上 下
280 / 508
第14話:死線を超える風雲児

#03

しおりを挟む
 
「なっ!…なんだこれは!?」

 感情を表に出す事の少ないラフ・ザスも、敵の家紋が一斉に、オ・ワーリ宙域星大名ウォーダ家を示す、『流星揚羽蝶』へ切り替わって行くのを目の当たりにし、動揺を隠せなかった。隣にいるベグン=ドフも呆気に取られている。

 そしてそれに続いて、通信参謀が頬を引き攣らせて駆け寄って来た。

「司令…いえ、首領。キ…キオ・スー=ウォーダ家の、ノヴァルナ殿下から通信が入っております!」

「ノヴァルナ殿だと?」

 幾分気持ちを落ち着かせた様子のラフ・ザスは、「繋げ」と命じる。それを受けて通信ホログラムスクリーンが展開されると、早速不敵な笑みのノヴァルナが姿を現す。それを見たラフ・ザスは腑に落ちたような眼をする。バグル=シルの交易ステーションのショーパブで、モルタナから“弟分”だと紹介された、眼光の鋭い若者だったからである。

「ラフ・ザス=ヴァンドルデン。俺はキオ・スー=ウォーダ家の当主、ノヴァルナだ。いつぞやは失礼したな」

「ノヴァルナ殿下」

 内心の困惑を隠し、ラフ・ザスは軽く頭を下げて敬意を払った。対するノヴァルナは小さく頷いて答礼すると、真剣な眼差しで告げる。

「悪いが、あんたらを潰させてもらう」

「解せませんな。この辺りは銀河皇国直轄の中立宙域。殿下のご料地ではないはずにて、我等と戦わねばならぬ理由は、無いと思うのですが?」

「あるさ」

「ほう…どのような?」

 ラフ・ザスの問いにノヴァルナは、厳粛さを感じさせる声で宣した。

「星大名…星を統べる者として、恐怖を統治の手段にするあんたを、野放しにしておくわけにはいかないんでな」

 それはこの戦いがノヴァルナにとって、もはや単に惑星ザーランダの臨時行政府からの、依頼ではなくなった事を示していた。そしてその言葉の意味は、ラフ・ザスも理解したようである。

「なるほど…それが理由ならば、我等も殿下を打倒せねばなりますまい」

 ラフ・ザスがそう答えると、ノヴァルナは通信ホログラムスクリーンの中で、不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「そういうこった。お互い、遠慮は無しにしようぜ。じゃあな!」

 そこで通信を一方的に切ったノヴァルナを、ラフ・ザスは噂通りの傍若無人な若者だと感じ取る。そこでここまで口をつぐんでいたドフが、「バッハハハ!」と大きな笑い声を上げた。そして拳を握り締め、ラフ・ザスに振り向く。

「これはチャンスですぞ、首領! ノヴァルナといえば、周囲を敵に囲まれた状況に陥っていると聞く。ヤツの首級を上げ、いずれかの星大名へ献上すれば、大きな報酬とよしみを得る事ができますぞ!」
 
 ノヴァルナがラフ・ザスと交信している間にも、両軍の距離はさらに詰まっていた。そして通信が終わると同時に、本格的に戦端が開かれる。

「『クーギス党』は全艦散開し、各個に敵を撃破!」

 ラフ・ザスとの通信回線を切るとすぐさま、ノヴァルナは全艦隊に下令した。ただ本格戦闘開始と同時に艦隊を解くのは、およそセオリーに反した命令である。しかしながら『クーギス党』は宇宙海賊であるため、各個単独での襲撃行動はお手のものだ。

「野郎ども、やっちまいな!」

 モルタナは自身が座乗する輸送艦『プリティ・ドーター』から、海賊船―――元は宇宙魚雷を搭載した宙雷艇を発進させながら命じる。そうしてさらに配下の軽巡二隻と駆逐艦六隻に発破をかけた。

