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第5話:燃え尽きる夢
#00
しおりを挟むノヴァルナ・ダン=ウォーダが艦隊を率い、罠を仕掛けようとしているシェイヤ=サヒナンを放置して、ロンザンヴェラ星雲から引き上げだした頃―――
宵の口を迎えたナグヤ城。まだ太陽が西の空を赤く染め残している時間だが、広い講堂は華やかな衣装を身に纏った男女が集まっている。今夜は惑星ラゴンの金融と植民惑星開発業界の主要人物を集めたダンスパーティーであった。その主催者は無論と言うべきか、ヴァルツ=ウォーダの妻カルティラである。
集まった男女は二百名近くはいるであろうか、その中で、光の当たり具合によって虹色に輝くシズマパールを装飾にふんだんに使用し、コーラルピンクのドレスを着たカルティラは注目の的であった。
「まぁ、お美しい!」
「素敵ですわ、カルティラ様」
経済界の貴婦人達が、カルティラを褒めそやかす。その中心にいるカルティラはまさに有頂天だ。これこそが彼女の望んでいたものだからである。そしてやはり、集まった人間の数は、以前に暮らしていたモルザン星系の首都惑星モルゼナの比ではない。一人の貴婦人がカルティラの首に巻かれた、いかにも豪華なシズマパールのネックレスの事を尋ねる。
「とても素晴らしいネックレスですこと。どちらでお求めに?」
カルティラはネックレスに右手の指先を軽く置き、上品な笑顔を向けて応じた。
「これは主人が買ってくれましたの。ナグヤへ移り住む記念だと言って」
それを聞いて周りの他の婦人達も口々に言う。
「ヴァルツ様が」
「仲がお宜しいのですね」
「羨ましいですわ」
貴婦人たちの言葉が半ば世辞である事が分かっていても、カルティラには心地よい。自分が追従口を聞ける立場にある事を、実感できるからだ。
するとそこに、やや離れた所から「カルティラ!」と声が掛かった。振り向くと招待客が頭を下げながら左右に分かれる中を、こちらへ歩いて来る夫の姿がある。
「まぁ、あなた」
カルティラは笑顔を浮かべて自分からも夫に歩み寄る。
「どうされましたの?…ご出陣中ではなかったのですか?」
「うむ。少々事情が変わってな。イル・ワークラン家の動きに、備える必要がなくなったのだ」
「そうでしたか」
「それで折角だから早く戻って、おまえと一曲踊ろうと思うてな」
「まぁ、嬉しい」
ヴァルツ=ウォーダが差し出す手をにこやかに取り、腕を組んで、ダンスを踊る招待客の中へ消えていくカルティラ。そして大きく背中が開いた彼女のドレスの後ろ姿を、少し離れた人混みの間から、きつい視線で見詰める給仕がいた。いや正確には給仕ではない、給仕に変装したカルティラの情夫、マドゴット・ハテュス=サーガイである………
▶#01につづく
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