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第12話:風雲児あばれ旅
#19
しおりを挟む翌日。戦闘輸送艦『クォルガルード』は一旦、惑星ザーランダを離れて、再びユジェンダルバ星系の最外縁部に向かった。先の寄港地であった惑星ガヌーバを離れる際に連絡を取った、“援軍”と合流するためである。
「前方に重力場の変動集約を検知。空間転移の兆候」
オペレーターの報告に頷くマグナー大佐の視線の先で、ワームホールが発生し、まず探査プローブが出現。そしてやがて、転移先の宇宙空間に異常がない事を確認し終えた、複数の宇宙船―――1隻の大型タンカーと2隻の輸送艦、そして2隻の軽巡航艦と4隻の駆逐艦が密集して飛び出して来た。
それとタイミングを合わせたように、『クォルガルード』の艦橋にノヴァルナが姿を現す。ウォーダ家の紫紺の軍装の前をはだけさせ、袖を肘まで捲り上げた両腕をポケットに突っ込む行儀の悪さだが、それは以前はよくやっていた事で、これから会う相手に合わせたようにも思えた。振り向いたマグナー大佐が告げる。
「ノヴァルナ様。『クーギス党』の方々が到着しました」
ノヴァルナの呼び寄せた援軍。それはノヴァルナの協力者で、中立宙域を活動の場とする宇宙海賊『クーギス党』だった。マグナーの言葉に「おう」と短く応じたノヴァルナは、ずかずかと進み出て艦橋の真ん中に陣取る。
「先方より通信が入っております」とオペレーター。
「繋げ」
命じたノヴァルナは、その場で胸を反らして腕組みをした。艦橋中央に大型のホログラムスクリーンが展開され、一組の男女が映し出される。『クーギス党』頭領のヨッズダルガ=クーギスと、娘で副頭領のモルタナだ。
「よう、キオ・スーの」
ヨッズダルガがザラついた声で挨拶する。金属むき出し感のある、ゴーグル型のヘッドセットで頭部を覆った、身長二メートル超えの大きなサイボーグである。
「おう、ヨッズのおっさん。儲かってるか?」
不敵な笑みで尋ねるノヴァルナに、ヨッズダルガは口元を歪めて「まぁ、ボチボチだぜ」と答える。
彼等『クーギス党』は宇宙海賊を名乗ってはいるが、元はイーセ宙域のシズマ恒星群を支配していた独立管領家であり、自分達を放浪の身に追いやった仇敵のキルバルター家や、ロッガ家の輸送艦などを襲って、物資を奪う事以外は、略奪行為は行っていない。そしてノヴァルナにとっては、銀河皇国中央方面の情報をもたらしてくれる、重要な協力者でもあった。
通信スクリーンの中でヨッズダルガに続いて、娘のモルタナが口を開く。こちらは短めの黒髪に赤銅色の肌をした、グラマラスボディの美人で、ノヴァルナとは良い友人関係にあった。
「それがあんたの新しい艦かい? なかなか良さそうじゃないか」
「おうよ。あとで中を案内してやるぜ」
「じゃ、ランちゃんに案内をお願いしようかねぇ。今回の手付けの一部として」
女性好きで、『ホロウシュ』のラン・マリュウ=フォレスタに気がある事を、普段から憚らないモルタナの言葉に、ノヴァルナは“やれやれ…”といった表情で応じる。
「相変わらず、ブレねぇなあ。姐さんは」
「ブレて、あんたの妹や嫁を、口説いてもいいんだよ? 美人揃いだし」
「そいつは勘弁してくれ」
ノヴァルナをやり込めておいて、「ハハハッ!」と陽気な笑い声を上げたモルタナは、本題に入った。
「こっちの準備は整ってるよ。重力子の再チャージが完了したら、いつでも出られるってわけさ」
それに対しノヴァルナは、真顔に戻って告げる。
「わかった。とりあえずはヨッズのオヤジと、こっちへ来てくれ。いろいろと知りたい事もあるしな」
宇宙海賊『クーギス党』と、ノヴァルナの出逢いは三年前に遡る。当時はまだナグヤ=ウォーダ家の嫡男であったノヴァルナは、暗躍を続けるイル・ワークラン=ウォーダ家の様子を自分の眼で確かめるため、中立宙域を経由してイル・ワークラン家の領域に入ろうとした。
そこで知ったのが、惑星サフローを舞台にした、イル・ワークラン=ウォーダ家と、イーセ宙域星大名キルバルター家、そしてオウ・ルミル宙域星大名ロッガ家の間で行われている、水棲ラペジラル人の人身売買である。
その一方、水棲ラペジラル人の故郷シズマ恒星群の、かつての独立管領であったクーギス家は、これを阻止しようと、宇宙海賊『クーギス党』を名乗って活動していた。
彼等の目的に賛同したノヴァルナは、その窮地を救い、イル・ワークランとロッガ家の部隊を撃破。さらに保護した水棲ラペジラル人達のため、本拠地の惑星ラゴンの海中に居留地を建設してやった。
義理人情に厚い『クーギス党』はこれに感じ入り、中立宙域で活動を続けながらもノヴァルナの私兵的集団として、皇国中央方面の情報を収集したり、時には戦闘の支援を行っていたのである。
無論ノヴァルナ側も、『クーギス党』への援助を秘密裡に継続しており、両者の関係は、さらに深まっていると言っていい。
▶#20につづく
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