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第13話:烈風、疾風、風雲児
#00
しおりを挟むこの年、皇国暦1558年―――
三年前のミョルジ家によるヤヴァルト宙域侵攻で権勢を失い、ワクサー宙域にまで逃げ延びていた、元ヤヴァルト銀河皇国摂政のハル・モートン=ホルソミカは、新たに戦力を整え、銀河皇国の実権を握っているミョルジ家に対し、反撃の機会を伺っていた。
「ミョルジ家は昨年のタンバール宙域討伐で、戦力を低下させておる。再攻勢に出るならば、今年中がよい」
オウ・ルミル宙域を支配するロッガ家の本拠地、オウ・ルミル星系第二惑星ヴェイリスの、クァルノージー城を秘密裡に訪れているハル・モートンは、グラスの中の赤ワインを揺らしながら、向かい合うジョーディー=ロッガに告げた。
先にグラスに口をつけていたジョーディーは、鼻から息を抜いて口腔内のワインの芳香を楽しむと、軽く頷く。ただ返す言葉は、幾分否定的であった。
「キルバルター家も支援してくれますでしょうし、戦力的には問題ありませぬが…ク・トゥーキー家は動きますまい。となれば進攻は中立宙域。これに些か問題がございまして…」
「問題じゃと?…何が問題なのじゃ?」
眼光が鋭くなるハル・モートンにジョーディーは、歯痛でも起こしたかのように唇の端から息を吸い込み、周辺の宇宙地図のホログラムを立ち上げた。そして中立宙域の一部を指差して言う。
「この辺りを働き場としている、皇国軍の残党部隊が三年ほど前からおりまして、どちらにも付かぬ独立不帰の存在となっております…これが目障りにて」
「そんなもの、踏み潰せばよかろう」
「そう簡単に参りません。もし討伐する動きを見せれば、連中はミョルジ側へ逃げ込みますでしょう。そうなれば我等の動きは、中立宙域に入る前にミョルジ家に知られ、迎撃態勢を取る時間に余裕を与えてしまいます…ただ一方、ミョルジ側が動けば連中は我等につき、奇襲を防げるというわけにて」
それを聞いてハル・モートンは、忌々しそうに舌打ちして言い捨てる。
「何者じゃ、その残党とは?」
ハル・モートンの問いに、ジョーディーは空になったグラスに注ぐため、ワインのボトルに手を伸ばしながら答えた。
「なんでも、名を『ヴァンドルデン・フォース』とか………」
▶#01につづく
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