281 / 508
第14話:死線を超える風雲児
#04
しおりを挟む敵の戦艦・重巡の主砲射撃が精度を欠く中、猛進する二段構えの宙雷艇部隊の、前列十隻が宇宙魚雷を各二本発射する。肉迫攻撃による宇宙魚雷は、撃つ方も撃たれる方も剣呑極まりない。
「敵宙雷艇、魚雷発射!」
「回避、迎撃、急げ!」
『ヴァンドルデン・フォース』の軽巡と駆逐艦に、少なからず混乱が起きる。迎撃誘導弾が大量に発射され、宙雷艇を狙っていた主砲も、魚雷にの方へ照準を切り替えた。エネルギーシールド貫通機能と反陽子弾頭を持つ宇宙魚雷は、軽巡や駆逐艦には一本喰らっただけで命取りだからだ。
一方の宙雷艇前列十隻は針路を離脱コースに取る。その中の一隻が駆逐艦の主砲に撃たれ、半壊しながらあらぬ方向へ飛んで行った。すると後列の十隻が、さらに加速をかけて突出。『ヴァンドルデン・フォース』の艦列をすり抜けて、戦艦と重巡航艦の中央部隊へ向かう。
「魚雷発射!」
「宙雷発射!」
「魚雷、撃てッ!」
十隻の宙雷艇それぞれで声が上がり、大物喰いの必殺槍が二十本、本命を狙って一斉に放たれた。ノヴァルナの『クォルガルード』以下、軽巡群からの速射弾幕で射撃精度の低下している、『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦と重巡航艦へ殺到する。アクティブシールドを掻い潜り、欺瞞電波を発信し、獲物に狙いを定める宇宙魚雷。
しかし戦艦と重巡航艦は防御も硬い。至近距離に迫った魚雷に対し、艦の弦側にズラリとCIWS(近接迎撃兵器システム)が起動。ブラストビームを雨あられと浴びせた。これを受けた宇宙魚雷は、目的を果たせず次々と爆発する。
ただそれでも四本の魚雷が命中した。一本はラフ・ザスの『ゴルワン』に後続する戦艦に。そして重巡航艦の一隻に二本。もう一隻に一本である。戦艦は魚雷の一本程度なら耐えられるが、二本喰らった重巡は早くも戦列を脱落し始めた。また一本が命中した重巡も、速力が低下している。
旗艦『ゴルワン』の艦橋では、この状況にベグン=ドフが怒声を上げた。
「前衛部隊は何をしているか!! 機先を制されおって!」
先手を取られた形の『ヴァンドルデン・フォース』は、緒戦で早くも、戦艦1小破・重巡1中破・重巡1小破・駆逐艦2大破の損害を被っている。これはたぶん前線の士官や兵達が、戦闘開始直前になってから、相手がウォーダ家のノヴァルナ・ダン=ウォーダだと知らされ、少なからず動揺したのだ。
この状況に首領のラフ・ザスはドフに対し、早くも出撃を命じる。
「ドフ。BSI部隊を率いて出ろ。戦場を立て直せ」
「おお。任せてくれ!!」
専用BSHO『リュウガDC』の発進用意を命じ、喜び勇んで艦橋を出ていくドフに、ラフ・ザスは一瞥をくれた。立ち居振る舞いは凶暴だが、パイロットとしての腕はラフ・ザスも認めるところだ。
ベグン=ドフがBSHO『リュウガDC』へ向かっていた時、ノヴァルナも同様に自分の『センクウNX』へ向かっていた。こちらは先手は取れたものの、総合的な戦力に不安があるからだ。本当なら艦隊戦の状況をもう少し見てから、戦場へ出たいところだが致し方ない。
「ラン、ササーラ。抜かるなよ」
通路を速足で歩くノヴァルナに従うランとササーラが、声を揃えて「御意!」と応じる。二人の表情が普段より硬いのは、今回の闘いが苦戦になる事を覚悟しているためであった。というのも、この三人のBSIユニットで、『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦三隻を仕留めようというのである。
そしてその目的達成のためノヴァルナが期待していたのは、ラフ・ザスがこちらの意図を読み違える事だった。そのための戦闘開始直前での急な名乗りと、緒戦からセオリーを無視した戦い方なのだ。
BSI格納庫へ通じるエレベーターに三人が乗り込むと、ランがその事についてノヴァルナに問い掛けて来る。
「敵の司令官…上手く引っ掛かりますでしょうか?」
それに対してノヴァルナは、不敵な笑みを浮かべて応じた。
「まぁ、イチかバチか…だが、ラフ・ザスが俺の見立て通り、用心深くて優秀な司令官だったら迷うはずさ。そのための布石も打ってある」
果たしてノヴァルナの期待通り、旗艦『ゴルワン』のラフ・ザスは、現状の分析に迷いを生じさせていた。その原因はやはり、突如名乗りを上げたノヴァルナ・ダン=ウォーダの存在である。
どうやら相手は間違いなくノヴァルナ本人で、『クーギス党』を支配下に置いているようだが、そうなるとノヴァルナ直轄のキオ・スー=ウォーダ家の艦隊が、別にいる可能性が生じて来る。というより、いないと考える方がおかしい。星大名家当主が自分の取り巻きだけを連れ、座乗艦のみで現れるはずがない。
そしてその証拠となるのが、緒戦での『クーギス党』の宙雷戦隊による、各個突撃だ。あのような突撃戦法は会戦終盤に使用するもので、それを初手から使って来たのは、キオ・スー艦隊が本隊として控えているからではないのか?………
考える眼でラフ・ザスは戦術状況ホログラムを見た。この戦場に一番近い惑星は第七惑星だ。距離にして約1億3千万キロ。光速の25パーセントの速度で約30分といったところであり、本隊を潜ませておくには好都合だ。
哨戒駆逐艦を第七惑星方向へ向かわせるか…とも思ったラフ・ザスだったが、緒戦ですでに駆逐艦二隻を失っており、戦端が開かれた現在、そのような余裕は自分達にもない。
表情にこそ出さないが戸惑うラフ・ザス。するとそこにベグン=ドフの『リュウガDC』の発進が報告され、ラフ・ザスは“これで打開できるはずだ”とばかりに僅かに愁眉を開いた。
▶#05につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる