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第13話:烈風、疾風、風雲児
#08
しおりを挟む二発、三発と続けて撃ちこんだ銃弾も、機動兵器のエネルギーシールドに弾かれたノヴァルナは、歯を食いしばった。すると機動兵器は返礼とばかりに、三本の腕―――ウェポンアームの中の一本から、またもや三十発の誘導弾を発射する。アームは二本が対艦用の主砲。一本が誘導弾を満載したBSI/小型艇用の、ウエポンラックになっているようだ。
「はぁ!? てめ、ふざけんな!!」
軽薄な口調に反し、迅速なフルスロットルと姿勢制御で、瞬時に緊急回避に入るノヴァルナ。その動きはまるで夏の川辺を飛ぶ、蜻蛉のようでもある。急加速で逃れた『センクウNX』がいた空間に、空振りの誘導弾が殺到し、四発が空中衝突を起こして炸裂した。
「ノヴァルナ様、ご無事ですか!?」
もう一機の機動兵器を相手にしているランが、通信を入れて来る。ノヴァルナは機体を振り向かせた姿勢でスクロールさせ、接近する誘導弾を超電磁ライフルで撃破しながら応答した。
「おう、ヒマはしてねぇ! そっちはどうだ? ラン」
「ササーラとの挟撃でどうにか…私が手をお貸ししましょうか?」
ランのそんな言葉に、謹厳実直なはずのササーラの、「ウソだろ!?」という声が聞こえて来る。つまり、ランより操縦技術が劣る事を自覚している自分一人では、この機動兵器は手に負えないという嘆きであった。
「俺の方は大丈夫だ、何とかする。そっちを二人でやれ。ともかくモルタナねーさんトコを、敵に攻撃させるんじゃねぇぞ!」
ノヴァルナが懸念しているのは、二機の機動兵器が、未使用艦を再起動中のモルタナ達に攻撃を加える事だった。機動兵器は自分達のBSIユニットを、最優先対処の危険な敵と今は判断しているが、余裕が出来てしまうと、モルタナ達の方にも火力を向ける可能性が高い。
“ともかくアレを引き付けて…いや、そうじゃねぇな―――”
破壊しなければ…とノヴァルナは思った。未使用艦が動き出せば、機動兵器は攻撃の優先順位をそちらに切り替えて、阻止行動に入る恐れがある。そうなったら艦を動かす最低限の人数しかいない未使用艦は、ひとたまりもないはずだ。その時、機動兵器がまたもや主砲を放つ。稲妻のような機動でかわしたノヴァルナだが、外れたビームが後方の砲艦を爆砕して、再び破片の雨が『センクウNX』の周囲に降り注いだ。
「クソッ! あんなもん直撃されたら即、蒸発だぜ!」
そう言いながらノヴァルナは、ライフルの弾種を通常弾から対艦徹甲弾へ切り替えた。相手はロボット兵器だが機体の大きさと、それを包む強力なエネルギーシールドから、武装を対艦攻撃仕様に変えるべきだと判断したのだ。
機動兵器の主砲を喰らった三隻の砲艦は、二隻が完全に爆砕され、大小の破片がさらに周囲の砲艦と激突。コースがバラバラに変化し、辺りはまるで小惑星帯の中を思わせる様相となった。しかもここの破片の軌道は、本物の小惑星帯より複雑なものとなっている。
だがこれがノヴァルナには、おあつらえ向きであった。ライフルの弾種を、エネルギーシールドを貫通できるが、八発と数に限りがある対艦徹甲弾に変えたため、誘導弾の迎撃には使用出来ない。それゆえに機動兵器の誘導弾を、この破片の海を利用して排除しようというのだ。
「いっちょ、見せてやるぜ!」
スロットルレバーを上げるノヴァルナ。目前に引き裂かれた砲艦の外殻が、鈍い銀灰色の光を帯びながら大きく回転して迫る。そして後方には四発の誘導弾。一気に操縦桿を倒してほぼ直角にダイブすると、『センクウNX』は外殻の表面から僅か数メートルの距離を飛行。ヘルメット内には衝突警戒警報がけたたましい。突き出たフレームに機体のショルダーアーマーが僅かに接触し、火花が散る。すると次の瞬間、誘導弾の先頭を行く一発が、外殻に近付き過ぎて激突し爆発した。それに巻き込まれて、後続する三発も追尾センサーが破損、明後日の方向へ飛び去る。
そこへロックオン警報。だがノヴァルナには、他の警報音も含めて聞きなれた音だ。「おうよ!」という声と共に機体を捻らせると、ギリギリの位置を機動兵器の主砲ビームが通過する。二隻の砲艦が纏めて串刺しにされ爆発を起こした.砲撃をかわされた機動兵器は、第三波の誘導弾三十発を発射する。それに気付いたノヴァルナは、端正な顔をしかめて機体のコースを変更する。
「ったく、大売出しかよ!」
バックパックの背後に二つ、三つと重力子の黄色い光のリングを連続発生させ、『センクウNX』は速度を上げた。砲艦の二隻が爆発し、破片の数が増えたこの状況では危険な行為である。だがそれをやるのがノヴァルナだった。破片の海の中で『センクウNX』を操り、“α”“β”“Ω”…と、文字を描くように急旋回を重ねていくと、その都度、幾つかの誘導弾が破片に激突して数を減らしてゆく。
コクピットの全周囲モニターには、急速に距離が詰まる無数の破片。衝突の危険性がある破片が赤色に枠取りされるが、その数は二十や三十ではない。それらの破片の個別の動きは、『センクウNX』のセンサーとサイバーリンクした、ノヴァルナの意識が知覚している。つまりはそれを回避できるかは、ノヴァルナの瞬時の判断と、反射神経次第だ。とその時、目の前で破片同士が激突して軌道が変わった。片方の破片が火花を纏いながら、大きく回転して近付いて来る。回避は不可能と即断したノヴァルナはクァンタムブレードを引き抜いて、大きく振り抜いた。
「おおおおおっ!!」
裂帛の気合で一閃されたブレードは、『センクウNX』と衝突しようとしていた破片を真っ二つにする。その二つになった破片で、さらに三発の誘導弾が爆発して消し飛んだ。
▶#09につづく
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