン・フォース』は、緒戦で早くも、戦艦1小破・重巡1中破・重巡1小破・駆逐艦2大破の損害を被っている。これはたぶん前線の士官や兵達が、戦闘開始直前になってから、相手がウォーダ家のノヴァルナ・ダン=ウォーダだと知らされ、少なからず動揺したのだ。

 この状況に首領のラフ・ザスはドフに対し、早くも出撃を命じる。

「ドフ。BSI部隊を率いて出ろ。戦場を立て直せ」

「おお。任せてくれ!!」

 専用BSHO『リュウガDC』の発進用意を命じ、喜び勇んで艦橋を出ていくドフに、ラフ・ザスは一瞥をくれた。立ち居振る舞いは凶暴だが、パイロットとしての腕はラフ・ザスも認めるところだ。

 ベグン=ドフがBSHO『リュウガDC』へ向かっていた時、ノヴァルナも同様に自分の『センクウNX』へ向かっていた。こちらは先手は取れたものの、総合的な戦力に不安があるからだ。本当なら艦隊戦の状況をもう少し見てから、戦場へ出たいところだが致し方ない。

「ラン、ササーラ。抜かるなよ」

 通路を速足で歩くノヴァルナに従うランとササーラが、声を揃えて「御意!」と応じる。二人の表情が普段より硬いのは、今回の闘いが苦戦になる事を覚悟しているためであった。というのも、この三人のBSIユニットで、『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦三隻を仕留めようというのである。

 そしてその目的達成のためノヴァルナが期待していたのは、ラフ・ザスがこちらの意図を読み違える事だった。そのための戦闘開始直前での急な名乗りと、緒戦からセオリーを無視した戦い方なのだ。

 BSI格納庫へ通じるエレベーターに三人が乗り込むと、ランがその事についてノヴァルナに問い掛けて来る。

「敵の司令官…上手く引っ掛かりますでしょうか?」

 それに対してノヴァルナは、不敵な笑みを浮かべて応じた。

「まぁ、イチかバチか…だが、ラフ・ザスが俺の見立て通り、用心深くて優秀な司令官だったら迷うはずさ。そのための布石も打ってある」



 果たしてノヴァルナの期待通り、旗艦『ゴルワン』のラフ・ザスは、現状の分析に迷いを生じさせていた。その原因はやはり、突如名乗りを上げたノヴァルナ・ダン=ウォーダの存在である。
 どうやら相手は間違いなくノヴァルナ本人で、『クーギス党』を支配下に置いているようだが、そうなるとノヴァルナ直轄のキオ・スー=ウォーダ家の艦隊が、別にいる可能性が生じて来る。というより、いないと考える方がおかしい。星大名家当主が自分の取り巻きだけを連れ、座乗艦のみで現れるはずがない。

 そしてその証拠となるのが、緒戦での『クーギス党』の宙雷戦隊による、各個突撃だ。あのような突撃戦法は会戦終盤に使用するもので、それを初手から使って来たのは、キオ・スー艦隊が本隊として控えているからではないのか?………

 考える眼でラフ・ザスは戦術状況ホログラムを見た。この戦場に一番近い惑星は第七惑星だ。距離にして約1億3千万キロ。光速の25パーセントの速度で約30分といったところであり、本隊を潜ませておくには好都合だ。

 哨戒駆逐艦を第七惑星方向へ向かわせるか…とも思ったラフ・ザスだったが、緒戦ですでに駆逐艦二隻を失っており、戦端が開かれた現在、そのような余裕は自分達にもない。

 表情にこそ出さないが戸惑うラフ・ザス。するとそこにベグン=ドフの『リュウガDC』の発進が報告され、ラフ・ザスは“これで打開できるはずだ”とばかりに僅かに愁眉を開いた。




▶#05につづく
 
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