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第13話:烈風、疾風、風雲児

#09

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“とにかく今は、速度だ!!”

 無数の破片と残骸が視界を埋め尽くす中で、増速するノヴァルナの『センクウNX』。宇宙に風が吹くとすれば、今のノヴァルナは疾風、または烈風だ。砕けた砲艦の破片の間を、あれよあれよとすり抜けていく。機動兵器が主砲を発射するが、照準センサーがノヴァルナの速度について来られないのか、『センクウNX』の航過後の虚空だけをいたずらに貫くに終わる。すると『センクウNX』はとうとう、追って来る誘導弾を振り切ってしまった。追尾センサーが目標を見失った誘導弾は、あらぬ方向へ飛んでいく。

 しかもノヴァルナは、闇雲に『センクウNX』を飛ばしていたのではない。その飛行コースを簡略化すると、敵の自動機動兵器を中心に置き、渦を巻いて接近していたのだ。対艦徹甲弾は距離を詰めて叩き込むのが、BSIユニットの対艦戦法の基本という考え方に則ったものである。

 ただ機動兵器は、距離を詰めて来た『センクウNX』に対し、今度は誘導弾ではなく、主砲を内蔵した二本のウェポンアームのそれぞれ四か所が開口し、中口径の連装迎撃ビーム砲塔を突き出して対処し始めた。あとを追って来る誘導弾と違い、未来予測した飛行コース上にビームを放たれるのは、この残骸の海の中では厄介な問題なはずだ。回避で飛行コースが限られるからである。

 連射が利く中口径ビーム砲が立て続けに火を噴き、砲艦の残骸の間に姿を見せる『センクウNX』を狙撃しようとした。それらを必死に回避しながら、ノヴァルナは機動兵器の至近距離を漂う残骸の動きを探る。そこに間近で機動兵器のビームが破片に命中、すると残骸は爆発を起こした。それは砲艦の、陽電子誘導ジェネレーターだったらしく、そこを航過した『センクウNX』に陽電子の青白いスパークが絡みつき、機体が一瞬、制御不能となる。さらにスパークは機体とサイバーリンクしているノヴァルナ自身にも、苦痛を与えた。

「うぐ!…くぅッ!!」

 操縦桿を握る指に力を込め、遠のきそうになる意識をどうにか繋ぎ止めるノヴァルナ。すると、機動兵器のウェポンアームの至近距離を通り過ぎようとしている、大型の残骸が見つかる。砲艦の艦首部分だ。それが気付け薬代わりだった。

「コイツだ!!」

 目を見開き、独り言にしては大き過ぎる声を発したノヴァルナは、『センクウNX』を鋭角的な角度で急旋回、艦首残骸の裏側へ回り込む。機動兵器は八基ある、全ての中口径ビーム砲塔を、『センクウNX』が潜んだ砲艦の艦首残骸へ向けた。
 
 中口径ビームの集中砲火で粉々に吹っ飛ぶ艦首残骸。ところがその裏側に『センクウNX』の姿は無い。裏側に回り込んで間を置かず、後方へ瞬時に移動していたのだ。しかもコクピット内でノヴァルナが見据える全周囲モニターには、機動兵器のウェポンアーム八か所に突き出た中口径ビーム砲塔へ、黄緑色のロックオン表示がなされている。複数目標を一度にロックオンする、“イルミネーター”機能だ。ノヴァルナは艦首残骸の裏側に入る事で、敵の機動兵器の中口径ビームが同じタイミングで発射され、イルミネーターがすべての目標をロックできる時間を稼いだのだった。

「喰らいなっ!!」

 超電磁ライフルのトリガーを引くノヴァルナ。イルミネーター起動時の機体はセミオートになっており、『センクウNX』はライフルを握る腕の角度を、瞬時に変えながら八発の対艦徹甲弾を撃ち放った。

 対艦徹甲弾は機動兵器のエネルギーシールドを突き破り、全てのビーム砲塔を破壊する。そしてその時にはもう、『センクウNX』はポジトロンパイクを起動させて突撃を仕掛けていた。
 機動兵器は三度の使用で誘導弾を撃ち尽くしており、主砲以外の迎撃手段を失っていた。だがウェポンアーム自体を動かして照準する主砲では、BSIに懐に飛び込まれては対応できない。機動兵器は中央の本体部分を180度回転させ、重力子のリングを発して加速、離脱を図ろうとする。しかし加速性能で『センクウNX』を振り切る事は不可能だ。

おせぇ!!」

 叫んだノヴァルナは、『センクウNX』にポジトロンパイクを投擲させた。パイクの刃を覆う陽電子フィールドが、エネルギーシールドを中和化して機動兵器本体に突き刺さる。中央部を貫いたパイクは駆動部中枢にまで達したのか、重力子リングが明滅を繰り返し、加速を鈍らせた。その直後、機動兵器に追いつき、本体に取り付いた『センクウNX』が、パイクの刃の根元をひと蹴り。そしてそのまま柄を掴むと、本体中心部を深く斬り抉った。手応えを感じたノヴァルナは瞬時に脱出。本体破壊部から発生したスパークが、全身に纏わりついた機動兵器は、大爆発を起こす。

「しゃあっ!!」

 小さなガッツポーズと共に声を上げたノヴァルナは、もう一機の機動兵器と戦っている、ランとササーラがいる方向を振り向いた。するとそちらでも爆発が発生。一拍置いてランから連絡が入る。

「こちらフォレスタ。敵機動兵器を撃破!」




▶#10につづく
 
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