銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
183 / 508
第9話:退くべからざるもの

#09

しおりを挟む
 
 先に超電磁ライフルを撃ったのはミーマザッカだった。三発の銃弾が、宇宙の闇を切り裂く。だがその弾丸が目指した先に、ノヴァルナの『センクウNX』の姿はすでに無い。

 視覚ではついて行けない動き。ミーマザッカの『シデンSCーHV』のコクピットでは、コクピットの全周囲モニターにノヴァルナ機の移動位置―――上方へ、赤い矢印が警告表示され、ヘルメットのNNL端末から意識内にも、方向信号が送られて注意をそちらへ向ける。ミーマザッカはその指示に従って、即座にライフルを上に向けると一連射した。機体の予測反応速度は、従来の親衛隊仕様機『シデンSC』を上回る。

 しかし『センクウNX』の動きはそれ以上だった。不規則な急旋回を幾つも繰り返すスクロール機動で、ミーマザッカ機の射撃を悉く回避する。1589年のムツルー宙域で、同宙域のエースパイロットであった星大名マーシャル=ダンティスをして、「なんだコイツは!?」と歯噛みさせたノヴァルナお得意の回避操作だ。

「くそっ! 誰でもいい、ノヴァルナを取り囲め!」

 ミーマザッカの言葉に応じて、三機の『シデンSC』と四機の『シデン』、さらに六機のASGUL『アヴァロン』に七機の攻撃艇『バーネイト』が、一斉に『センクウNX』に向かって来た。彼等が『センクウNX』を撃破する事までは期待していないが、動きに制約をかける事が出来れば、仕留められる確率も上がるというものである。

 だが『ホロウシュ』の存在を忘れてはならない。特にラン・マリュウ=フォレスタとナルマルザ=ササーラは、通常ノヴァルナだけを護衛する役目を担っており、またそれを実践するだけの、高い技量を有している。

「ウイザード・ゼロスリー(ササーラ)。二手に分かれて殿下に近づく敵機を排除。油断するな!」

 ランがぴしゃりと言い。超電磁ライフルのトリガーを引く。速度の出る攻撃艇形態で『センクウNX』の頭を押さえようとしていた、二機の『アヴァロン』が直撃を喰らって爆散した。

「俺達二人でかよ」

 ノヴァルナ機に追い縋ろうとしていた『シデンSC』と、ポジトロンパイクの刃を打ち合いながらササーラは文句を言う。なにぶんノヴァルナを狙ってミーマザッカが率いて来た機体は、ノヴァルナと『ホロウシュ』達の三倍であり、さすがに他の『ホロウシュ』はそちらへの対処で手一杯だった。
 ササーラとて消極的な人物ではないが、そんな状況でも簡単に言ってのけるランに、やれやれと思うのも致し方ないところと言うものだ。
 ただそれでも、ササーラは三度目のパイクの打ち合いで、敵の親衛隊仕様機を斬り斃し、さらに脇を擦り抜けようとした『バーネイト』に、超電磁ライフルの銃撃を浴びせて撃破した。

 三倍の敵を相手取った乱戦の中、新米『ホロウシュ』のジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムは、ここまで三機のASGUL『アヴァロン』と四機の攻撃艇『バーネイト』を撃破していた。初陣では大戦果と言っていい。ただ当人的には、目まぐるしいBSI同士の高機動戦闘に翻弄されるばかりで、それだけの数の敵機を撃破したことを知ってはいない。

 そこへ隊内通信が飛び込んで来た。『ホロウシュ』の指揮を執っているヨヴェ=カージェスからだ。

「ウイザード・トゥエンティワン!」

「こ、こちらウイザード・トゥエンティワン!」

「おまえから見て十時の方向プラス三十度。敵の旗艦が、戦場からの離脱を図っている。残った重力子ノズルを破壊し、動きを止めろ!」

「えっ!?…は、はい。了解!」

 カージェスからの命令で、フォークゼムはコクピットを包む全周囲モニターで、指摘された方向を見る。しかしモニター画面には何も表示されていない。おかしいな…と思って今度はコンソール前に展開している、戦術状況ホログラムに目を遣った。するとそこには確かに、移動を始めたカルツェの旗艦『リグ・ブレーリア』が表示されている。

 しまった…と思うフォークゼム。単純なミスだった。全周囲モニターの映像は基本的に、自分が乗る『シデンSC』のセンサーやスキャナーが解析した映像のみを映し出している。それに対し、戦術状況ホログラムは母艦からの情報や艦隊全体の情報、そして『ホロウシュ』のショウ=イクマが乗る、電子戦特化型『シデンSC-E』が独自に得た情報を総合的に表示していた。

 親衛隊仕様機のBSIユニットは、中隊長以上の指揮官機でもあるため、量産型に比べ、膨大な量の情報が送られて来る。これを全て全周囲モニターにリンクさせると、かえって混乱するだけであり、機体操縦に支障をきたす。
 それを防ぐために親衛隊仕様機では、戦術状況ホログラムに表示される情報の中から、操縦者の好みに合わせて全周囲モニターにリンクさせる情報の、重要度レベルが選べるのだった。親衛隊仕様機で初めて実戦に出たフォークゼムは、この事を失念して、リンクを全て外したままだったのである。

 慌ててコンソールを操作するフォークゼム。敵旗艦の位置は最重要度レベルの情報だ。すぐに全周囲モニターにもカージェスが指摘した位置に、敵旗艦の位置が赤く表示された。ただそれでも対処は遅い。カージェスから叱咤される。

「グズグズするな、ウイザード・トゥエンティワン! おまえが敵旗艦に一番近いんだ。急げ!!」

「り、了解!!」

 たとえ初陣の人間であっても戦場は優しくない。特に主君の親衛隊であるなら、初心者などという言い訳は通用するはずかない。フォークゼムは右手で自分の被るヘルメットを一つ叩くと、赤く表示されたカルツェの旗艦位置へ向け、スロットルを全開にした。




▶#10につづく
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...