銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
162 / 508
第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫

#12

しおりを挟む
 


同時刻、イノス星系最外縁部―――


 キィーーーーンと甲高い重力子ドライヴシステムの唸りが響くコクピット。女性管制官からの発艦指示が、ヘルメット内のスピーカーに響く。

「ウィザード・ゼロワン。クリア―ド・フォー・テイク・オフ!」



「おう。ノヴァルナ・ダン=ウォーダ、『センクウNX』。『ウィザード中隊』、これより出撃するぜ!」

 叩きつけるような言葉と共に、ノヴァルナ専用の人型機動兵器が、総旗艦『ヒテン』から星の海の中に滑り出す。

 後に続いて離艦するラン・マリュウ=フォレスタとナルマルザ=ササーラの、親衛隊仕様『シデンSC』。さらにショウ=イクマの、電子戦特化型『シデンSC-E』とガラク=モッカの『シデンSC』が飛び出した。

 また総旗艦『ヒテン』を守る第1戦隊の、あとの五隻の宇宙戦艦からも、『ホロウシュ』の『シデンSC』を発進させる。そして今回は、新たに『ホロウシュ』に加えられた、元サイドゥ家の若手家臣ジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムも、以前にトゥ・シェイ=マーディンが使用していた機体を、フォークゼム用に再調整されて早速参戦していた。先の模擬戦で実力を認めたノヴァルナの抜擢だ。

「ウィザード・トゥエンティワン!…いやさヘルザー!!」

 まるで歌舞伎の台詞回しのように、ぱん!…と、いつも通り横っ面を張り飛ばすような勢いで、声をかけて来るノヴァルナに、これが正式な形としての初陣であるフォークゼムは、引き攣った表情で応答した。

「はっ!」

 硬い口調で応じるフォークゼム。ところがその直後ノヴァルナが発した言葉に、フォークゼムは思わず拍子抜けする。

「ま、ボチボチ。気楽にいこうや」

「は?…はあ」

 不思議な言葉だった…カーネギー=シヴァ姫の配下の、キッツァート=ユーリスが初陣でそうであったように、初めての戦いに臨む緊張で硬くなっていた、フォークゼムの全身の筋肉から力が抜ける気がする。これが星大名の威というものであろうか。

 緒戦ではBSI部隊総監のカーナル・サンザー=フォレスタの進言を容れ、待機状態のままであったノヴァルナと『ホロウシュ』の、『ウィザード中隊』であったが、この第二回戦では早くも飛び出して来ていた。
 サンザー率いるBSI部隊が、モルザン星系艦隊のBSI部隊との戦いに忙殺されている間に、カルツェ艦隊から発進したカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ率いるBSI部隊に、前衛部隊が圧迫され始めていたからだ。
 そこでノヴァルナは、艦隊戦の指揮を第2戦隊司令の女性武将、ナルガヒルデ=ニーワスに任せて、自ら『センクウNX』で出撃、シルバータのBSI部隊の迎撃に向かったのである。

 ―――とは言えノヴァルナとしても本音は、もうじっとしていられない!…が正直なところだった。『ヒテン』の司令官席に座っていると、艦隊の指揮を執っていても、つい意識がノアの方へ行ってしまい、集中力を欠くだけだからだ。事実、緒戦の不利な終え方は、総司令官のノヴァルナの指揮に、精彩が欠けていたせいだとも言える。
 であるならば、艦隊の指揮は冷静沈着が売り物の、ナルガヒルデ=ニーワスに任せて、自分は戦場にいた方がいいとのノヴァルナの考えだ。そしてこれは決して、ノアの事を忘れていようというのではない。むしろ戦場に身を置く事で、ノアとの距離が縮まるように感じる、ノヴァルナの独特な感性によるものであった。

 ノヴァルナの『センクウNX』が戦場に出て来た事は、すぐにカルツェ艦隊の知るところとなる。それはノヴァルナが『センクウNX』に、識別信号を出させたままでいるからだ。これもノヴァルナの流儀である。

「ウィザード・ゼロワン。こちらコマンドコントロール。敵のBSI部隊の一部がそちらへ接近中。警戒されたし! そちらからの方位、309マイナス14」

「ウィザード・ゼロワン、了解!」

 艦隊の重力子チャージはあと三時間足らずで完了する。それにザクバー兄弟から入手したノアの誘拐計画。こちらについてもカルツェ艦隊からは、何も言ってこない。誘拐に成功したならノアを人質に、降伏を迫って来るはずだからだ。

“まだだ。まだ間に合う!”

 ノヴァルナは自分に言い聞かせて、『センクウNX』のスロットルを上げた。センサーが敵のBSI部隊を捉える。数は約四十、ノヴァルナと『ホロウシュ』の数は二十一。倍の数であっても臆する事は無い。ノヴァルナは『ホロウシュ』に強い口調で告げた。

「連中を突破し、前衛部隊を援護。ゴーンロッグの隊を叩いたあと、カルツェの本陣を目指す! てめぇら、抜かるんじゃねぇぞ!!」

「了解!!」

 『ホロウシュ』全員が声を揃えて応答する。普段は個性をぶつけあっている彼等だが、この辺りはノヴァルナの親衛隊らしさだ。いや…今回は一人だけ、僅かにタイミングがズレた。新参のフォークゼムだった。思わずニヤリとするノヴァルナ。

 一方、艦隊指揮を託されたナルガヒルデ=ニーワスもそつがない。

「殿下の隊を援護しつつ、戦艦部隊で突破口を開きます。第1、第2戦隊、前進を開始して下さい」

 ナルガヒルデはこの時まだ25歳。星大名の嫡流でもない身分で、戦隊司令官としては異例の若さの抜擢だった。それが今度は、ノヴァルナが『センクウNX』で出撃している間の、全艦隊の指揮まで任されたのだ。さすがに年長者ばかりの司令官相手では、命令を出すにも敬語を使わずにはいられない。

「敵BSI部隊接近!」

 ノヴァルナの『センクウNX』の前方を行く、露払い役のラン・マリュウ=フォレスタが報告する。それを聞くノヴァルナの口元は、いつもの不敵な笑みを宿していた………




▶#13につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...