「気ぃつけんのは、戦艦の主砲だけだ! ビビんじゃないよ!」

「合点でさ。お嬢!」

 モルタナの煽りに呼応して、『クーギス党』の配下が答える。散開した軽巡航艦や駆逐艦は、目まぐるしく針路を変更させながら、『ヴァンドルデン・フォース』の艦隊との距離を詰めて行った。敵戦艦の砲撃がエネルギーシールドを掠め、ふねを揺らしても、怯懦に囚われる者は一人もいない。

「魚雷装填!」

「装填完了!」

「照準よし!」

「よっしゃ、撃てぇッ!」

 敵艦隊に肉薄し、息を合わせて放った宇宙魚雷が、敵駆逐艦二隻のどてっ腹を食い破る。ただ『ヴァンドルデン・フォース』も、元は精強を誇った銀河皇国第24恒星間防衛艦隊である。統制の取れた三隻の戦艦による、主砲の一斉射撃で、それ以上『クーギス党』の宙雷戦隊を近寄らせない。一隻の軽巡と二隻の駆逐艦が、主砲弾を喰らい、破片を宇宙空間に撒き散らせて退避行動に移る。

「損害は!?」

 尋ねるモルタナに、オペレーターの男が応じた。

「大丈夫。どれもかすり傷でさ!」

「よし! 続いて行くよ!!」

 軽巡と駆逐艦の宙雷戦隊が退避すると、それと入れ替わって宙雷艇が二十隻、突撃を開始した。目標はこちらの軽巡と駆逐艦の第一波攻撃で迎撃のため前進した、敵宙雷戦隊である。二十隻の宙雷艇は十隻ずつが、二段構えの態勢で距離を詰めて行った。ここで脅威なのはやはり戦艦、そしてさらに二隻いる重巡航艦だ。これらの主砲射撃を喰らうと、エネルギーシールドごと宇宙の塵となってしまう。

 その『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦と二隻の重巡には、ノヴァルナの『クォルガルード』と、惑星ザーランダの兵が運用する三隻の軽巡航艦が単縦陣を組んで、遠距離砲戦による援護射撃を行った。威力は戦艦や重巡には及ばないものの、速射性能は上である。砲身も裂けよとばかりにつるべ撃ちを浴びせると、アクティブシールドがたちまちプラズマオーバフロー状態となり、逆に主砲射撃の際の照準センサーに障害を発生させた。



▶#04につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

フィーバーロボット大戦~アンタとはもう戦闘ってられんわ!~

阿弥陀乃トンマージ
SF
 時は21世紀末……地球圏は未曾有の危機に瀕していた。人類は官民を問わず、ロボットの開発・研究に勤しみ、なんとかこの窮地を脱しようとしていた。  そんな中、九州の中小企業である二辺工業の敷地内に謎の脱出ポッドが不時着した……。  爆笑必至の新感覚ロボットバトルアクション、ここに開戦!

おにぎり食堂『そよかぜ』

如月つばさ
ライト文芸
観光地からそれほど離れていない田舎。 山の麓のその村は、見渡す限り田んぼと畑ばかりの景色。 そんな中に、ひっそりと営業している食堂があります。 おにぎり食堂「そよかぜ」。 店主・桜井ハルと、看板犬ぽんすけ。そこへ辿り着いた人々との物語。

神水戦姫の妖精譚

小峰史乃
SF
 切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。  ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。  克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。  こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。

死滅(しめつ)した人類の皆(みな)さまへ

転生新語
SF
私は研究所(ラボ)に残されたロボット。どうやら人類は死滅したようです。私は話し相手のロボットを作りながら、山の上に発見した人家(じんか)へ行こうと思っていました…… カクヨムで先行して投稿しています→https://kakuyomu.jp/works/16817330667541464833 また小説家になろうでも投稿を開始しました→https://ncode.syosetu.com/n3023in/

鋼月の軌跡

チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル! 未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

処理中です...